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5.叔父さんと律佳★

※途中から視点が変わり、性別不合のキャラが出てきます。

(今回は色んな意味でデリケートな内容です…)

「遅かったね、愛華」


 三人分の飲み物の準備をしていた叔父さんがこちらに笑みを向けた。


「杖を床に落としちゃって」


「そうか、杖を立てられるようなものを買おうか?」


「んーん、そこまでは大丈夫」


 私の席にある固定具に杖を固定してから席につけば、りっちゃんがご飯よそって持ってくる。それを受け取ってテーブルを見れば辛そうな匂いのする麻婆豆腐、今日はりっちゃんの好きな四川風らしい。


「じゃあ、みんな揃ったからご飯にしようか」


「はーい、いただきます」


 元気よく返事をして早速、麻婆豆腐を一口。ピリッとした味が香りとなって鼻に抜ける、普通は木綿豆腐を使うらしいけど、叔父さん家では絹ごし豆腐を使っているので舌触りは滑らかで美味しい。


「……辛」


「あら、蛍雪(けいせつ)には辛すぎたかしら?」


「いや、大丈夫だ律佳(りか)、ちょっとか……ケホッ」


「ちょっと薄めてみましょうか」


 ケホケホと乾いた咳をしながら大丈夫だと繰り返す叔父さんに対して、りっちゃんは小走りでキッチンに引っ込んでしまう。

 うーん、確かに今日は少し辛めかも? 私は激辛とかじゃなければ平気だけど、叔父さんは辛いの苦手だからちょっと厳しいのかも。


「叔父さん平気?」


「ンッ……大、丈夫、大丈夫だよ」


「――とりあえず、これで薄めてみて、無理そうなら別の用意するわ」


「せっかく作ってくれたのに、すまない」


 りっちゃんは薄いスープみたいなものを麻婆豆腐に入れて軽く混ぜ、叔父さんは申し訳なさそうに謝っている。こんな仲良しの二人を見た人は、みんながみんな夫婦だと思うだろうけど、実際は夫婦ではなくパートナー。理由はりっちゃん――律佳(りつか)さんが()()()()男性で心は女性の性別不合(せいべつふごう)だからだ。


 叔父さんとはママの葬式の時に初めて会ったし、りっちゃんとも叔父さんの家に来て初めて出会ったくらいなので二人の馴れ初めとかは知らない。

 性別不合も知識として知っているけど身近には居なくて、最初こそ戸惑ったけれど、りっちゃんは見た目も性格も完璧に女性だし、叔父さんはそんなりっちゃんを女性として扱ってるしで今ではそんなのは気にならなくなっちゃった。

 たまに、りっちゃんの前で着替えようとしてりっちゃんに怒られるくらいには、体が男性であることを忘れてしまうほど。

 

「んっ、これなら食べられそう」


「良かった」


「律佳は料理上手だな……私も見習わないと……」


「キッチンには入らないでよ? まぁた、鉄のフライパンを洗剤で洗われたらたまらないわ」


 ウッと罰が悪そうに視線を反らして麻婆豆腐を口に運ぶ叔父さんにりっちゃんはクスクス笑った。


「愛華ちゃんは大丈夫?」


「んっ! 大丈夫だよ」


「そう、良かったわ。そうだわ、気になっていたのだけど、今日は部屋で何をしていたの? 普段なら勉強について質問が届くのになかったから……」


「叔父さんに買ってもらったVRチェアでゲームをしてたの!」


「ん? 早速何かソフトをダウンロードしたのか?」


「うん、Kaleido(カレイド)Bridge(ブリッジ)ってゲーム!

 人間に動物の耳や尻尾がついた獣人ってキャラクターになって世界を冒険するやつ」


「冒険……それは、危なくないのか?」


「ちょっと蛍雪、ゲームくらいで目くじら立てないのっ」


「いや、しかし、VRでの冒険だろう? こう、血とか……」


「そう言うものは規制がかかってるから買えないし、そもそも、愛華ちゃんがそんなもの買うわけないでしょう!」


 眉を潜める叔父さんに対してりっちゃんはプリプリと怒る。


「まだそこまで進めてないけど、全年齢対象だから心配しないで」


「そうか……それなら良いのだけれども」


 説明したけれど叔父さんはまだ少し心配そうで口を出したげだが、りっちゃんの視線で口を閉ざす。その後は気を利かせたりっちゃんが話題を変えてくれたので私もそれに乗っかった。


「ご馳走さまでしたー」


「ふふ、お粗末様でした」


「じゃあ、部屋に戻って勉強するね」


「何か聞きたいことがあればいつでも相談しに来てくれよ?」


 食器を下げていた手を止めて叔父さんがこちらに声をかけるのに、ひらりと手を振って返事をしてから私は部屋に戻った。




――*――*――*――*――*――




「かれーどぶりっち?だったか、それはどんなゲームか律佳は知ってるか?」


 二人分の紅茶をテーブルに並べながら、蛍雪は不安そうにそう切り出した。


「ええ、知ってるわ。たしか、“ジャム猫”ってタレントがインタビューで最近はまってるって答えてネットで話題になってたわね」


 不安にさせないために彼女の前では堂々と振る舞うと宣言していたけれど、こう言うところは学生時代から変わらないのよね……そこに私が惚れたのだけど。


「じゃ……?」


「ほら、最近してるドラマの主題歌を歌ってる子、たしか、クラスメイト役としても出ていたんじゃないかしら?」


「ドラマ……って、たしか、学園物の? …………ああ、あの赤髪の彼か! そうか、ジャム猫って言うのか」


「蛍雪は本当にテレビに興味ないわね。彼、けっこう人気なのよ? 元々は動画サイトでチマチマと自作の曲を上げていたらしいのだけど、その一つがバズって今じゃテレビに引っ張りだこの売れっ子アイドルよ」


