第十二話 助けた子供は…
うーん…。困ったな。
優しく手を差し出したは良いが盛大に怖がらせてしまったらしい。
いきなりすぎたか、失敗失敗。
笑顔を取り繕ってるが、ほんとは結構ショック。割と凹んでる。
しかしそれ以前に子供二人はここまで怯えさせていることに俺は怒りが湧いてきた。
なんなんだあいつら。
次会った時は容赦なくぶっ殺してやる。
…まあ油断したらぶっ殺されるのは俺なんですけどね…。
「マナ、ここは私に任せてください。」
聖女様が後ろからやってきて二人に近づいていった。
これなら安心だろうな。
「や、やめてよ…アルルに近づくな…!」
お兄ちゃんと思しき子が妹を庇っている。
良いお兄ちゃんだ。
そんな二人を聖女様は優しく包み込む。
抱きしめられた二人は目を開けて驚いていた。
「二人だけなのによく頑張りましたね。怖かっただろうに、とても偉いですよ。ですがこれからは私とそこにいるお兄ちゃんのマナが君たちを守ります。」
彼女の慈愛の手をもって頭を撫でられれば、怖がっていた二人も少しずつ緊張が解けている。
聖女様の手に撫でられれば安心感と幸福感が身を包む。
安心した事で堪えていた涙は二人の頬を勢いよく流れていった。
胸で声をあげて泣いている。
無理もないよな…。
見た感じまだ五、六歳といったとこの子供なんだ。
色んなものが怖くて仕方がないだろうに、あんな恐ろしい兵士を見たらトラウマになるに決まってる。
むしろ今まで耐えれていた方がすごいのだ。
強い子たちだな…。
二人が泣き止むのを待つとしよう。
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しばらくして二人が落ち着いてきた頃、俺たちは木陰に入り休憩を取ることにした。
「では改めまして…。僕はマナと申します。この方は聖女ステラー様です。君たちのことをお聞きしてもよろしいでしょうか?」
できる限り優しい声を努めて問う。
俺たちへの不信感は消えたっぽいが大丈夫だろうか。
「僕は…オシリス・ドワルスです。こっちは妹のアルル。…先ほどは助けていただいたのに失礼なことしちゃってごめんなさい…。」
心配とは裏腹にオシリスくんというお兄ちゃんはちゃんと話してくれた。
しかしオシリスか…。カッケェ名前だ。
「いえいえ、気にしていませんし怖がらせてしまった僕も悪いので大丈夫ですよ。」
「そうですよ!オシリス、アルル、よろしくお願いしますね!」
聖女様がニコッと微笑めば二人の表情は少し明るくなる。
さっきよりも雰囲気が良さそうだ。
(やっぱりこの人がいて良かった…。)
今一度聖女様に対しての尊敬の念が強まる。
そんなことを一人しみじみと考えていたら、
「あ、あのっ…!」
オシリスが口を開いた。
だがだいぶ慌ててるというかソワソワしてる。
「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。ゆっくりで良いさ。」
「えっと…はい。その、お二人に頼みたい事があるんです。」
どうやら頼み事があるらしい。
「頼みたい事、ですか?」
隣で聞いていた聖女様が聞き返した。
「さっき戦ってるの見て思ったんです…。マナさんってすっごく強いなあって。だから…良ければお父さんを助けていただけませんか!」
「お願いします!お姉ちゃんとお兄ちゃん!」
二人が頭を下げてきた。
なんというかすごい必死で、ことの重大性を感じる。
「もちろんですよ。僕たちは君たち二人を助けると決めましたからね。お父さんはなんと言う名前なのです?」
「アルゴー・ドワルスです。」
衝撃の答えが返ってきた。
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「あ、アルゴーってドワーフの大工だというアルゴーさんですか!?」
聞き返すとオシリスとアルルはきょとんとした顔をしていた。
「う、うん。マナさん、知ってるの?」
「僕たちは君たちのお父さんに用があって会いにきたんですよ。…聖女様、気付きましたか?」
「いえ…。アルゴーにはもちろん会ったことがありますがこの子達がお子さんだったとは…。あまりにドワーフの面影がなかったのでてっきり人族の子かと…。ですが確かにアルゴーの血を感じますので本当ですね。」
そう。一般的にドワーフとはガタイが良く、ずんぐりむっくりな体型をしているとされている。
それは炭鉱で働いたり、鍛治をするためだとされている。
しかしこの二人はそんな面影一切なく、なんならスラッとしていて成長したら美男美女になるだろうとも思う。
そんな彼らの父親はアルゴーでお父さんを助けてくれと頼んできた…。
もしかしてコレってかなりまずい状況なんじゃないか?
「オシリスくん、君たちのお父さんに何があったのです?」
すると二人とも顔を伏せたがオシリスが話してくれた。
本当にこの子は良い子だな…。
「お父さんは…さっきの黒い鎧の人たちに連れていかれちゃったんです…。なんにも悪いことしてないのに。それでお父さんは僕たちだけ逃がしてくれたんですけど捕まっちゃって…。」
「お兄ちゃんはアルを守るために頑張ってくれたの…!だけどアルが足引っ張ったせいで…。」
「そんな…。」
俺たちは息を呑んだ。
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この黒髪で臆病だが妹思いの少年オシリスと同じく黒髪でかわいらしい少女アルル。
二人と出会ったのは運命かもしれない。
この子達のために行動すれば村のためにもなる。
「よし…。」
この子達を助けよう。
「聖女様、僕はこの二人を助けます。よろしいですか?」
「ふふ。マナならそう言うと思ってましたよ。もちろんです!私にもできる事があればどんどん言ってくださいね!」
「良いんですか…?」
俺たちの会話を聞きオシリスとアルルが顔を輝かせた。
「安心して下さい。君たちのお父さんは僕と聖女様が必ず助けます。」
ポンっと頭を撫でれば二人は顔を見合わせて嬉し涙を流した。
森に差し込む木漏れ日がより一層零れる雫を輝かせている。
「ありがとうございます…!!」
「ありがとうお兄ちゃん、お姉ちゃん…!」
「任せて下さい。ではそうと決まれば情報収集ですね。情報は人の元に集まります。とりあえずロゴス王国に行きましょう!」
こうして俺と聖女様はアルゴーの子供オシリスとアルルを迎え、ロゴス王国に向かったのだが……。
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「コイツだ!!コイツを捕えろ!!」
入国早々、俺は捕まった。
明日も同じ時間帯で投稿します!
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