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4.カブの洗礼

――蜃気楼の怪物、それはKaleido(カレイド)Bridge(ブリッジ)が正規版として発表されて最初にあった()()()()()有名なイベント。


 ストーリーは簡単に言うとある村の近くでバジリスクが大量発生したのでそれを討伐すると言うもので、参加したプレイヤー達のイベントクリア率によってエンディングが変わるマルチエンディングらしい。


「β版ではハッピーエンド、バッドエンド、トゥルーエンドの三つしかなくてさ。基本的に参加者の三分の一がイベントをクリアしていたらハッピーエンドで、そこに裏クエをクリアしてる人が多ければトゥルーエンドになるって感じやったんやが……正規版になってから“メリーバッドエンド”ってのが追加されとってな……それが、胸糞悪うて」


 そう言うとのんちゃんはそっと視線を下げる。いったいどんな内容だったのかとみっちゃんに目を向けると、渋々と言う感じで続きを答えてくれる。


「……ミラーズマはヘビクイワシがモデルの特殊モンスターでな、バジリスクとの戦闘中に乱入してくることでしか出会えないんよ。

 そんで、ミラーズマはβ版にはおらんこともあって、ミラーズマの討伐がトゥルーエンドの裏クエじゃないかってみんな倒してたんやけど、それが……メリバ用の裏クエやったみたいでさ。


 イベント結果はメリーバッドエンド、バジリスクやミラーズマと言う強力なモンスター達が居なくなり辺りは平和になりました――が、モンスターで生計を立てていた村人達は生活できなくなり廃村になりました……って」


「頑張ったのに後味悪すぎ!ってなったわ」


 なんと言う罠。このゲームはモンスターをただ倒せば良いと言うわけではないらしく、色々考えないと最悪な結果になるらしい……ちょっと怖いゲームだね。


「ち、ちなみに、その村はそのまま廃村のままなの?」


「いや、このイベントはワールドイベントってやつで定期的にやるやつでな。エンディングがハッピーかトゥルーの場合は次回のイベントまでそのエリアは解放されたまま、それ以外だと立ち入り禁止って感じのやつやから、次の蜃気楼の怪物でハッピーエンドになって、今は解放されてて村もちゃんとあるで」


「ハッピーエンドじゃなくてトゥルーエンドやなかった?」


「せやっけ? まあ、ミラーズマの出現率が変わるくらいやからそこまで気にせんくても良くないか?」


「いや、そこは重要視せえよ戦闘職、ミラーズマ強敵やぞ???」


「俺の敵やないんで」


 つっこむのんちゃんに対して、みっちゃんはけろりとした態度でそう答える。裏ボスとか言われてるモンスターが敵じゃないなんて、みっちゃんすごい強いんだ。

 尊敬の眼差しで見つめていたら、ズイッとのんちゃんが間に入ってくる。


「まあ、ミラーズマはそう言う経緯があるモンスターでな、それでもええんやったら、召喚獣にどうやろうか? 騎乗可能で属性も青と黄で使い勝手ええしさ」


「のんちゃんが良ければミラーズマ欲しい!」


 イベントの内容は確かに色々思うところはあるけれど、このモンスター自体が悪さしてた内容ではないので私的には全く問題なしだ。

 ワクワクとのんちゃんを見ているとアイテム付きのメッセージが届いた。


「……メッセージ?」


「カブでは町中とかのセーフティーゾーンではアイテム交換はメッセージを介してでしかできんのよ。こう、ちょっと見せて~で持ち逃げされたりせんようにね」


「へー、外だと普通に手渡しできるの?」


「そうよ~、戦闘中とか薬渡せんと困るからな。

 ま、メインストーリークリアするまではそこんとこ制限かかっとるから大丈夫やけど、クリア後からは盗まれたりする可能性があるから気ぃ付けよ?」


 ニコニコとそう言いながら私の頭を撫でる動きをするのんちゃん。手の感触はないから、みっちゃんの言うようにスキルがないと触れられないみたい、痴漢対策とは言えちょっと寂しいな。

 色々話を聞く限り、カブのメインストーリーをクリアするまでは平和って感じのようだ。それなら、心配するのは置いといてまずは召喚石でミラーズマを仲間にするんだ。


「ね、ね、召喚石ってどう使うの?」


「召喚石に杖で触れれば使えるよ~、あっ、ミラーズマでかいから床に置いてなっ! ロゼが潰れちゃう!」


「確か、セーフティーゾーンでも召喚獣を出せたはずやから……ミラーズマの大きさ的に、念のため部屋の真ん中に置いてしよか」


 そう言われていそいそとメッセージから召喚石を受け取り、部屋の真ん中に置く。内側に青い光が灯る黄色の石の上には白色のひし形が浮かび、“ミラーズマの召喚石”と表示されている。

 バッグから杖を取り出して恐る恐るそれに触れれば“ミラーズマを召喚しますか?”と言う文章とハイとイイエの文字。ゴクリと唾を飲み込んでからハイを選ぶと、テイムを使った時のように杖の先が紫色に光り、召喚石の下に大きな魔法陣が現れる。


 ドキドキして見守るがスライムの時のようにリボンが出てこない、おかしいなと首をかしげているとみっちゃんが魔法陣の上に居たらミラーズマが出てこれないと苦笑された。

 魔法陣は入り口みたいな感じなのね、それなら、塞いでたら出れないわけだ。ちょっと照れつつ魔法陣から離れて、二人の傍に移動すれば、魔法陣から赤と青の光のリボンが現れて召喚石を包み込み。