「そんなに売れているのか? やっぱり、曲が良いとかか?」


「歌詞は私も好きだけど、彼の場合、中性的な容姿とバイセクシャルで恋人が複数いるのを公表してるのが話題になってるの、色んな意味でね」


 多様性ってのを国が押し進めてる影響もあり、良い意味でも悪い意味でも視聴率がとれるのでしょう、彼は色んな番組で見かける。

 一度、彼のSNSを見たことがあるけれど、有名になれて嬉しいという言葉より、曲より自分ばかり取り上げられて悲しいと言うのを見たので少し同情してしまう。


「恋人が……複数……」


「多様性よ、多様性。本命は別にいるみたいですけど、相手がアセクシャル?でしたっけ、恋愛感情を持たない人みたいで結婚も付き合うこともできないそうよ」


「……」


 情報量が多すぎたみたい、蛍雪は睫毛を伏せて考え込み始めた。


「最近の子達は、そういう、恋愛?が多いの、か?」


「ぶふっ、ふ、ふふ……みんながみんなではないわよ」


「そうか」


 考え込みすぎて思考が斜め上に飛んでいってしまったみたい。思わず噴き出してしまい、声を震わせながら何とか答えれば蛍雪は小さくそう呟いて、半分ほどに減った紅茶に砂糖を落としてグルグルと混ぜ始めた。


「愛華ちゃんのこと心配なの?」


「それは当たり前だろう、姉さんの忘れ形見の……大事な姪っ子だ」


「忘れ形見……って、愛華ちゃんのお父さんはご健在じゃない」


 言い返せばムスッとして黙り込む。

 愛華ちゃんの怪我も、お母さんが亡くなったことも、お父さんのせいではないことを、蛍雪も分かっているのでしょうに……でも、こう言う心の問題は部外者がどうこう言っても変わらないのよね。


「そう言えば、愛華ちゃんのお父さんから、最近は連絡は来てないの?」


「……少し前に電話が来た。再就職先が決まったそうだが、まだ、安定した暮らしは厳しいそうだ」


「元の職場に戻るのではなかったの?」


「前は運送会社だったろう? 長く家を空けることが多かったから同じ運転業務のタクシードライバーに転職したらしい」


「そう……早く一緒に暮らせるようになると良いのだけれど」


「…………このまま引き取って私達で育てると言う手もあるだろう」


 愛華ちゃんを連れてきた夜にも言われた()()の話を持ち出され、不安そうに蛍雪に手を引かれて来た、小さな女の子を思い出す。



 フワフワとした癖っ毛に丸くて大きな可愛らしい瞳。自分の体のこともあり、そのくらいの年頃の女の子とはあまり親しくなかったからかもしれないけれど、同じ年頃の子と比べるとずいぶんと華奢で、今にも消えちゃいそうな儚さがあった。


――私の姪っ子で愛華と言うんだ……女性のことはよく分からないから、気にかけてほしい。


 そんなことを言って頭を下げた蛍雪を見て、オロオロしながら同じ様に頭を下げた女の子。

 あれから長いもので四年、愛華ちゃんは中学生になったけれど、ほとんど外に出ずにいるせいか背も低く華奢なまま。

 父親が入院、双子の兄達は進学で家を出ている、一人で暮らすことになってしまうからともっともらしい理由で蛍雪は彼女を連れてきたけれど、姉の子を自分の養子にしたいのだと私には分かった。

 確かに、彼女は可愛いし、安定した環境で育てることは良いことだと思う、でも――


「仲が良いなら、家族は一緒にいるべきよ……」


「愛華だって律佳に懐いているんだろ」


「それでも…………はぁ、私たちだけで話していても意味はないわ、決めるのは愛華ちゃん自身だもの」


 何度話したか分からない会話を繰り返しに少し頭が痛い。私は返事を聞く前に紅茶のおかわりをいれ、砂糖を二つ落として一回しする。

 同じ様な父子家庭で年の離れた姉と二人で育った蛍雪のことだ、父親しかいない苦労も、姉弟だけで暮らす大変さも分かっているのもあり、私たち二人で育てることを蛍雪は強く押している。


 もしかしたら、私が子供を生めないから、姉の子と言う血の繋がった子が欲しいのかも知れない。これについては、私は答えを知るのが怖くて蛍雪に聞いたことはない。


 考えて少し気分が落ち込み黙って紅茶を飲めば、蛍雪もこれ以上話を続ける気はないようで、おかわりを注いで砂糖を四つも入れてグルグルと混ぜて一気に飲み干し、もう一杯注ぐと今度は一口飲んでソーサーにカップを戻す。

 しばらくはカチャカチャとカップの擦れ合う音だけだったが、不意に明るい電子音がお風呂が沸いたことを告げる。


「……愛華に言ってくる」


「分かったわ」


 リビングから出ていった後、ノックの音と二人の話し声が聞こえる。しばらくすると蛍雪がリビングに戻ってきて、愛華ちゃんは後で入るらしいから先に入るかどうか聞きに来たみたい。

 最後に入ってお風呂掃除もするからと伝えれば蛍雪はそのまま着替えをとりに自室に向かった。

律佳のルビが何度か変わってますが、本名はりつかで蛍雪や愛華がりかと呼んでいる感じです。


蛍雪は二十九歳、律佳は二十八歳で、誕生日が来てないだけで二人は同級生です。

この二人がBLにあたるのか微妙なためタグ付けしました。

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