第九話 継承
あれから数日が経過した。
村は建物こそ全焼したものの、人々は俺たちの活躍があったおかげで死人は出ずに済んだようだ。
あの後、ロックスとの戦闘のせいで激しい疲労と魔力切れのせいでぶっ倒れてしまい、しばらく寝込んでた。
なんかこっちにきてずっと戦ってはぶっ倒れてる気がしないでもないが…まあいい。
目覚めた今も筋肉痛や怪我の名残で体のあちらこちらがビリビリするような痛みに襲われ、自由に動けん。
クソ…。もうあんな強いヤツと戦いたくはないものだな…。
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あのかつてないほどの強敵ロックスについて聖女様と村長に話を聞いてみた。
そこで分かったのは彼が''武人''であったという事だ。
敵という立場にありながらむやみな殺生はせず、自分が認めた強者には敬意すら払う男。
だからあの時あんなに褒めてくれたんだな。そんな人に認めて貰えるなんてちょっと嬉しい。
村長とロックスはお互いを認め合ったライバルで、聖女様も敵ながらロックスには一目置いていたようである。
そんな彼が今回ここまでしたのはロックスの主君、つまりこの世界に君臨する三体の王の一人、魔王の命なのだとか。
ちなみに、残り二人?二体?は竜の王''竜王''、人の王''神王''らしい。
魔王は魔物の王なんだって。
なぜこの村が襲われ続けるのかは分からない。
だがロックスクラスのやつがそう何回も来たら間違いなく俺たちはここを守れなくなってしまう。
これ以上何も起こらない事を祈りたいが、もっと強くならないといけない事を肝に銘じておこう。
だってこのままじゃ俺が死んじゃう…。
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「おはようございます。お二人とも。」
俺は館にある村長の部屋の扉を開けた。
「おはようございますマナ。体はもう大丈夫ですか?」
「おかげさまでこの通り良くなりました。村長様の方はどうですか?」
「はっはっは。私は心配されるほど弱っちゃおらん。大丈夫じゃぞ。」
「良かったです。」
今日はこの二人に呼び出されたので痛い体を歩かせ、馳せ参じたのである。
村長はベッドの上で、聖女様はその隣で果物を剥きながら座っていた。
うーん流石聖女様、優しい。
「ではマナ。今日あなたを呼んだのは話すべき事があるからです。あ、これ良かったらどうぞ。今朝採れたばかりなのでとても美味しいですよ。」
もぐもぐしながら果物が並べられた皿を手渡してくれた。
しかし片手にはナイフを持っている。
なんかこれは…危ない気がする。
「ありがとうございます聖女様。…しかしそのナイフは置いといた方が良いかもしれません。」
「え?」
その瞬間、ナイフは手から離れ地面へと落下していく。案の定落としたのだ。
予感的中…。
予想通りだったのでささっと空に舞うナイフを優し〜く風魔術でふわっと俺の手まで運び、キャッチした。
「全く…。マナにすら心配されとるじゃないか。気をつけるんじゃぞ。」
「うう…すみません二人とも…。」
村長の言葉に聖女様はあたふたしながら涙目になっている。
ここで俺はフォローができる男。
ゲーマーなのでもちろんギャルゲーもプレイ済みだ。
「大丈夫ですよ。僕たちが守れば良い話ですし。それにかわいらしくて僕は好きですよ。」
実際、聖女様の容姿はカンストしていた。
それにこの性格。
多分、俺の世界にきたら可愛さだけで世界を掌握出来てしまいそうだ。
「か、かわいいなんてそんな…!」
「こら。あまりステラーを褒めすぎるではない。ほれ、キャパオーバーしとるじゃろが。」
怒られた。
聖女様の顔、めっちゃ真っ赤になってる。
あんまり褒め慣れてないのかな?
