表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

戦隊を辞めたい~俺を無能だと罵倒して追放してくれ!え?ダメ?~

「司令、ギルメンジャーを辞めさせてください!」


 部屋の中で男の声が響き渡る。椅子に座る初老の男の前で一人の若者が叫んでいた。

 大きな魔女鼻に縮れた髪。お世辞にも整っているとは言えない青年だ。感情任せに叫ぶ姿もどこか滑稽な悪役のようだ。

 彼はギルメングリーン。世界征服を企むマオギューンから地球を護るヒーロー、冒険者戦隊ギルメンジャーのメンバーだ。

 地球を護る使命を帯びている彼が何故? 司令の男は驚きながらも冷静にグリーンを諫める。


「落ち着きなさい。いったいどうしたんだね?」


「俺は……俺はもうたくさんなんだ。こんな所で働きたくない!」


「給料も働きに見合ったものを出している。何が不満なのだ?」


「こんな……こんなリア充の巣窟にいれないんだよぉ! こいつらいつもいちゃついてんだ! 俺だけ、俺だけ…………もう耐えられないんだ!」


 背後にいる四人を指差す。二組の男女、彼と同じく地球を護る戦士達。ギルメンジャーのメンバーだ。

 四人ともグリーンとは別世界の住人かのような美男美女。横に並べば恋愛漫画とギャグ漫画のキャラクターのように見えるレベルだ。


「レッドとピンク、ブルーとイエロー。こいつら付き合ってるんだぞ。俺だけのけものにしてるんだ。どーせ俺を邪魔だって思っているんだ」


「そんなの誤解だ」


 茶髪に凛々しい顔立ちの青年、レッドが叫ぶ。


「邪魔なんて思っていない。大切な仲間だって思っている」


「取り繕うなよ。俺は攻撃力の低いスキルしか使えない。戦闘員はともかく、怪人は倒せないんだぜ」


 自嘲するような笑いだ。しかしそんなグリーンの肩を黒髪に中性的な青年、ブルーが掴む。


「攻撃力だけが全てじゃないだろ。僕達はグリーンにいつも助けられているよ。なぁイエロー」


 ジャギーカットのボーイッシュな女性を呼ぶ。


「ああ。先月のクラーケン男だって、グリーンが背後から不意打ちしてできた隙のおかげで勝てたんだぜ」


「そんな事言いながら、透明化とか罠は卑怯だって思っているんだろ。SNSでもセコグリーンって言われてんだぜ。勇者パーティーに相応しくないって思っているんだろ」


「卑怯だなんて思ってませんよ。私達は地球の命運を背負っています。勝つためには手段を選んでいられません。……勇者パーティーってなんですか?」


 長く艶やかな髪の美人、ピンクが首を傾げる。

 四人からの評価は上々。誰もがグリーンの実力を認めているのだ。


「グリーン、君はギルメンジャーに必要な人材だ。世間の誹謗中傷については法務部が対応しよう。落ち着いて考えてくれないかな?」


 司令の落ち着いた声が部屋に響く。ゆっくりと、諭すような声だ。

 それでもグリーンは悲観し絶望しきった表情から変わらない。醜い。あまりにもブサイクな顔だ。


「お前ら、俺がどれだけ惨めな思いをしているのか知ってんのか? そうか、引き立て役がいなくなって困るんだろ」


「そんな事を思っていない! 俺だってグリーンが世間から笑い者にされて許せないんだ」


「そうだ。君がいいやつだって知っている。きっと君の事を愛してくれる女性は現れるさ」


 レッドたブルーの説得を受けてもグリーンは拳を握り敵意の目を向けている。


「なんで、なんでそんなに俺を褒めるんだよ! ここはボロ雑巾みたいに罵倒するべきだろ! そうやって嗤いながら追放してくれよ! てかそんなに評価してんならなぁ」


 キッとイエローとピンクを睨む。怒りではなくどこかすがるような瞳だ。


「この前言っていた女の子紹介してくれる話し。どうなったんだよ」


 二人の額に冷や汗が伝う。戸惑っているようにそっとお互いに視線を交わした。

 それだけで解る。きっとろくでもない結果だったと。


「えっと、今フリーの……」


