6.プライベートモード
KaleidoBridge内の魔法の属性分けに時間がかかりました。
――シャンシャン♪ターンッ♪
『ハピハピ♪ポーション♪』
――シャシャシャシャシャーンッ♪
『傷口に砂糖を♪』
――シャララシャランッ♪タタッタッターンッ♪
画面の中ではエプロンドレス姿のウサギのアバターをした同い年くらい(に見える)の女の子が可愛らしい声で歌いながら踊り、その後ろではフリルシャツにハーフパンツ姿の小柄なクマのアバターの子が、布を巻き付けた案山子みたいなものに向かって巨大なタンバリンを叩きつけている。
タンバリンが当たる度に案山子からはダメージエフェクトの星と一緒に攻撃音――SEが鳴る。どうやってるのか分からないけれど、同じSEでも音程が違ったり長さが違ったりでタイトル通り“ゲームのSEで演奏している”。
「す、すごい……この人達」
今日の分の学校の勉強をきりがいいところまで終わらせ、少し休憩しようと動画サイトのランキングでたまたま見つけたこの動画【カブのSEで】ハッピーポーション【演奏してみた】。カブの配信だと狩りとか探索とかゲームらしいものばかりだったので、珍しいなと思い見てみたけど……本当にすごい。
投稿者は“みゃるみ”、アバターにもみゃるみと出ているので踊ってるウサギの子のチャンネルみたい。気になって過去の動画一覧を見れば、アニソンを中心に演奏しているみたいで、ランキングに載った“ハッピーポーション”以外はあまり有名ってわけではないアニメのOP曲やED曲ばかりだ。
なるほど、最近話題のアニメ主題歌“ハッピーポーション”を演奏したことでランキング入りしたのか。
「うーん、これ、どうやって演奏してるんだろう?」
スマホでポチポチ検索してみたけれど、過去にあった音楽イベントやゲーム内イベントばっかが引っかかって、この動画のような演奏の仕方は出てこない。
かろうじて、楽器タイプの武器だと攻撃音が楽器の音になると言うのが出てきたが、演奏できるわけではなさそう。
「“気合いと根性で演奏してます(*ゝω・*)”……ううん、どうやってるのか気になるぅ!」
全ての動画には過去に生配信された動画である証拠のマークがついている。なので、編集で音を繋ぎ合わせて投稿したわけではなさそう……動画内で演奏の仕方の質問がついてるけれど、リアクションはこまめに付けているみたいだけどコメント返しはしてないみたい。
「う~ん、この人もカブのプレイヤーなら会えるかもしれないよね? 会えたら聞いてみよっと」
KaleidoBridgeを作った会社は今見ている動画配信サイトを運営していて、難しい操作とか高い機器とか必要とせず、この会社が出しているゲームなら簡単に動画を投稿できるので、簡単にゲームで有名人になれるし、ゲーム内で有名人にも会えるようになっているのだ。
ちなみにのんちゃんがしている配信もこのサイトで行われていて、なんと、公認マークを貰えている有名人の一人なの。
「そう言えば……」
のんちゃんで思い出したが、昨日はバタバタしてて“プライベートモード”の説明を聞いてなかったことを思い出して、攻略サイトで検索してみる。
「えっと……。
“プライベートモードは、SR以上の種族(カロプ、ユニン、ドラン)にある特別なモードで、カロプ族はプップ族、ユニン族はヒィン族、ドラン族はガロウ族に変身できるモードである”、おお、これならユニンってバレずに遊べ……ん?
