8.公式ギルドへ
物語の展開をどうしようか少し考えていたので更新が遅れました。
ある程度、方針が決まりましたので、今までの話も読んで全体のバランスがおかしくないか等を見るのでちょこちょこ改変などがあるかと思います。
落ち着くまでしばらくお付き合いください。
「そう言えばギルドはまだ見てないかな?」
先ほどの勧誘で公式ギルドを見に行ってなかったことを思い出した。
“公式ギルド”とはNPC達が運営管理しているのがギルドのことで、兄達が所属しているようなプレイヤーが運営管理しているような非公式ギルドとは違うやつ。どう違うかは、非公式は支部が作れないとか……ま、まぁ、色々と違いはあるけれど、大きな違いは公式ギルドにはNPCが所属しているのだ。
そう、あの可愛いNPC達が所属しているのだ!(ここ重要)
ギルド毎に所属しているNPC達は違い、所属したギルドによってはNPC同士の関係も変わったりして、そう言う細かいのはめんどくさいって人は非公式にさっさと入っちゃうらしいけど、私は逆にそこがリアリティがあって良いなと思っている。
NPCのギルドはいくつかあって本部はそれぞれ大きな町にあるけど、支部ならこの町にもあるはず。
「たしか、公式ギルドは本部があるところには他のギルドの支部は二つで、本部がなければ同じ町に三つ……いや、四つだっけ?」
ちゃんと復習したつもりでもうろ覚えだ。こう言うところがテストで凡ミスする原因なんだよなぁ、とりあえず、そこら辺のNPCに聞けば分かる、はず……話しかけるのね。
誰が、NPC……?
「こ、こう言う時の攻略サイトーっ」
ふんふん、調べてみた感じ、NPCの中でもモブ中のモブはその町に合うような似たような服を着ていて、そこそこ重要なNPCは(故郷の町のモチーフはつけてるけど)個別の専用服を着ているようだ。
確かに見渡してみれば多くのキャラが同じのような服を着ている。調べるまで全然気づかなかった。えっと、ついでにこの町出身のNPCを調べたら“バニラ”って言うヒツジの男の子が居るみたい。
「バニラはなかなか有能なNPCらしいから会った方が良いっと。なになに、バニラくんは基本的にギルドに居るのね」
攻略サイトに載っている、青い髪の大人しそうなヒツジの男の子のスクショを見て思わずニンマリしてしまう。
だって、なかなかのイケメンくんだもん。例えそれがNPCだとしても、イケメンに会うのは楽しみ。しかも、この子は大人しい性格で交流がしやすいタイプらしい、最初に会うNPCとしては最高だね!
宿屋のお兄さん? あれは私の中でもモブです。
「ふふん、ふ~ん。えっと、バニラくんの所属しているギルドは“木漏れ日の歌”……へえ、元々は孤児院だったのを院を出た孤児達が定職につけないのを心配した院長が立ち上げたギルドなんだ、けっこう設定が作り込まれてるね。
“しかし、ギルドマスターは院長ではなく、ギルド設立してから院長の行方が分からない”……ここからはイベントになるのか」
せっかくなので内容は自分で見ようとイベント内容へのリンクはスルーして、攻略サイトに載ってる木漏れ日の歌への地図と現在地を見比べる。
「う~ん、マップ機能が無いのは辛いなぁ」
カブではマップ機能が職業スキルに含まれるらしく、覚えてないと表示されない。一応、町中だけだと地図と言うアイテムもあるけれど、現在地は表示されないし町の外は空白になるので攻略サイトを見ながらで十分らしい。
「ゲームで迷子になるのは嫌だから早めにスキル覚えたいなぁ……あっ、ここが噴水だから、次を右で……ワア」
攻略サイトとにらめっこしながら家と家の間の小さな路地を抜ければ、水路のない大きな広場に出た。
広場の床は様々な色のタイルで綺麗な花畑の模様になっていて、まるで本当のお花畑みたい。床のタイルに見惚れながら顔を上げると、丸い屋根の大きな建物がそこにあった。
「……ここだ」
攻略サイトの写真と並べてじっくり見比べる、クリーム色の壁に深い紫色の屋根、原色に近い黄色い窓枠が印象的な建物――確かに目的地で間違いない。
胸に手を当ててすーはーすーはーと数度深呼吸をしてグッと拳を握りしめる。
「よ、よし。いざ、公式ギルドへっ」
大きく開かれた薄紫色の扉をくぐれば、そこは――役所みたいなところだった。
右手には色々な依頼書らしきものが貼られた掲示板が三つ、右手には仕切りのついた個別対応用らしき窓口。そして、奥には右端から左端まで繋がった大きなカウンターとその向こうに等間隔に立つ受付の人。ここまでならギルドって感じだけど、中を歩く人に防具や武器を持っている人が殆ど居なくて、居るのは忙しそうに歩き回るNPCと私みたいなシンプルな服装の初心者らしきプレイヤーばっか……何だろう、小説とか漫画で見たような、酒場と一体になったギルドとは違って真面目って感じ。
「な、なんか、ファンタジーっぽくない……」
ガックリと肩を落として、目的はギルドではなくそこに居るNPCだと思い直して辺りを見渡す。
「あ、もしかしてあそこ?」
キョロキョロ見渡せば奥のカウンターの左端、そこに少しプレイヤーの列が見えた。もしかしてとそろそろ近づいてみればそこに私の探していたバニラくんが座っていた。
「ふわ……すごく、こんでる。どうしようか」
これを並んで待ってたら、またプレイ時間制限までかかっちゃう。どうしよう、どうし――あれ?
