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天転星生〜異世界本の虫(ブックワーム)〜  作者: キノ
第二章 王国編
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第十五話 孤独って怖い


 牢に入り一日が経過。

 依然動きはなく俺は一日の大半をベッドの上で過ごしていた。


 体の傷は回復魔術もかけたしゆっくり休んだからほとんど治った。


 だがなんというか、心に妙な孤独感を覚えた。


 —————


 その日の夜。

 結局今日も報告は無く、ただ寝てただけ。


 異世界(ここ)に来て気づけばもう半年経ってるのか。

 なんか、ほぼ家の中で引き篭ってネットに明け暮れてたあの日々を思い出すなあ。

 今は異世界(こっち)に来る前みたいだ。


 なんてことをぼーっと思ってたらいつの間にか涙が頬を伝っていた。


 (あれ…?俺泣いてんの?)


 しかし意外にも冷静で涙の理由はなんとなく分かってた。


 別に元の世界が恋しい訳じゃない。

 確かにゲームや配信はまたやりたいがな。

 見に来てくれていたあの数人の視聴者にも申し訳ない気持ちだ。

 俺も配信をするのが楽しかったからなおのことだな。


 毎日見てくれてコメントまでしてくれていた風邪引いたカカシさん…。

 あなたとは気が合う友達になれそうだったけどすまん…。


 冗談言ってれば涙が止まると思ったが逆にボタボタと溢れてきた。


 まあ、要するに俺は寂しいんだ、うん。


 今までこの異世界でやってけたのは俺の近くに誰かしらが居てくれたからだ。

 それは父と母であったり村長や、聖女様、村のみんながそばにいてくれたからこそなんとか一人でも生きてこれた。


 だがこの冷たい牢屋には誰もいない。

 薄暗い部屋を照らしてくれる人がいないんだ…。


 俺ってこのままどうなるんだろう。

 いや、まだ一日だけだろ。

 王子だってそんなに早くは準備を整えられないだろうし…。


 あの第二王子もグル.…という説も否めない。

 孤独は人を疑心暗鬼にするもんだな。


 「クソ…とまれよ…。」


 状況を整理したい。

 けど今は涙を拭くので手一杯だ…。


—————


 「大丈夫か?ボウズ。」


 突然声がした。


 その声の正体は今まで一度も口を開かなかった同じ房の囚人。ルームメイトである。


 「…すみません。うるさかったですよね…。」


 「良いんだよ。人が泣くのは当たり前だろ?何があったか話してみろよ。」


 声的におじさんかおじいちゃんか?

 でもなんかこの人の声…。

 すごい落ち着くな…。


 正直うるさくて怒鳴られるぐらいするかと思ったけどな…。        

 久々に人と話せて若干、嬉しさと感動ではっきよりは気分がマシになった。


 それに今は誰でも良いから話を聞いて欲しかった。


—————


 「ぼ…俺何も知らないままここに来ちゃって…でも一人でも頑張ったんです。

 村のために頑張って、守るために戦って、何より死ぬために戦ってきました。

 だけど俺はミスってしまったんです…。

 人を探すという頼みだったのに見つけられなかった…挙句子供二人まで危険に晒し、俺は捕まってしまった。


 男は俺の話を黙って聞いていてくれた。

 ただただそれが心地良かった。


 「俺が…もっと上手くやれてたら、もっと上手く立ち回れてたらこんなことにはなってなかったかもしれないのに…俺ってバカだ…。なんにもできやじない…………ごめんなさい。一人で泣いてつまらない話をしました。忘れて下さい。」


 見ず知らずの人に話す内容じゃなかった。

 ふと我に返り口を閉ざす。


 でもなんかスッキリしたような感じがする…。

 誰かに話すのって効果あるんだなあ。


 男も何も言ってこない。

 俺は今一度壁を向いてうずくまり、寝ようとした。

 

 が、近くで何かがギィと軋む音がしたが気にしないでおこう。


 目を瞑ろうとした時、髪に何かが触れた。

 

 な、なんだ?


