23.キャリ子とタビー
「えっと、あの」
「同時に出すから困ってるでしょ」
クロさんに注意されて手を引っ込めたので残ったキャリ子さんと握手をして、その後に出されたタビーさんとも握手をした。
「えー、ネコスキーがネコ以外のアバターと並んでるのすごく変な感じー」
「私だってネコアバターだけと仲良くなってるわけじゃないよ?」
「ギルドで要注意人物の貼り紙出されてるのに?」
「……それはそれ、これはこれよ」
キャリ子と名乗った人はアバターは女性みたいだけど話し方や動きから中身はもしかしたら男性かもしれない、もう一人の方は少し落ち着いた感じでアバター通りの男性と言われればそうと思うし、女性と言われても納得ができそうな感じ。
三人の話を聞いていれば、ふとタビーさんと目が合う。
「それで、お名前は?」
「え、あ、ロゼです!」
「バラ? お花好きなの?」
名前を聞かれて答えれば、クロさん話していたキャリ子さんがこちらに近付いてくる。
「えっと……あれ? キャリ子さんの服って」
「そう! 花モチーフなんだよ! 可愛いでしょ? これ着たくてわざわざアバター女の子にしたんだよね~」
そう言いながらクルリと回るとバラの花びらみたいに重なった布がふわりと広がって――すごく可愛い!
でも、話からすると女の子限定衣装みたい。どうなのか気になるけど、男の子のふりをしてるいるので詳しく聞くことができない。
「か、わいいですね!」
「でしょ? 男の子バージョンだと、これ、微妙な感じになるんだよね」
「シリーズ服って当たり外れ多いよな」
「わかる~」
二人が楽しそうにそうやって話しているとまるで女の子達みたいで、私もそこに入りたいなと思う気持ちをグッと堪えて一歩下がる。シリーズ服って名前がある服ってことだよね、攻略サイトで全身揃えると特殊効果があるとかなんとか書いてあった気がする。
「そう言えばなんでネコスキーはこっちに来たの?」
「あ、忘れてた。私達、スライムを探しに来たんだけど、どこかで見なかった?」
「スライムならたしかむこうにいたかな」
そう言って指差した先は薄暗い森の奥で、少し怖い。でも、じめじめしてそうでなんとなくスライムが多そうな感じはする、二人が見たと言うし、たぶん、たくさんいるんだろうな。
「じゃあ、行きますか」
二人と話し終わったクロさんと一緒に森へと進もうとして、振り返るとなぜか二人もついてきていた。目が合うとニッコリと笑顔を返され、戸惑いながらクロさんを見れば、クロさんも少し戸惑っているようだった。
「二人もついてくるの?」
「ダメ?」
「同じギルドだし良いかなと思ったんだけど」
行きたい行きたいとクロさんにおねだりする様子はまるで子供みたい。
「二人は召喚士じゃないじゃん、来ても意味ないでしょ?」
「めったにログインできないから、フレンド少ないし、遊びが少ないんだよ~」
「インしても、モンスター狩って終わりだから飽きてきた」
「でも、今日はロゼくんと遊ぶ予定で」
「わ……僕は一緒でも良いですよ」
人数が増えるのは少し苦手だけど、二人はそこまで苦手な感じがしない、なんだろう、のんちゃん達みたいな感じがするんだよね。
私の答えに二人がさらに行きたい行きたいとおねだりの合唱をして、根負けしたクロさんとキャリ子さんとタビーさんとの四人で森の中へと行くことになった。
「二人とクロさんはギルド繋がりなんですか?」
「一応、リア友? アスリー知ってる? 彼繋がりでギルドに入ったんだよ」
「いわゆる、コネ入隊」
「コネ入隊なんてあるんですね」
「リア友であり、さらに別の理由かあればできるよ。まあ、問題起こした場合は紹介した人もろとも除隊だからしてる人はほとんどいないけどね」
「それを二桁近くしてるのがネコスキーだよ」
なかなか、ギルド運営は複雑みたい。二桁と言うことは最低でも十人以上ってことだし、クロさんは友達が多いのかと感心していれば、ギルドのネコ率増やすためにしてるとか言う話になって慌ててクロさんが口を塞いでいた。
「さ、さあ! スライム狩りしよう! ほら、あそことかあっちにもいるよ」