「っ、眩し」


「なかなか圧巻やな~」


「うちのギルド、メインで召喚士してる人()いひんもんな」


 ワクワクドキドキしてる私の上では、ちょっと悲しい話をしているけど、今はそんなことはどうでも良い。

 リボンに巻かれた召喚石は真っ白な光を放ちながらだんだんと大きくなっていき、次第に見せてもらったミラーズマのシルエットになっていく。


――ピューーーィ


 フルリと頭を振れば光は霧散しミラーズマが目の前に現れた。一度大きく羽を広げ、長い尻尾を床を撫でるように揺らす姿はとても美しく、パチパチとこちらを見つめる瞳には知性が宿ってるように見えた。


「あ、ステータス画面が表示された……名前どうしよう」


「スライムにはジェリーってつけたんやろ? お菓子とかそういのにしたらどう?」


「うーん、そう考えてるけど……せっかくだから綺麗なお菓子にしたいんだけど浮かばなくて」


「――フェーブとかどう?」


「フェーブ?」


「ガレット・デ・ロワって言うお菓子に入ってる陶器の玩具なんやけど――」


 ふむふむ、簡単に言うとケーキでする宝探しの宝のことらしい。ミラーズマが乱入でしか出会えないなら、イメージと合うかも。


「じゃ、それに――わっ、やばっ、プレイ時間の警告が出てるっ!」


「え! ヤバいじゃん!! 早う名前つけっ、名前つけ忘れると召喚獣として登録されへんでっ!!」


「チュートリアルの後、どっかで寝た?」


「名前……つけれた! すぐ来たから寝てないっ」


「それやとリスポーン地点が登録されんから、俺ん部屋でとりあえず寝え? たぶん、ストーリー進行度的に最初の宿で始まるはずやから」


 慌てて名前を入力して二人に促されるままベッドに近づけば“記録して終了”と“記録して続ける”の文字が出たので終了を選ぶ。


――記録してます、しばらくお待ちください。


「なっなんか、文字出た」


「ちょっと起動と終了に時間がかかるからな、その間にしたことは記録されないから注意な」


「じゃあ、また! 遊ぶ時はメッセちょうだいな!」


「う、うん。二人ともまた遊ぼうね!」


 テレポートしてる時と同じようにくるくる回る文字から外には出れないようなので、その場で二人に別れを告げると次第に視界が暗くなっていく。


――意識同期の解除を開始します……10……20……50……90……100%……同期を解除しました。


――意識レベル確認中……オールグリーン、スリープモードに移行します。


 背もたれが起き上がり、前にずれていた座面と足置きがゆっくりと移動し、ベッドのようになっていたVRチェアは名前の通り椅子の形に戻った。カチッと音を立てながら頭にフィットしていた装置が外れたのを確認してから大きく伸びをする。


「んっ、んんーーーっはぁ! ずぅっと座りっぱなしってけっこう体固まるんだね……」


 グルグルと肩を回せば固まっていたのか肩が少し痛んだ。うう、まだ私、十三歳なのに肩凝りとかになったらどうしよう。

 腰を捻ったり、首を回したりと上半身のストレッチをしてから足を丁寧に揉んでほぐす。


「愛華?」


「は、はーい」


「そろそろ、夕御飯の時間ですよ」


「わかった、今行くーっ」


 ノックの音の後に叔父さんの声がしたので返事をしつつ、VRチェアから乗り出すようにして時計を見ればもう五時半を過ぎていた。

 お昼を食べ終わってから直ぐに始めたから四時間ギリギリまで遊んでいたみたい。危ない、もう少し遅かったら返事が遅れてゲームのし過ぎで注意されるところだった。


 少しヒヤリとしながら、VRチェアの肘置きに体重をかけて立ち上がり杖を探す。


「あれ、立てかけといた、はず……あった、あっ……っ!」


 どこに行ったのかと辺りを見渡すと立てかけておいた杖は倒れて、少し離れた床に転がっていた。

 それを拾おうとしてVRチェアから手を離し、屈んだところでぐらりと右足の力が抜けて倒れてしまった。


「いっ、つつ……自分の体の状態、忘れかけてたや、アハハ……」


 自虐的に笑いながら杖を拾う。皮肉にも普段使いなれた杖は、カブに出てきた初心者の杖と()()()()()()だった。


「やっぱ、最新のVRはすごいんだな、感触が全く(おんな)じだ。

 あーあ、これが魔法の杖ならなぁ」


 軽くて使い勝手が良いからとアルミ製のものを使っていたけれど、グリップだけでも木製のものに変えようかな、そうしたら、初心者の杖を現実でも使ってる気分になれるかも。

 そう、言い聞かせて気分を上げて、タンスの上に置かれた鏡を見る。


 うん、大丈夫、大丈夫。ちゃんと笑顔だ。


「愛華ちゃん? 調子悪いの?」


 やば、この声はりっちゃんの声だ。私が遅いから、叔父さん、りっちゃんを呼んできたんだ。


「大丈夫ーっ、ちょっと杖を転がしちゃって拾うのに時間がかかっただけーっと」


 杖をつきながら部屋の扉を開ければ、綺麗な黒髪のりっちゃんが居た。私の姿を見てそれなら良かったと口では言うけれど、その目には不安が見えている。

 うーん、叔父さんと違ってりっちゃんは鋭いからなあ……でも、私が言わない限り聞いてこないところがりっちゃんの良いところだ。


「ね、ね。今日の夕飯はなぁに?」


「ふふ、今日は麻婆豆腐と中華スープよ」


「おおー、今日は中華かー、楽しみ~」


 お互い本当に言いたいことは言わずに、夕飯の話をしながら二人でリビングへと向かった。

次は現実世界の話の予定です。

5/26:ミラーズマの魔法属性を変更しました。

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