うろうろしながら、集まってるプレイヤー達を見ていたら、みんなカウンターに近づくと姿が消えていっている。どう言うことだろう?
「も、物は試し、だ」
そろそろと私もその列に並べば数分もしないうちに私の番になった。思っていた以上に並ぶ時間が短かったなと思いながらカウンターに近づくと視界の端で本をまくるアイコンが少し現れて消えた。
何だったんだろうと辺りを見渡すと先程まで周りに居たプレイヤーがどこにも居ない。
「もしかして、イベント?」
「ようこそ、木漏れ日の歌へ。こちらは受注受付カウンターです。ご用件をどうぞ」
「あ、はい!」
ニッコリと笑うバニラくんの声に我に返って返事をする。してから気づいたけど、用件を聞かれたのに勢いよく返事をするって言うのはおかしいんじゃないかしら、そう考えるとカッと顔が熱くなる感じがする。
「どうしましたか?」
「い、いいいえ、なんでも。あの、“困っているときいたのですが”」
心配そうにそう尋ねられ顔を上げれば、すごいイケメンがこちらを見ていた。ど、どうしよう。なんて答えれば良いか分からない。とりあえず、こう言う時の選択肢と口に出してみたは良いけれど、どういう意味なんだろう。
「困っている……もしかして、あの話を聞いていたのですか?」
少し眉を寄せて考えた後、バニラくんはパァァと顔を明るくした。
たぶん、何かしら情報を手に入れた前提での会話なんだろうな。内容が分からないので素直に頷きにくいけど、きっとギルド内でこれに関する話を聞けるだろうし、前後が逆になっても大丈夫だと言い聞かせて頷く。
「良かった……っ! すごく心配していたんですけど、誰も気のせいだろうと取り合ってくれなくて、本当にありがとうございます」
ニコニコと笑顔で嬉しそうにバニラくんがそう話し始めたら、周りの景色がぼやけていつの間にか私の目の前には大きな湖が広がっていた。
ビックリして上げた声が聞こえない。そうこうしてるうちにゆっくりと足は湖の方に向かっていってその中を覗き込む。
水底まで見えるくらい透き通った水に、バニラくんの姿が映っている。もしかして、これは回想とかかもしれない。そう思っていると彼は湖の中に手を突っ込んで、持っていた器で底の泥をすくった。
(うぐっ! 酷い臭い!!)
綺麗な水で分からなかったけど、すくった泥は単純に土とかそう言うものが溜まったのではなさそうで、グズグズに溶けた水草と何か生き物の死骸らしき小さく白い骨が混ざっていて、例えるならキッチンの排水溝とか生ごみの臭いによく似ている。
臭い臭いと、思っていたら何やら魔法陣らしき模様の描かれた蓋をしたことで臭いから解放された。
『……やっぱり、泥の中に何かが混ざってる』
臭いのせいで気づいてなかったけど、蓋に描かれた線の一部に色がついて何やら禍々しい模様が浮かび上がっている。
なんだこれ?とよく見ようとしたらまた景色がぼやけてギルドに戻ってきていた。
「実は……湖に魔物が住み着いているみたいなんです」
「魔物?」
「はい。魔獣じゃないじゃないか、と、みんなに言われたりするのですが、基本的に魔獣は水辺に住むことはあっても、水中に住むことはありません。それにこの町の湖は海と繋がっているので魔獣が住むことなんて……」
そこまで言うとバニラくんは目を伏せてしまった。
えっと、たしか、私が居るのは港町ならぬ湖町で、大きな湖の畔にある町、だったはず。
湖から引いた水で船が通る水路を作り、水車を回して小麦をひいてパンを作る(と攻略サイトに書いてあった)。そんな田舎町の大事なエネルギー源である湖の問題、それはとても重要だと思う。でも、それなのに彼だけしか気にしていないのはどうしてなんだろう?