「あ、本当ですね」
クロさんが指差した大木の根本に1mくらいのスライムが三匹のんびりとぽよぽよ弾んでいた。色は前に見た時みたいな半透明で真ん中に緑色の核?のようなものがうっすらと見える。
クロさんの作戦は三匹のうち少しはなれた場所にいるスライムをこの近くにある袋小路の場所に追いたてて、クロさん→私の順番でテイムにチャレンジするみたい。
「とりあえず、っと」
すごい速さでスライムに近づいたクロさんはその中から一匹を蹴り飛ばした。
「あれー、召喚士ってそんなに強くないはずなのに吹っ飛んじゃったよ」
「ど、どうするんです?」
「んー、倒したりはしないだろうからこのまま蹴って……あー、ダメージ結構入ってるみたいだし他のと距離も離れてるし、とりあえず“テイム”!」
思いの外、遠くまで飛んでいったことに驚いていると、クロさんも驚きながら凹んでいるスライムに近づき、そのままテイムと唱えた。私も使ったはずなのに、久々のエフェクトにキレイだなぁとぼんやり見ていると、パッとエフェクトが弾けて失敗した。
検証失敗かと思っていたら、クロさんは少し何かを考えてからもう一度テイムと唱え、また、失敗する。
「……なにしてるんだろ?」
「ゲームはわかんなーい」
「検証するって言ってたんで、何回かするのかも?」
『ふふ、面白いことをしているね』
突然聞こえた声に辺りを見渡せば、近くの木の上に鮮やかな紫色の髪をした美少年がいた。
太い枝で器用に寝転び、頬杖をついて反対の右手をプラプラとさせている。強い風が後ろから吹いたと思うと、もうそこには居なくて、下におりて近くの岩の上に座っていた。
「ブルーベル!?」
『…………』
「え……あ、ベル?」
『はぁい』
思わず名前を叫べば、少し不機嫌そうに頬を膨らませていた。どうしてだと考えて“ベル”と呼ぶように言われていたのを思い出し、そう呼べば正解だと言うようにパチパチとご機嫌に手を叩きながら返事をした。
「クロさんクロさん! ブルーベルが!」
「え? なんで?」
「わから……あれ、二人は?」
周りを見ればクロさんが驚いたようにこちらを見ていて、キャリ子さんとタビーさんの姿が見えない。
「……もしかしたら、イベントに入ったのかもしれない。ロゼとはパーティー組んでいたけど、キャリ子ともタビーとも組んでいない。
から追い出されたのかも」
冷静にそう言うクロさんは何やら空中で操作している。
『ところで、はじめましてのあなたは何をしていたの?』
「……私? スライムをテイムしようとしていたの」
『スライムを? ふふ、ふふふ。面白いこと考えるね』
口を手で押さえながら驚いた後、クスクスと笑いながら滑るようにクロさんの前へと近づいていき、あの白く輝く瞳でクロさんを見つめている。
『うん、うん。君は女神の子じゃないね。ぼくはブルーベル、ベルって呼んで?』
「私はクロ……キュン。よろしく、ベル」
『ふふ、よろしくねクロキュン』
「うぐ」
私の時のような自己紹介をしているのを見ていると、突然クロさんが胸を押さえてよろけた。
「どうしたんですか?」
「い、いや、NPCと分かっていても、キュン呼びされるのすっごいぞわぞわして」
ほら見てと腕を差し出され首をかしげれば、見えないかもだけどめっちゃサブイボと言われる。
たしかに、のんちゃんから愛華きゅんとか呼ばれたりしたら……私もゾクッとしてしまい腕を擦る。
『♪~♬そうだ、ふふ。スライムを捕まえるの手伝おうか?』
会話が聞こえているのか、それとも反応しないようになってるのか何かを歌っていたベルくんは突然笑顔になり、私達にそう提案した。
「ほ、本当!」
「なんで?」
私達の声が重なったからかベルくんはコテンと首をかしげる。どうしようとクロさんを見れば、私が話すと合図を送られたので一歩下がって二人を見守ることにする。
「なんで、手伝ってくれるの?」
『ふふ、内緒。どうする? 手伝う?』
「……お願いします」
クロさんがそう言い終わると、跳ねるようにしてベルくんがクロさんの目の前まで近づいて額のキ、キスをした!