“ただし、プライベートモードが適用されるのはセーフティーエリアの中でも町、村など一定数のNPCが暮らしている居住区エリアでのみ適用されるため注意が、ひつ、よ……う」
それは、意味があるのでしょうか……? 補足とかを読む感じフィールドで目をつけられて、そのままリスポーン地点の場所までストーキングされて待ち伏せがあったので、その対策として町に入る時にプライベートモードならそのままリスポーン地点への移動を選択できて、そこから変装した状態で町に出れば分からなくできるって機能みたい。
良いのか悪いのかちょっと分からないけど、町で迷子にならなそうで便利だなぁと思う。
サイトでもこの機能は便利だから全ての種族に適応されるべきだって意見があったみたいだけど、“犯罪行為を防ぐために追加した機能のため、実装は今のところ考えていない”と発売から一年目で発表。
でも、そのわずか半年後、“未成年のプレイヤーに対しては期間限定で実装を考えている”と内容を変え、三年目辺りで実際に未成年のプレイヤーが十八歳になるまでの間は使えるように変更されたみたい。
この話は成人年齢が引き下げられる前に起こった出来事だったので、当時はなぜ後二年――二十歳までじゃないのかってクレームが来てたみたいだけど、成人年齢が変わってからはそれもなくなったみたい。
「うーん、運営さんは犯罪行為とか厳しくて対応は早いけど、他はプレイヤーの良心に任せるって感じみたい?」
これまでの運営対応まとめがあったので読んでみた感じだとストーカーや盗撮みたいなネット犯罪にあたるものはすぐ対策するけど、アイテムの横取りやスキル事故とか他のゲームでもよくあるゲーム的な問題には対策はしないみたい。
でも、カブの世界にも一応、治安維持の役割をしている特殊なNPC達が居て、あまりにもプレイスタイルが酷いと“お尋ね者”と言う称号が付き、一定期間、町や村から出られなくなるみたい。
これは前に動画で見たことがある。アウトローな配信で有名な人のを見ていたらフィールドに出たとたん、空からフクロウみたいな獣人が現れて、元来た町の教会へと連れていかれ――『あなたに対して、多くの住人から苦情が来ています。タイジュ教徒としてあなたの行為は見過ごせません』――と、言われた後、“奉仕活動をして誠意を見せる”と言う選択肢だけの画面になり強制的に奉仕活動が始まっていた。
配信者はやり過ぎちゃいましたwとか笑ってて、動画のコメントもn回目の説教とか、恒例行事とか言われていた。
「捕まるシーンは怖かったけど、鳥さん、可愛いしカッコいいんだよね……選べない種族なのが残念」
スクロールしてサイトに載っている鳥獣人のスクショを眺める。
鳥は大きく分けて三種類。一種類目は教会で治療とかをしているペンギンさん、白と黒の神官服らしきものを男女共に着ていていつもニコニコしてる友好的なNPC。二種類目と三種類はお尋ね者を捕まえる鳥達で、動画で見たフクロウさんとワシさん。こちらは基本的に悪いことをした人を捕まえる時にしか現れないらしく、特定の場所に行けば会えると言うものではないらしい。
捕まった有志?達により、全員同じ姿ではなく町や村単位で何パターンかビジュアルが設定されているらしい。特殊イベントがあるNPCも同じようにいくつかビジュアルが設定されているから、鳥達も特殊イベントが実装される予定なのではと噂をされ……残念ながら今に至るまで何もない。
「そうだ、今日、カブする時はペンギンさん達を見に行こっと」
ストーリーを進めるのは大事ではあるが、ペンギンさん達が見れる教会は、初心者なら覚えなきゃいけない場所の一つなので寄り道ではないはず。
そんなことを考えているうちにちょっとのはずがずいぶんと休憩していたらしい、私は慌てて残りの勉強に取りかかった。
――意識同期を開始します……10……20……50……90……100%……同期を完了しました。
――データをダウンロードしています。しばらくお待ちください。
「あ、最初の部屋だ。良かった~セーブ間に合ってたみたい」
データが読み込み終わるまで体を慣らすために少しストレッチしてから、メニューを開き、早速プライベートモードを探す。
「えっと、その他から……」
――ダウンロードが終了しました。
「あ、これね」
ズラリと並ぶメニューからあらかじめ調べていた通りその他の欄を探していると、ちょうどプライベートモードを見つけたタイミングで読み込みも終わったみたい。
部屋にある姿見を覗き込めば、角はなく、瞳からも星の模様は消えていた。
「よしよし、ちゃんとヒィン族に…………何か、色合い的にシマウマっぽいな私のキャラ」
キャラクリの時はオオカミだったから気にならなかったけど、冷静に見ると白黒を反転させたシマウマっぽい。
