25.クッキー★
久々の更新です
本編から一度区切りで現実世界になります
「オフ会、か」
勉強の手を止めて、昨日のやり取りを思い出す。あの後、話してみたら、より会ってみたくなったと言われ、KaleidoBridgeでするイベントのメールを送られた。場所はバスと電車を使えば行けなくもない場所で、近くに大きなショッピングモールもあって一人で行けなくもない。
「でも、一人で行くのはダメだよね」
机に立てかけてある杖を見つめていれば、視界の端に見えた時計が三時になっていた。
「ちょっと、休憩におりようかな」
大きく伸びをしてから杖を手にとり下へ向かえば、キッチンから良い匂いがしてきた。コソッと覗けば、ピンクのエプロンをつけたりっちゃんが何かお菓子を作っていた、こそこそと近づいたつもりだったけど、杖をつく音が大きくて、すぐに気付かれて振り返られる。
「あら、勉強終わったの?」
「んー、ちょっと休憩しようかなっておりたら良い匂いがして、それってクッキー?」
「ええ、ネットで見て可愛いから作ってみたんだけど、チョコにしたから溶けちゃったのよね」
そう言って見せられたのは、クマがチョコだったものを抱き締める形のクッキー。トロリと溶けたチョコが美味しそうだけど、たしかに見た目は絞め潰したみたいで怖い。
「味見してみる?」
そう言われ口を開けていれば、笑いながらりっちゃんが一つ食べさせてくれた。サクッとしたクッキー生地に溶けたチョコがアクセントになっていてとても美味しい、私はもっと甘いのが好きだけど叔父さん好みの味って感じで、二人の仲が良いのがわかって嬉しくなる。
でも、同時に、私がいることで二人に迷惑がかかっているんじゃって不安も少し出てきて、もう一枚、クッキーに手を伸ばしてパクリと食べた。
「ネットのやつはどんなのだったの?」
「こう、アーモンドを抱き締めてるのよ」
見せられた画面にはたくさんのお菓子作りの動画がブクマされていた。
「りっちゃんってお菓子作り好きだよね」
「そうね、将来はケーキ屋さんになりたかったのよ」
「今は薬剤師だっけ? 製菓学校ってのに行かなかったの?」
「そうね、色々と理由はあったけれど、お菓子作りは力がいるじゃない? そうなると男性のが向いてるかなと思ったの、それで薬剤師なら薬局とかドラッグストアとか色々とできるから行かなかったのよ」
飲んでる薬のせいで腕力が弱くなるとか聞いたことを思い出して、将来的に女性の体になることを考えて色々と計画していたんだと驚いてしまう。
私なんて小さい頃はテストの点とか運動会で勝ちたいとかそう言うの目の前にある小さな目標しか考えてなくて、夢に向かって何か計画したことない。
「愛華ちゃんは何かなりたいものとかあるの?」
ちょうど、その事を考えていて思わずビックリしてしまう。
「……大人になったら何になりたいとか、ちゃんと考えたことなかったかも」
「あら、そうなの?」
それ以上は何も言えなくて、俯けば、微かに震える両足が目に入る。
この足でも出きる仕事、座ってする仕事とか? 叔父さんみたいにプログラマーとか……でも、頭良い人しか向いてなさそう。
――今の、私には何ができるんだろう。
「愛華ちゃんなら何にでもなれそうだけど、何か好きなことはないの?」
「っ。す、き……うーん、食べるのは好き、かなぁ」
「なら、一緒に作ってみる?」
そう言って見せたのはたぶんクッキーの生地の残り、ちょっと楽しそうなので笑顔で頷き手を洗う。
ハートとか簡単そうな形を選んで生地にグッと型抜きを押し当てる。ちょっと力がいるけれど、できなくはない、グリグリと押し込んでいけば固い底にぶつかって止まった。
「……あっ、先っぽが欠けちゃった」
「ハートって簡単そうで少し難しいのよ、上が膨らみすぎて丸くなったり、下が欠けてしまったり――ほら、こんな感じにするの」
そう言って綺麗にくり貫かれたハート型を見る。
「……難しいんだね」
「そう、難しいのよ」
――*――*――*――*――*――
かけた生地をジッと見つめる愛華ちゃんを見ていれば、服が少し小さいことに気づいた。
外に出ないから要らないと上の服は欲しがらないけど、丈の長いスカートだけは欲しがって、短くなれば新しいのをお願いされる。チグハグな見た目が、まだ、心の傷が癒えていないことを現しているみたいで胸が痛む。
「どうしたの、りっちゃん?」
思わず頭を撫でてしまった手を止めれば、不思議そうに丸い瞳がこちらを見上げる。
「髪の毛邪魔じゃない? 結ぶ?」
「んーん、平気。そろそろ切ってもらおうかなあ」
そう言いながら前髪を触る彼女の頭にもう一度手の平を乗せて頭を撫でる。細く柔らかな黒髪は綺麗で、顔だって可愛いのに、バラバラに伸びた毛先が残念で仕方ない。
「そうだ、愛華ちゃん。次の休みに髪を切るついでにお出かけしない?」
「お出かけ?」
「そう、私が持ってるもの以外でも可愛い型抜きはいっぱいあるから、それを見に行かない?」
そうきけば大きく目を見開いたあと瞳が揺れる。
前に美容室に行った時、周りの目が気になるのかすぐに帰りたがっていたから、まだ長い外出は難しいのかもと頭をよぎった。でも、少しずつでも慣れていかないと、困るのは彼女だ。
「んーーー、じゃあ、あそこ、あのショッピングモールに行きたい」
そう言ったのは近くにある大型ショッピングモールだ。
たしか、あそこにも美容室はあったはず、よくイベントとかをしてるから人も多いのに、なんでそこを選んだのだろうと考えていれば、愛華ちゃんと目が合う。
「あのね、そこでKaleidoBridgeのリアイベがあるの」
「りあいべ? リアルイベントってやつかしら?」
「そう! 参加はね、抽選だから今からはムリだけど、ちょっと近くまで行ってみたいなって、会場には入れなくても買えるものとかあるかもだし――」
わたわたと動きながらそういう彼女は前よりも明るくてホッとする。VRゲームで現実との違いに落胆することがあるかもしれないと不安も少しあったけれど、やっぱり、外との繋がりがある方が彼女には良かったのだとあの時の自分の言葉を褒めていればキラキラした瞳がこちらを見上げた。
「――のんちゃんやみっちゃんとかは行けないらしいから、教えてあげたら喜ぶかなって」
「……ちょっと待って、のんちゃん? みっちゃん? お兄さん達と会っているの?」
見開かれた瞳がハイと言っているようなものだけど、彼女の口から直接きくまでジッと待っていれば、ゲームの中で何度もあっていると教えられた。
「大丈夫なの?」
「う~ん、と。始めは配信見て、ゲームだから大丈夫みたいで、それでVRチェア買ってもらって、せっかくなら会いたいなって」
どうやら、あの日からずっと会っていたみたい。
「そう…………蛍雪が聞くと驚くから二人の秘密ね」
「うん、秘密にする」
そんなことを話していれば、オーブンの余熱が終わっていた。
愛華ちゃんの作ったクッキーと私のを並べてオーブンに入れて、先に作っていた熊のクッキーをおやつに食べようと二人でリビングへと向かった。