「嘘をつくのか? やっぱり俺の事を仲間だなんて思っていなかったんだな」


 イエローが肩を叩き頷く。意を決したように一呼吸し、ピンクは言いにくそうに重々しく口を開いた。


「その…………泣いて土下座をしながら止めてくれと」


「こっちは、紹介したらあたしの家族を怪人に売るって」


 空気が一気に重くなる。

 グリーンは予想通りだと乾いた笑い声を溢す。誰がこんな醜男と、と言われるのが彼の評価だ。金持ちなら、ヒーローなら、そんなステータスも覆る。必死に地球を護るために戦ってきた、命懸けで頑張っても不細工に人権は無い。


「ブルー、これが現実だ。俺を好きになってくれる娘は人間にはいないんだよ……」


「グリーン……」


 悲しみ、そして微かに混ざる怒り。どうして彼がこんな目にと四人は唇を噛み締める。

 そんな空気をぶち壊すように、グリーンの泣き叫ぶような声が再び耳をつんざく。


「だから俺を追放してくれ! そうすれば美少女怪人が俺を見定めてくれるんだ」


「はぁ?」


 一気に空気が腑抜けた。


「隠された力が覚醒して、美少女ハーレムを作って俺は……なれる系主人公になるんだぁぁぁぁぁ!」


 唸り吠える。魂の雄叫び、煩悩の咆哮。我欲にまみれた願望だった。

 呆れたとしか言えない。あまりにもくだらない願いと妄想だ。


「…………あのさあ、怪人が俺ら人間と友好的な関係を築ける訳ないだろ」


「それに美少女怪人って。それ、何回も引っ掛かってるじゃないか。もう脱走怪人は信じないって言ってたでしょ」


「うぐっ」


 うんうんとイエローとピンクも頷く。


「そんな漫画みたいな事になる訳ないじゃん。可愛い女の子かと思ったら、中身ゲテモノで散々だったでしょ」


「ええ。そうやって人々を利用するのが怪人です。グリーンさん。陰キャを利用する怪人は許せなかったのでは?」


「うぐぐ」


 自身の言動と過去を思い出し言葉を失う。

 そうだ。四人の言う通り、怪人は骨の髄まで人類の敵だ。裏切り地球の味方のふりをした怪人なんて何人もいる。自分のような非リア充を弄んだ怪人もいる。美少女怪人なんて、そんな都合の良い存在は無いのだ。

 ある意味目覚めたのだろう、グリーンは落ち着きへたり込む。そんな彼を見て司令はため息をつく。


「やれやれ。そうだ、私の娘を紹介しよう。交際までこぎつけるかは君次第だがね」


「し……司令!」


 感激し目に涙を浮べる。天の恵み、救いの手だ。辞めたい気持ちも一転する。


「ははは。まあ自己肯定感が低いのを除けば、君の事は評価している。さて」


 善は急げと言わんばかりに電話をかける。数コールのうちに通話はつながりった。


「ああ、パパだ。たしか彼氏欲しいと言ってただろう? 実はグリーンが……」


『パパ』


 スピーカーから酷く冷たい声が聞こえる。


『もしかしてギルメングリーンとのお見合い話し?』


「お見合いってのは大げさだな。なあに、一回合ってみないか?」


『親子の縁切るから。あとママにすぐ離婚するように言っておくね』


 サーっと血の気が引いていくのが解る。同時にグリーンの心にも亀裂が走った。


「ま、待て冗談だ。そんな話しは無いよ」


『本当に? レッドやブルーなら大歓迎だけどさ。あんなブサイクに娘を売るなんて、最低最悪の毒親だよ。マジ最悪』


 一方的に切られる通話。静まり返る室内。司令は錆びた人形のように苦笑いをしながら振り向く。


「……すまない」


「チクショー!!!!!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 現実もこんなもんですよ。 例えばグリーン一人しか勇者がいなくて代わりも見つからないならモチベーション維持のためにいやいや股を開かせられる(自発的に開くでないところがミソ)女もいるでしょうけど…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