「…心に留めておきます。それで村長様、話というのは?」
「うむ。お主には話しておこうと思ってな。私とステラーについてを。お主も疑問に思い始めておったころじゃろ?」
「い、いえそんなことは…。」
「かかか。遠慮する事はない。それにお主は知っておくべきだと判断したのじゃよ。では話すとするか。」
ごくり…。
正直この二人は謎が多すぎる。
知りたい事は山ほどある。
村長のあの凄まじい力、この前見た聖女様の謎の魔法。
本を見ればきっと書いてあるだろうが、こう言うのは出来れば本人の口から聞きたかった。
「…お願いします。」
「うむ。」
村長が頷くと話が始まった。
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「私はかつて、''勇者''と呼ばれておった。人類最強と謳われ幾多もの戦場を駆け巡り、戦い続けたさ。魔物に魔人、はたまた我らに仇なす人間ともな。そこで私と共に戦っていたのがステラーじゃ。」
「なるほど…。やっぱり村長様と聖女様は古くからの友人だったのですね。」
「はい。ホシと私は幼い頃に出会いましたからそれ以来はずっと一緒でしたね。」
村長が勇者、というのはロックスも言ってたから気づいてはいた。
まあ要するに村長と聖女様は、ヒン○ルとフリー○ンをイメージすれば分かりやすい。
ただ勇者の力…とは一体なんなんだ…?
あの戦いを見ただけでも村長はとんでもなく強い。
多分、俺が戦っても瞬殺されるだろう。
しかも恐るべきは彼の全盛期はもっと強かったという事だ。
''勇者''ってなんなんだ…?
「マナよ。お主が知りたいのは何か分かる。勇者についてだろう?」
「その通りです。…よく分かりましたね。」
見透かされてた。
俺も顔に出やすいのかな…?
聖女様に言えたもんじゃないな。
「はっはっは。じゃが、口で説明するのがこれまた中々に難しい。見せた方が早いだろう。こっちへ来なさい。」
「見せ…る?」
村長が手招きするのでベッドの方へ向かった。
ベッドを囲むようにして集まる。
「ではよく見ておくのじゃぞ。これが''勇者の力''じゃ。」
村長のかざした手から光が溢れ始める。
するとあの時見た、水色に輝くオーラが小さく渦巻く。
「そ、村長様…これは?」
「これが勇者の力の正体。魔力とはまた別の力。残念ながらこれぐらいしか説明しようのない代物なのじゃ。すまぬな。私はこの力を持って生まれたのじゃよ。」
そのオーラをじっと眺めた。
光は部屋を優しく照らしている。
この光は…以前見た。
村長がロックスと戦う時に用いた力。
そして俺が撃った魔法とも酷似している…。
「お主も見覚えがあるじゃろう。私も気づいたがこれはお主が撃った魔法の力の根源と全く同じものじゃ。」
「…!?」
村長はオーラを閉ざした。
水色に包まれていた部屋はいつも通りの朝日が照らす部屋となる。
「驚く必要はないさ。すまぬがステラーから話は聞いた。お主が''太古の魔術''を持っていることを。」
「黙っていてすみませんマナ…。」
「いえ、それは良いのですが…。それがなんの関係があるのですか?」
俺が使った魔法は勇者の力でした?
