24.画面の向こう側★
「もー、急に二人とも消えてビックリしたよ」
「何かの、イベント?」
ホッとしたようにそう言う二人にクロさん軽く事情を説明している。どうやら、二人からみたらいきなり目の前から姿が消えたのでログアウトしたのかと色々探していたみたい。
ふーん、イベントに入ると他からは消えて見えるんだね。納得していたら、キャリ子さんが突然大声を上げてクロさんに詰め寄っていた。
「えーー! 新イベント? いいないいな、僕もそう言うの発見したい!」
「検証に参加する時間はないよ、明日も仕事だし」
「あー、収録……別日じゃダメ?」
「告知したから、駄目」
ふと聞こえた会話に、もしかしてテレビとかに出てる人なのかなと、二人をよく見る。
キャリ子さんは縞模様のある縞三毛柄のネコみたいな姿をしていて、タビーさんは茶色に縞模様のある茶トラ柄のネコみたいな姿。イベントに入る前は人型だったけど、今は獣化モードになっていて顔も服から出てる手足もモフモフの毛に覆われていて、ネコ……と、言うより表情豊かな着ぐるみみたい。
そう言えば完全獣化している人って初めて見たかもしれない。
「……モフモフ」
「ん? あ、そうだ、探す時に変身してたままだった」
そう言うと二人は何か呪文のようなのを唱えて最初に会った姿に戻った。
「獣化って初めて見たけどすごく可愛いんですね!」
「骨格が人間に近いのが残念だけどね~」
「ステータス上がるけど、強制でpvpモードになるからあんまり使いたくない」
「え? そうなんですか!?」
衝撃的な事実に思わず大声になってしまい、慌てて手で口を押さえる。
「あー、ネタバレになるから詳しく言えない。ただ、この獣化って言うのはpvp用の設定って感じが強いんだ」
「キャラクリで似せながら、獣化で顔隠してプレイする~とか思ってる人には残念だけど、ほとんど使ってる人いないんだよね。そのせいで使ってる人はpvp希望と言うのが暗黙の了解で、突然、バトルを仕掛けられることもあるんだよ」
「そう、なんですね……」
せっかくユニンというレアな種族になれたのに、獣化楽しみだったのに、すごく残念で落ち込んでいると、キャリ子さんとタビーさんが顔を見合わせてから、獣化した私にぷにぷにの肉球――じゃなかった、両手の平を差し出した。
「ここは人少ないし、肉球で元気出して? ロゼくん、獣化しても肉球ないもんね?」
「ありがとうございます」
そっとピンク色の肉球に指を伸ばす、想像していたのはプリンのようなプルプルと柔らかいもの――だったけど、実際は少し固めの、なんだろう、こんにゃく?みたいな触り心地。
ただ、なんか癖になるのでしばらくぷにぷにさせてもらっていれば、クロさんから声をかけられた。
「ごめんだけど、これからみんなでギルドに戻って良い? ギルマス今居るみたいだから、ちょっと相談したい」
「わかりました、僕は一度町に戻れば良いです?」
「いや、今 ここにいる全員に来て欲しい、なんか、ギルマスがロゼくんに会いたいみたい
内容は教えてくれなかったけど、怖い人じゃないから安心して、何かあれば通報してもらっても良いし」
「い、いえっ、そこまで心配はしてないです! 会ったこともないのに何でなんだろうなと思っただけなので」
わけがわからず、首をかしげていれば怖いことを言われ慌てて首を振れば、見慣れた招待状が差し出された。
「それじゃ、いきますか」
開かれた招待状から私を含むここいる全員が真っ暗な世界に吸い込まれた。
移動が終わって、急に明るくなった部屋に少し目を擦っていれば、こっちこっちとクロさんに手をひかれてギルドを案内される。
なんか、いっぱいNPC(?)みたいなのが居たクロさんの部屋から出て、階段をおりて、おりて、一階についたら今度は階段下の影になっている扉の中に入り、そのまま下へと続く階段をおりていく。
「ギルマスさんって、地下にいるんですか?」
「んー、何時間も居れない時とか、こうやって話し合いがしたい時とかは地下の倉庫にいることが多いよ」