「んな!? え、な!」
『もう一回、さっきのやってみて』
「いや、なんでキスしたのか説明! 歌ってないで説明!」
クロさんも驚いたようでベルくんに怒鳴っているけど、フラフラとその辺りを歩きながら歌うだけで何の反応もない。
こうやって見ていると、ベルくんって町のNPCと比べると反応がすごく少ない気がする。会話パターンが少ないと言うより、わざと無視してるような気もして不思議な感じがする。
「……もういいや、テイムしてくる」
「が、頑張ってください!」
諦めたクロさんがもう一度テイムをすると、今度はすんなりと紫色の魔方陣が現れて、青と黄色の文字が書かれたようなリボンが現れた後、グルグル巻きにされてぎゅっと縛られた。
「すごい、成功した! もしかしてブルーベルが鍵なのかしら、それとも」
楽しそうな笑顔で振り返った後、すぐにブツブツと何か呟きながら考え始めたので、待っている間にベル君の方を見たら楽しそうにパタパタと足を揺らして鼻歌を歌っていた。
あ、目があった。手を振られたので振り返せば、座っていた岩から跳び降りてこちらに歩いてくる。スカートの裾から見える足の輪郭がぼやけて下半身が蛇のようになるとスーッと私の前に滑るように近づいて笑みを深めた。
『君もする?』
そう言うと尻尾の先を揺らして音を立てる。音によってきたのか別のスライムが現れ、どうすればいいのかな?とクロさんを見れば、試してみて欲しいと頼まれたので緊張しながらテイムと唱える。
赤と青のリボンが現れてギュッとスライムを縛り上げると、一発でテイムに成功した。
「すごい! 一発!」
「……う~ん、これは、もう少し検証しないといけなくなったかも」
私が成功したことでさらに考え込み出したクロさんは置いておいて、新しくテイムできたスライムの名前を考える。
最初の子が見た目でジェリーとつけたけど、後で姿が変わるなら、もう少し可愛いのが良いかな?
「うーん、よし! 名前は“グミ”にする!」
名前をつけるとポヨポヨと跳ねている。可愛い。
「――とりあえず、これでイベントは終わったか? 二人と合流して、ギルドにこれをまとめたい……」
そんなことをクロさんが言ってるのを聞いていれば、目の前にいたブルーベルがフワリと少し離れた場所に移動してニンマリと笑顔を浮かべた。
『おめでとう、いつか、来てくれるのを楽しみに待っているね?』
そう言うと辺りが白いもやにおおわれて、しばらくして遠くからキャリ子さんとタビーさんが私達を呼んでいる声が聞こえ、振り返るとすぐ近くの木の影から二人は現れた。
スマホが不調で買い換えたりと時間がかかりました……。
書きかけデータが無事で良かったです。
サブイボ→関西での方言で鳥肌。
10/08:読み返したさいに、キャリ子としか握手していなかったので修正しました。
書きやすさから主要人物の出身地は関西中心(具体的な都道府県は割愛)になっています。
方言とわかるものは後書きに書こうと思いますが、書かれていないものは私が把握していないものになります。




