第十三話 イタイタス第一王子
俺と聖女様はドワーフの大工アルゴーの二人の子供、オシリスとアルルを連れてロゴスで情報収集をして彼らの父親を見つけ出そうとしていた。
しかし国に入りいざ行動しようとしたら先程の漆黒の鎧集団にいつのまにか囲まれてしまった。
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「大人しくしろ!お前たちは国の兵士に危害を加えた上に大罪人アルゴーの子供を匿っている罪がある!王宮まで来てもらおう!偉大なる我が国第一王子イタイタス様がお怒りだ!」
「国の兵士…?」
国の兵士だと?何言ってやがる。
お前らただの子供を捕まえる賊共だろうが!
「マナ…。あれを見て下さい…!」
耳元で聖女様が囁いた。
視線の先は奴らの鎧の襟元の辺り。
目を凝らして見てみるとそこにはマークが付いている。
「…!あれは…!」
オシリス達を助けた時にも見たマーク。
黒い鎧に赤く不気味に存在を主張するもの。
…そうか思い出した。
「ロゴス王家のマーク…!」
聖女様が頷く。
「あれは王家の紋章。しかもロゴス王国第一王子のものです。」
「となるとアイツらは第一王子の兵士ということですね…。」
「そうなります…。」
クソッ…。なんで俺は忘れてたんだ。
あらかじめロゴスについては予習してただろ…!
こんなバカなミスが無ければもっと上手くやれてたはずなのに…!!
それに…。
俺と聖女様にしがみついて震えるオシリスとアルルの姿を見る。
この子達だって助けられたはずだ…!
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「聖女様、僕が時間を稼ぎます…。その間に二人を連れて逃げて下さい。」
「ですがあなたはどうするのですか…?危険ですよ…!」
俺の提案に聖女様は心配の意を唱えた。
「大丈夫です。僕は村長様に死んでも聖女様を守れと言われています。なので絶対に聖女様を村に帰すまでは死にませんよ。」
頑張って笑顔を作ったつもりだがちゃんと笑えてたかな。
だが実際俺も死ぬつもりはない。
何がなんでも生き延びてやる。
「何をしている!!さっさとその子供を渡し、我々に従わないか!!」
近くにいた兵士が思いっきり俺の顔を殴ってきやがった。
「ッ痛…!」
なるべく問題ない風を装っているが鎧でぶっ叩かれたんだ。
死ぬほど痛えよ…。
「マナ…!…ごめんなさい。必ず生きてくださいね…!!」
それを見て聖女様は急いだ方が良いと覚悟を決めたようだ。
「それは聖女様もですよ。二人をよろしくお願いします…!」
ヤベ。言ってる最中に鼻血が垂れてきた。
顎の辺りをやられたからかな…。
少し体がフラつくような気がする。
まさか脳震盪でも起きたのか?
(あー…これはマズイな…。早くしないと俺が先に倒れちまう。)
「聖女様、合図したら行ってください。出来るだけ遠くへ逃げて下さいね。必ず僕も戻ってきます。」
コクっと頷き子供を連れて少しずつ俺から離れていく。
よし…。
俺は兵士たちの方を向く。
「あなたたちの第一王子は無罪で人を罰する愚か者なのですか?」
「貴様…!!!王子に対してなんたる侮辱を!!今ここで殺してくれる!」
「殺したら王子様の命に反する事になりますね。」
「…!おのれ!」
安い挑発だ。
しかし効果はある。
なるべく俺にヘイトを向かせ、聖女様たちを動きやすくする。
口では淡々と煽ってるが実は心臓バクバク。
飛び出した心臓でアイツらを攻撃出来そうなぐらいにはな。
ここでまた堂々と攻撃すればこっちが不利になってしまう。
騒ぎに気付き、街の人が徐々に集まりつつもある。
今求められるのはいかに穏便に奴らを無力化させられるかだ。
時間稼ぎもなるべく長くしたい。
「僕たちもただで捕まる訳にはいきません。そちらが手を出すようでしたらこちらも戦いますよ。」
''神書物''を発動。
本が俺の手に出現する。
「な、なんだそれは!!キサマ!武器をおろせ!