意味がわからん…。
「お主の持つ能力、''神の書物''は未だ全容の知れぬ未知の能力じゃ。もしかすると勇者の力さえコピーできてしまうかもしれぬ。あくまで憶測じゃがな。だが、そんな事は良いのじゃ。」
「…?と言うと…?」
「''太古の魔術''は強力じゃ。持つ者は神と同格視されるほどにな。しかしそれ故に危険も伴う。お主が''太古の魔術''、それも''神の書物''を持つと知れれば必ず数多の敵がお主を殺しにくるだろう。私はそれが心配でならんのじゃ…。」
「村長様…。」
この力が危険なのは薄々気づいていた。
だが、こうしてまじまじと伝えられると緊張と恐怖が俺の中でどよめき始める…。
「大丈夫ですよ。」
聖女様が手を握ってくれた。
震えてたのがバレてしまったのかもしれないが、この人の手は温かくてとても安心できる手だ。
「マナ、手を私の前にかざしてくれぬか。」
「?はい。」
突然だったので戸惑ったが言われた通り手をかざす。
「ありがとうマナ。お主には返し切れぬほど助けてもらった。村を二度も救ってくれた。だから私…俺にできる事はこれぐらいしかないが…。お主を守る事ぐらいはできるだろう。
村長の体から輝く勇者のオーラが再び現れるが、それは俺のかざした手へと集まってくる。
「村長様…?何を…!?」
「マナよ。お主は自分が思っている以上に強くならねばならん。でなければ自身の命を守れなくなってしまう。この力…勇者の力を今、お主に継承する。」
光は、完全に俺の中へと取り込まれた。
「村長様…!この力…俺に渡しても良いものなのですか…!?村長のお身体は…。」
「問題などないよ。はっはっは…。お主とようやく本気で話せたような気がするよ。」
村長の顔はどこかスッキリしていて清々しい笑顔だった。
こんな顔見たら…もう何も言えねえよ…。
これ以上口出すのはこの人の覚悟を踏み躙ってしまう気がした。
「…ありがとうございます。村長様…!」
「良い良い。では私からの話は終わりじゃ。次はステラーからじゃ。」
「はい…!」
自然に込み上げてきた涙をゴシゴシと拭き聖女様へ向き直った。
—————
「マナ…?私の話などまた今度でも良いのですよ?」
俺を心配してからか、聖女様が顔を覗かせた。
「いえ、大丈夫です…。聞きますよ。」
「そうですか…。では手短めにいきますね。」
こくりと頷くと話が始まった。
「先日、''太古の魔術''の話をしましたね?''太古の魔術''の持ち主は今まで一度もその持ち主を変えた事がありません、と言いましたが…。あなたの持つ能力''神の書物''は過去に別の所有者が存在します。」
「以前は変わった事はない、と言いましたよね…?」
「申し訳ございません…。あなたを危険に晒さないためと濁して言いましたがやはり本当の事を言った方が良いとなりまして。」
なるほど。
確かにそれもそうかもしれない。
中途半端に知ってしまっても危険なだけだな。
俺が頷くと話は再開された。
「過去の所有者は私の師であり、父でもある賢者様なのです。一体どういう理由がありあなたに渡ったのかは分かりません…。ですが何か良くない事が起ころうとしているのは事実です…。」
「……。」
「賢者様もそれを危惧しあなたを強くするよう命じた…。マナ、私も''太古の魔術''を持っています。」
「聖女様も、ですか…。」
驚いたが思い当たる節はあった。
聞いた事のない詠唱、あの魔物を一掃した強力な魔術、などな。
「黙っていてすみません…。私の能力は…。ってマナ!?」
少しフラついてしまった俺に聖女様が驚いて駆け寄ってきた。
「ごめんなさい…。大丈夫なんで続けて下さい…。」
「いえ、手短めにしようとしましたが長くなってしまいましたね。今日はもうやめてゆっくり休んで下さいな。」
「うむ。きっとお主の中の勇者の力が馴染み始めてきたのだろう。それにより疲労が襲ってくるのじゃ。今日は休みなさい。」
なるほどそういうことか…。
俺の中の勇者の力が適応しようとしてるってことね。
でも聖女様の能力、知りたかったなあ…。
「分かりました…。じゃあ僕は戻りますね…。」
「マナ、すまぬがこちらへ来てくれぬか?」
去り際、村長が俺を引き留めた。
近づくと耳元で一言。
「ステラーを…頼むぞ。」
村長の顔は…今までの覇気のある顔ではなく年老いた老人の悲しいそうな哀愁を感じる顔だった…。
「…はい!」
力強く言えば村長は微笑み、俺がドアから出て行くのを見送った。
村長の意志を守るためにも…俺はますます異世界で生き抜かねばならない…!
—————
「ステラー。」
「どうしました?」
マナが出て行き二人になった部屋。
「あの子を守り、あの子に守ってもらうのじゃぞ…。」
ホシの目は遠くを見据えていた。
その目は弱々しく、光を失いつつある。
「はい…!もちろんですよ…!」
友の覚悟にステラーは一粒の涙を流した。
私情で更新時間が早まりました…。
次の話は六時辺りに投稿します!
よろしくお願いします!