「僕も一回入ったけど、よくわかんない荷物がいっぱいあって、その真ん中に応接場所みたいなのがあったね」
「あそこって確か、ギルド共有の武器とか装備の手入れ部屋だった、よな?」
「あー、ギルマスそう言う手入れ系?が趣味だから居る時はだいたい何か手入れしてるよ。根っからの社畜ってやつね」
三人の言葉に一度も染めたことのない真っ黒な髪に黒縁眼鏡をかけた叔父さんの姿が頭に浮かんだけど、叔父さん、ゲームより小説とかのが好きな人だから絶対あり得ない。
「どんな人なんですか?」
頭からはなれない叔父さんの顔を塗り替えるために三人に聞けばみんなバラバラな答えが返ってきた。
「――まあ、会えばわかるよ」
「……ずいぶんお早いのですね」
扉を開けた先、たくさんの荷物に紛れるように、一人のメイドさんが立っていた。
緑色のふわふわした髪に羊族の証であるクルンとした巻き角が埋まっていて、長い耳にかけた眼鏡の向こうはニッコリ糸目で、優しいけど怒ったら怖そうな見た目。
「ギルマス、さん?」
「ええ、私がこの大きなカブのギルドマスターです。
名前はご存知でしょう? 話も長くなりますから、どうぞ、おかけなさって」
「あ、じゃあ。失礼しますアイビーさん」
すすめられたソファに腰かければ、なぜか私を挟むようにしてキャリ子さんとタビーさんが座り、クロさんはお行儀悪く肘掛けにもたれて立っている。
そちらを一瞬だけアイビーさんは見たあと、机の上に三つのカップを並べた。
「せっかくなので紅茶でもどうぞ」
「ありがとうございます」
「単刀直入に言うわね、貴女、あああやキャリ子、タビーが誰なのか、ノンノン達から聞いて近づいたのではなくて?」
「誰、か?」
突然の言葉の意味が分からず、左右にいる二人をみるけれど、二人もクロさんも表情が分からない。
「もし、そうならば違反となって、キャリ子とタビーをネコスキーと一緒に除隊しなければならないの」
「私、二人が誰かなんて知りませんし、のんちゃんもそう言う秘密はちゃんと守る人です!」
答えに悩んでいればのんちゃんがペラペラと身内には口が軽くなるように言われて少し大きな声で否定する。その後、いや、あの姿を見られていたらそう見られてもおかしくない?と思ったけど、それはそれ、これはこれ、だ。
アイビーさんはそれを聞いて静かにカップを口につけて、優雅な動作でソーサーに戻す。興奮している私にも飲むようにすすめられ、一口飲めば、フワリと花の香りがした。
「ノンノンだけでなく、ミッチーからも聞いたところ、貴女はそこまで悪い子はではないとは思っていたので本人から聞けて安心しました。彼らが誰であろうと知ることも、もし、偶然知ったとしても、それを尋ねたりしないでくださいね?」
「それはもちろんっ」
「コネ入隊……と、呼んでいますが、こちらは現実世界で忙しくログインのできない人達用の特別措置なのです。
紹介者がその人達が起こした問題の責任を負うのですが、その中に、コネ入隊の人達の素性をギルド内外問わず知られてはいけないことになっていますの。
フレンドをなかなか作らなかった、あああや彼と繋がりのあるキャリ子やタビー、紹介したネコスキー、全員と繋がりが出てきたので心配しましたが、杞憂でしたわね」
「それは、成り行きなんですが、変な感じになって……すみません?」
私が謝る場面なのか少し分からなくなって少し語尾が上がったが、アイビーさんは謝罪をとめて、話はもう一つあるのだと口を開く。
「もう一つは、もうすぐ始まるKaleidoBridgeのリアルイベントの後にオフ会予定なのですけれど、参加なさるか聞きたくて」
「リアイベ……え? 私、大きなカブに入っていないんですけど」
「それは存じていますよ。大きなカブのオフ会と言うよりかは、一部、β版からの仲間や現実で繋がりのある人達で少し話をしてみたいなと言う軽い催しですの」