シマウマって白地に黒い縞模様だから、小麦色の肌と黒髪に白いメッシュはその逆のようで、しかも馬の耳までついてるのだからシマウマをモデルにしたと言っても納得されそうな見た目だ。
「あれ? でも、シマウマって地肌が黒だってテレビでやってたような? となると……いや、忘れよう! カブの世界にシマウマはいない、シマウマっぽいのがいても、シマウマはいない、そう言う世界!」
世界観的に獣人も◯◯似なだけでその動物の獣人だとは書いてなかった、ヒィン族も馬に似た種族であって、馬の獣人ではない。
なので、私のアバターがシマウマに似ててもシマウマではないのだ。
「つ、ついでにステータスも確認しとこう」
カブではステータスは常に見れるわけではない。自室にある“姿見”か、私が種族をランダムにした特典でもらった“手鏡”みたいなアイテムでしか確認やパッシブスキルの変更等ができないのだ。
手鏡を持ってはいるけれど、失くしたり壊れたときのために、自室でしっかり旅の準備をする癖をつけておこう。
「えっとステータスは――
ロゼ《ユニン族:獣人モード》
召喚士Lv12
HP▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
MP●●●●●●●●●●
【幸運】
【――】
〖テイム〗
〖ボム〗
〖――〗
称 号:
――見事にがら空きだね……」
昨日は教えてもらいながらだったからね、今回はしっかり勉強してきたよ。まず、種族の横にあるのはどのくらい獣に近いかで今は一番人に近い獣人ってこと、他のモードになるにはメインストーリーを進める必要があるので今の私には関係のない。
次の職業の横のがカブでのレベル。初期値はLv10って書いてたけど二つも上がってる……何でだろう、ちょっと分からないけど、始めは上がりやすいのかもしれない。
HPとMPが記号なのは、HPはメイン属性、MPはメイン属性を表していて属性の欄を省略することで見やすくなるようにってコンセプトらしい。私的には見辛いけど。
勉強してきたことでステータスの見辛さよりも問題があることが私にも分かる。スキルが空白なことだ。
アクティブスキルはSPスキルポイントがないと覚えられないらしいから良いとして、パッシブスキルに空白があるのはまずい。
「幸運は種族スキルだったよね……職業のパッシブスキルが未設定。えっと、今、覚えられるのは」
空白のスキル欄をタッチすれば三つほどスキルが現れる。とりあえず、戦闘を召喚獣スタイルにするので一番合いそうなものが良いよね。
今いるのはスライムとミラーズマ。フェーブちゃんは青と黄って言ってたよね、青属性は他のゲームとかで言う水魔法が含まれるし、ジェリーは青かな?
水魔法を含む青属性は一般的なイメージ通り、回復に特化した属性なので攻撃には向かない。この中で攻撃に向いてるのは赤属性がメインの私と黄属性がサブのフェーブ、赤属性には火魔法、黄属性は風魔法がそれぞれ含まれているので、私とフェーブがメインで戦う感じかな? あ、でも、召喚士はモンスターを倒せないから私もジェリーと一緒にサポートする感じで考えて――。
「応援ってやつで良いかな? 味方の攻撃力を一定時間上げるみたいだし。そう言えば、召喚獣もスキル持ってるんだっけ」
攻略サイトでは武器などにスキルがつくように、召喚獣にもそれぞれスキルがつくと書いてあった。
レア度が低い武器や召喚獣は最初はスキルが一つで、武器は強化を召喚獣は懐くことで増えていき、逆にレア度が高いと最初から上限の三つ付いているが、固定で変えれない。
レア度が低いものにスキルを組み合わせるか、レア度が高いもので良いのが出るのをチャレンジするか、どちらが良いかはサイトによって意見が分かれている。大きなカブではレア度が低いものをカスタムして使いながら、レア度が高くてスキルが良いものが出るのを気長に待つのが最適解としていた。
「さてさて、うちの子達のスキルはどうかな?」
職業の項目をタッチすれば、私が従えてる召喚獣の一覧が出てくる。契約した順に並んでるようなので最初はジェリーから確認する。
「飛び付く……だけってことは最低レア度ってことね、まあ、スライムだもんね。相手に飛び付いて1~3ターンの間ダメージを与える……あ、確率で相手を気絶させられるんだ、ちょっとすごい。でも、失敗するとHP-1か、これはギャンブルだね。
次にフェーブちゃんは……じゃじゃ馬、悪食、共食い……三つってことは最高レア度! さすが裏ボス! あ、でも、このスキルって使えるのかな? なんか不穏な感じだし……」
赤属性は下級が火魔法、上級が光魔法。マークは△。
青属性は下級が水魔法、上級が氷魔法。マークは○。
緑属性は下級が土魔法、上級が緑魔法。マークは□。
黄属性は下級が風属性、上級が雷魔法。マークは▽。
水魔法は回復、光魔法は状態異常回復を含む感じです。
06/08:種族名が不適切、また、覚えにくかったので大幅に変更しました。