コイツらの反応を見て分かる通り脅しだ。
聖女様たちの姿を背で隠しつつ、俺が目立つように動く。
これで今、一時的にだが奴らの注目は俺に集まるだろう。
「3……2……!」
カウントダウンを始める。
三人への合図だ。
「全員!早急に奴らを捕えろ!!」
剣を抜いた兵士が一斉に俺の元へと襲い掛かる。
やるならここ、今だ…!!
「1!!今です!!」
叫んだと同時に魔術を発動。
火系魔術と水系魔術を組み合わせたものを使用する。
手のひらから一気に霧が発生して瞬く間に辺り一面を覆った。
「な、この霧はなんだ!?」
「奴め!!何か魔道具を隠し持っていたか!!」
兵士たちが動揺している中、俺の横を通り過ぎていく気配を感じた。
「ご武運をお祈りします…マナ…!」
三人は駆け抜けていき、姿を消した。
成功だ…良かった。
「あとは……。」
コイツらを長く足止めすること。
俺は魔力を手に込める。
(風系魔術+雷系魔術を組み合わせて…。放つ!)
指をパチっと鳴らすと霧全体がバチバチと放電し始める。
「ぐわああああ!!!???な、なにが起こってる!!??」
よし、作戦通りだ…!
霧の水分は電気を伝え、全体に電流を流す。
尚且つ、奴らの鎧は金属だから電気をよく通す通す。
目の前でかなりビリビリしてるのでダメージはデカそうだ。
「う…ぐぐ…!!」
霧全体に電気が流れているため、もちろん俺もダメージを食らう。
咄嗟に土魔術で生み出したサラサラの砂を火系魔術で精錬し、体の周りを薄いガラスの膜で覆っているが電流は絶え間なく流れ続ける。
いくら微量といえど、ずっと浴びれば相当なものになる。
ガラスのシールドで防御するのもそろそろ魔術を回すのがキツくなってきた。
さっきやられた脳震盪も相まって体の感覚がなくなりかけてきている。
ああ…クラクラする…だが奴らの動きは封じれている。
この電撃の中でも耐えてる時点でバケモンだけどな…。
「まだ…まだだ…。」
防御が追いつかなくなり地面にぶっ倒れた。
まずい…もっと時間を稼がないと…。
意識が…なくな…る…。
俺は目の前が真っ暗になった。
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「ええい!!キサマらはこんなガキ一匹にいつまで時間をかけてやがる!!アルゴーのガキどもを逃したじゃねえか!!」
「も、申し訳ございません!!王子!!」
一人の男の怒号が響き渡り、兵士たちが謝る。
この男…声だけで分かる。
とんでもなく偉そうな野郎だ。
俺はそいつの声で目が覚めた。
どこだここ…?
建物の中だろうがメチャクチャ内装が豪華だ。
壁には赤と金のタペストリーが立ち並び、床にはレッドカーペット、正面にはクソでかい王様が座るような椅子がある。
なんだここ…グリ○ィンドールみたいだな…。
だがなんか体に違和感がある。
口か?
「ん、んぐう!!」
なんと口に猿轡、腕は縛られていた。
完全に身動きを封じられてしまった…!
「なんだ?やっと目が覚めたか。クソガキ。テメェのせいで全てがメチャクチャだ!!殺してやるぞ!!」
先ほどの男が叫ぶ。
まずい…あのまま連れてこられたのか…!
とにかくここから逃げねば。
立ち上がり逃げ出そうとしたが横に控えていた兵士が一瞬で俺を捕捉し、組み伏せられてしまう。
「ぐっ…!!」
「偉大なる王子様の前ぞ!!頭を地につけ跪け!!」
頭を勢いよく地面に叩きつけられる。
いってえ……!!
顔を上げ、見上げた先にはあの男。
隣にはもう一人誰かがいる。
偉そうな男…。
血走った眼に荒い息遣い、テラテラと光り、撫で付けられたオールバック。
キラキラと輝く宝石に身を包んだ服装。
間違いない…この男が事件の犯人…!!
ロゴス王国第一王子…!
イタイタス・ロゴス!!
次話は二十時あたり更新します!
よろしくお願いします!