軽い、もよおし。そう言われても、とても困る。さっきは詮索しないでと言われたのに、今度は会おうだなんて繋がりが全然わからないし、それに、私はまだ未成年でこの人に会っていいのか相談しなきゃだし……。
困ってどうすればとクロさんの方を見上げれば、紅茶を飲んでいた手を止めてアイビーさんに向き合った。
「それってたしか、私やあああ達も参加するんじゃなかったっけ? 誘っていいの?」
「そうですね、そうなのですよね。ただ、こちらにも少し直接うかがいたい事情もありまして、それで小さな催しなら来ていただけないかしらと思っていますの。
こればっかりはゲーム内では話しづらくて」
どうしましょうと頬に手を当てるアイビーさんにクロさんは目を細めて紅茶をすすっている。
なんだか、ピリピリした空気にどうしようと視線をさ迷わせていたら、横からスッとクッキーが差し出された。見上げればキャリ子さんがクッキーを咥えて、こちらにヒラヒラと一枚差し出していた。
「えっと、ありがとうございます」
「ろーいたひまひ、て! お腹はいっぱいにならないけど、味がうっすら感じるし、ダイエット中には良いんだよね~」
「それ回復アイテム……」
「いーじゃん、この場合、回復必須でしょ?」
私を挟んで頭上で繰り広げられる会話を聞きながら一口かじる、体力は満タンですと言う無機質な声と共に口にほんのりと甘い味が広がった気がした。
「直接会うのダメー、の後に、でも直接会いたいー! なんて、困らせるだけでしょ。ギルマスさんは何が知りたいの? あれなら外でて、入室者制限すればいーじゃん」
「ですが、ゲーム内の記録には残ってしまうので……」
キャリ子さんに詰められたアイビーさんの視線がさ迷い、一瞬、私の足を見たのでピンときた。
「それって、私の足が悪いことと関係あります?」
私がそう言って紅茶を飲もうと手を伸ばせば、部屋に居る全員が固まった。
「かくし……あ、どうしましょう、記録に――」
「別に気にしてませんよ、事実ですし。足が悪いことに何か色々言ってくるのは嫌だったりしますけど、足が悪いのは事実ですし」
「そう……強いのですね」
少し胸がチクッとしたけど、この感覚は未だによく分からない。足が悪いのは事実だし、私から言ったんだし、でも、それを認めるのが強いのかと言われたら――真っ暗な自室が頭を過って、頭を振った。
「どれだけサポートがされているか、それをサイトの方に載せたくて、知っている中では貴女しかいなくて。
それでノンノンに聞いたのですけれど、言葉を濁されて、ミッチーに聞いたところ、そう言うのは本人に聞くべきだと言うことになりましたの」
「そうですか、でも、会うとしても保護者の許可がいるので今は答えられないです。
私の状態だけなら話せる限りは話せますが、それでいいですか?」
「お願いできるなら」
そう言った後、紅茶のおかわりと共に、机には小さなシュークリームが積み重なった、クロカンブッシュが置かれた。
三つ小皿に取り分けられたシュークリームの一つをとって口に運ぶ、これはカスタード味だ。
「悪いと言っても歩けないわけじゃないんです、少しなら歩けますし、支えがあれば立てますし」
もう一つとって口に入れる、今度はチョコレートだ。
「長時間歩いたり、支えなしに立ち続けるのが厳しい感じなんです」
最後の一つをとって口に放り込む、最後のは抹茶で少し苦い。
「走ったりはできないんですけど、杖があれば普通の人みたいにある程度は動けるくらいのものですし」
モグモグと口の中で混ざる味を楽しみながらも、どこかぼんやりとそう話していたら不意に私の膝にタマちゃんが現れた。
クロさんを見ると、ただこちらを見つめるだけで、微笑んだりとかそんな顔ではない。
ただ、見つめているだけ、それがなんだかホッとして私は膝の上で丸くなるタマちゃんを優しくなでる。火の部分は私がメイン属性が赤だからやけどもないから、柔らかそうな毛並みを撫でることができた。大きくアクビをしてダラリと体を預けてる姿はとても可愛い、私もグミを同じヒノマタにしようかな。