 大きくて、ゴツゴツとしたそれは俺の頭をぐしぐしと撫でた。

 この温かさ…。

 これは俺が今一番求めていた人の温もりだ。


 「お前はな。何も悪きゃねえよ。強いて悪いヤツを挙げるならお前に頼り切ってる大人共だな。どんなにすげぇヤツでも一人でなんでも出来るなんてのはそう居ねえさ。周りのヤツらの助け合いがあってこそ人ってのは上手くやってけるモンだろ?」


 男の声は、低く、太く、やはりとても落ち着く声。

 

 優しいおじさんだな…。

 今は誰かと話してたい。

 囚人だなんて関係ないぜ。

 

 俺は振り返って彼と話をしてみることにした。


—————


 目に入ったのは、太い眉に村長と同じくらいたっぷりと蓄えた口髭、そして顔には深く刻まれたシワがあったがその目は活力に満ち満ちていた。


 「おお!やっと顔を上げたか!だがなあ。俺はお前がホシのヤツに聞いていた通りのガキじゃなくて安心したぜ。あのヤロウ、お前に色んなモン背負わせやがったんだろ?怒ってやらねえとな!」


 「え?村長を知ってるんですか?」


 ちょっと待て、ハツラツとした口調で話してるがこの男、さらりと重大事実を言った気がする。


 そうだ、村長の名前を出していた。

 しかもかなり親しげ。…誰?


 「知ってる何も俺がアルゴーだ!お前の事はホシとベラクレス様から聞いてたぜ。マナ、よろしくな!」


 「ええええええ!!???」


 目の前で二ヒヒとイタズラっぽく笑う髪ボサボサのおじさん(かわいくない)こそ俺たちが探し求めていた超重要人物の大工アルゴーだった…。


 「はっはっは!!驚くのも無理はない!よしお前が元気になったところでここを出るとするか!」


 「で、出れ…いや、僕がどうって言いました?」


 俺が元気になった?

 もしかしてそれまで待ってたのか…?


 「お前も考える時間が必要だっただろう?ベラクレス様からお前が回復するまで待てとの事だったからな。待っておったのだ!それに体は回復しても心はそうカンタンにはいかん。ほれ今はスッキリしとるじゃろ?」


 ニカっと笑ってくるアルゴーだが確かになんなさっきよりも全然スッキリした気がする。

 重かったものがストンと落ちてったみたいだ。


 「…ありがとうございます。どうやらお世話になっていたようですね。」


 「なに、礼には及ばん。誰かに話すことも大切だからな。それに礼を言うのはこっちの方だ。オシリスとアルルを守ってくれてありがとう。」


 頭を下げて感謝するアルゴー。

 

 そうだ…彼は二人の父親。

 だったら…まず言うべき事があったな…。


 「その件についてですが…二人はすみません…。僕がもっとしっかりしていれば危険に晒さずに済んだのですが…。」


 「気にするな。二人はまだ無事だとベラクレス様が仰っておった。それもお前がここまで守っていてくれたおかげだな!」


 「で、でも…。」


 申し訳なさでモジモジしてるとアルゴーが肩をバンバンと叩いてくる。


 い、痛え……。


 「気にするなと言っておるだろう!それに俺に畏まる必要はないぞ!お前も俺で良い!」


 「は、はい。」


 すごい元気な人だ。


 俺の心配や悩んでたことがバカバカしくなるくらいにな。


 「やはりアルゴーさんも第一王子に濡れ衣を?」


 「アルゴーで良いさ。無論その通りだ。イタイタスのヤツ、俺に兵士を襲ったとかで無期懲役にしやがってな。だがベラクレス様の計らいでお前と合流できたのだ。」


 「ベラクレス様が…。」


 …疑ってごめんなさい。

 俺はあの爽やかな笑顔を心に浮かべ謝罪をしておいた。


 「よおし話は終わりだ!ほれ!さっさとここを出るぞ。」


 「そう簡単に出れるのですか…?」


 「なんのために俺とお前を王子は同じ牢に入れてくれたと思っとる。」


 「確かに…。」


 当たり前だろ、みたいな感じで言われた。

 王子が脱獄を推奨してる時点で、もうかなり普通じゃないんだよなあ…。


 「よいせっと。」


 ベッドがあったところを退かして床の辺りを触っていたらタイルみたいなのが外れて階段が見えた。


 ええ…?

 これ、いささかガバガバすぎやせんかイタイタス君…。


 「それと…。」


 アルゴーが一言階段を降りる前に言ってきた。


 「これからは一人でなんでもやろうとする必要はないからな。何かあれば俺を頼れ。今から会いに行く仲間にでも良いがな。背中を預けれる友だと思ってくれても良いぞ。」


 「…アルゴーさん…!」


 この人が頼れるアニキのように見えた。


 そうだ…俺はもう一人でやらなくても良いんだな…。


 こうして俺たちは松明で照らされた階段を一歩一歩降りて行った。


 


 

 

次の話は二十時投稿です!


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