不思議に思っていればちょうどよい選択肢が出ていた。
「“どうしてあなたはそこに気づいたのですか?”」
「そ、それは……お恥ずかしながら魔獣と魔物の違いについて研究してまして、冒険者としても近くで魔獣を観察できるからなりまして……あっあ、それで、その湖の異変に気付けたと言うか、その」
「へえーっ、すごいんだね!」
「っ!!? あ、ありがとう、ございます……」
素直に褒めれば、バニラくんは驚いた顔で頬を赤らめて照れた。ふむふむ、バニラくんはいわゆる研究者って感じなんだろうね。だから、他の人より湖の変化に敏感で、それを気にしてるけれど自分一人では調べきれなくてこのイベントがあるのか。
照れて頬をかくバニラくんを見て、相手がゲームのキャラクターだとしても助けたいと思ってくる。
「わかった、私は何をすればいい?」
選択肢を見るのも忘れて自然にそう問いかけてから慌てて選択肢を探していたら、どうやらAIはちゃんと読み取ってくれたみたいで、バニラくんは顎に手を当てて少し考えてからそうだっと何かを思い付いたのか奥に引っ込んでいった。
「ふう……ついつい相手がNPCだと忘れちゃう、本当にこのゲームってリアルだなぁ」
「お待たせしました! こちらを見てください」
丸められた大きな紙を抱えて帰ってきたバニラくんは、それをカウンターの上に広げた。そこにはちょっと歪な円の形をした湖とそれに沿うように作られた町――ハスイレンと書かれていた。
「ここから――ここまでが、僕らの住むハスイレンの町です」
「へー、少し湖の中に入ってるんだ」
「はい、そうです。それで、ここと、ここ。あと、ここの水質を調査したんです。そうしたらこの二ヶ所で、水質に異常が見られたんです」
ハスイレンの町を下にした時に湖の左、上、そして、右の場所を指差してから、今度は左と上を指差した。
「ですので、この辺りに異変があるのだろうと見当をつけてはいるのですが……」
そこまで言うとバニラくんは耳を垂らして暗い顔をする。えっと、選択肢、選択肢――。
「“見当はついてるのに、どうして行かないの?”」
「僕、戦闘は全然駄目で……これまでの調査も友達のニコに手伝ってもらってたんだけど。
彼、飽きっぽくてさ。チマチマ調査するのが面倒になったんだろうね、原因が湖なら攻撃しちゃえば良いって、いきなり湖に向かって強い魔法を使ったせいで、出禁になっちゃって……」
「それで、代わりに行って欲しいと」
「うん。……あ、一応、僕は期限付きだから、後から合流することは出きるから、一緒に湖の調査をしてほしいんだ」
バニラくんがそう言い終わると、ポーンと軽い電子音と一緒に目の前に二つの選択肢が現れる。
一つは“一緒に調査をしよう!”、もう一つは“もう少し考えさせて”。たぶん、二つ目はお断りだと思うからここは一つ目に決まりだよね!
「わかった、“一緒に調査をしよう!”」
「本当! ありがとう!!」
――バニラの連絡先を手に入れました。
「これ、僕の連絡先。まだ仕事があるから先に湖に行って見てきてくれる?」
はわ、はわわ。バニラくんの連絡先を手に入れてしまった。抑揚のない女性の声で連絡の取り方を説明される間、連絡先一覧に表示されているデフォルメされたバニラくんの可愛らしいアイコンを眺める。
兄達とNPCの連絡先は登録されている場所もそうだけど、表示されている見た目も大きく違うみたい。兄達のは名前とログイン中かどうかのマークと言ったシンプルなものだけど、NPCのはデフォルメされたアイコンになっていて、今は仕事中だからかペンを持ってピコピコと何かを書く動きをしている。とても、可愛い。
「うふふ、色んなキャラの連絡先を集めるのが楽しくなりそう! まずは、バニラくんのお願いを進めて仲良くなろっと!」
私は鼻歌を歌いながら湖の地図を確認し始めた。バニラくんとの個別イベントが終わっていて、他の人に鼻歌を聞かれていると気づいたのはもう少し後の事だった。