20.はじめまして?
今日こそギルドに入る条件をクリアするぞとカブにログインしたら、ピコピコと通知のマークが視界の端で主張し始めた。
なんだろうとタップしてみれば、差出人不明と書かれている。
「うーん、フレンド以外から通知が来るとかはないって聞いたけど……えっと」
――ハスイレンの湖にて待ってます。
やけに短い文章だと思っていれば、フワリと目の前に“ずいぶんと手触りの良い紙ね”と文章が浮かんできた。
始めての演出にビックリしていれば、視界の端に“ハスイレンの湖に行こう”と言う文字が固定された。つまり、これは……イベントってことで良いんだよね?
「うーん、でも、なんのイベントなんだろう? 手紙で呼び出しなんてマンガみたいだけど、そんな、呼び出されるような覚えないし……」
まるで告白や決闘の申し込みみたいと思ったけど、NPCからそんな呼び出しイベントがあるなんてサイトには載ってなかった、はず。そもそも、カブってNPCを呼び出すことはあっても、呼び出されることはないはずなんだよね、もしかして、ブルーベルの時みたいに未発見イベントなのかな?
「う~ん、それなら、始めからメモしといた方がのんちゃん達は喜ぶかな?」
とりあえず、一度同じようなイベントがないか、のんちゃん達が運営している攻略サイトで検索してみたら、数件ヒットした。
「あれ? けっこう呼び出しイベントってあるんだ。えっと、看病……は子供が呼びに来るから違う。あっ、NPC同士の告白や決闘関係は呼び出しとかあるんだ、へー、ちょっと見てみたいかも……あ、“差出人不明の手紙”ってまさに私と同じ状況!」
一つ一つ、タイトルを流し読みしていたら、それっぽいものを見つけた。でも、うーん、見たらネタバレになって面白くないかもしれない……でも、戦闘とかあったら……うーん。
「どうしようか……ん? 通知が着てる? えっと、アスリーさんからだっ! なになに――」
内容は社会人って感じの難しい文章だったけど、要約するとあの後、無事にセーブできたかどうかの質問と心配を合わせたような内容だった。
とりあえず、返信をしたいけど同じような文章を書ける気がしない、誰かに相談したいなとフレンド一覧を開けば、のんちゃんもみっちゃんもログインしていない、もちろん同じ大学だと言っていたネコスキーさんやトルソーさんも……動く点Pさんはログインしているみたいだけど、兄達のリア友じゃないっぽいから相談するのはちょっと気まずい。
「アスリーさんもログインしてる……もう、直接話した方が良いかな?」
考えていても時間を無駄にしちゃうだけ、ここは度胸だとアスリーさんのアイコンをタッチする。呼び出しマークがクルクルクルと二回ほど出てきたが、繋がらずに終わった。
安心したような拍子抜けしたような気分で居たら、すぐにアスリーさんから折り返しの連絡がきてビックリする。
「えっ……と。もしもし?」
『あ、ロゼくん? えっと、アスリーっす、通知がきてたのは見たんすけど運悪く出れなくて……何かありましたか?』
「何かってほどじゃないんですけど、通知で昨日のことのがきてたので、それで連絡をした感じです」
『そうなんすね、問題とか起こった感じっすか?』
「ううん、問題とかはないです! 単純に返信内容が浮かばなかったので、直接連絡しちゃおうかなって思って……あ、知ってたらで良いんですけど、“差出人不明の手紙”ってどんなイベントか知ってます? サイトにあるのは見たんですけど、さすがに細かく内容が書かれてたら嫌で見てなくて」
『知ってるっすけど……どう言うのが知りたい感じっすか?』
「えっと、戦闘があるかどうかとか、必要なものがあるかとか」
せっかくだから、聞いちゃえと質問してみれば少し無言になった後、私が知りたいことだけ教えてくれた。
『うーん、簡単に説明するとバニラのキャライベっす。たしか戦闘はなかったはずっす、戦闘になりそうな描写とかあっても、バニラのキャライベは比較的戦闘なく進んでたはず……間違ってたら申し訳ないっす』
「そうなんだ、ありがとうございます」
『役に立てたなら嬉しいっす――あ、やば。ちょっと用事ができたので通話切ります、また!』
私がお礼を言えば通話越しでも分かるくらい嬉しそうな声で返事をした後、なにやら大きな音が背後から聞こえ、慌てて通話が切れた。もしかして、遠征中とかだったのかな? それだったら悪いことしたかも。
「とりあえず、安全なイベントみたいだし、下のギルドで依頼を見てから湖に行ってみよっと」
アスリーさんにはまた後日なにかお詫びをするとして、まずは、今日することをまとめる。
まずは、ギルド加入に向けて依頼の確認。次に、バニラくんのキャライベらしいこの差出人不明の手紙を出してきた人に会う。その後は時間があれば依頼をする感じでいいかな?
予定がまとまったところで部屋の扉を開ければ、“木漏れ日の歌”のカウンター横、関係者入り口の扉からギルドへと一飛び。相変わらず移動が味気ないけど、他のところで時間がかかるから、そこは我慢。NPCやプレイヤーがポツポツ交じっている掲示板前に行って依頼の確認をする。
「……“迷い猫、探してます”?」
なかなか面白そうな依頼。でも、ギルド加入に近づくだろうか? うーん、でも、面白そうだし、これ受けちゃお。わっ、日替わり採取に“キズグリリーフの納品”がある、前にキズグスリーフをとったときに、一緒にとってたのがあるからこれも受けてっと。後は難しそうな討伐だし、これで受付しよっと。
依頼書を持って受付で青い髪を探すけど、バニラくんは今日は居ないのか、今進行してるイベントの関係か見当たらない。しかたないから大人しそうな眼鏡をかけた男性の列に並んで受付をすます。
「えっと、キズグリリーフは……えっと、一枚、足りない」
何度も数えたけど、一枚足りない。これがよく聞く一足りない?ってやつかな、違うかな。
とりあえず、もうギルドですることはないので湖に行こうかな。門を出てそのまま塀にそって歩いていけば、まるで海のかと錯覚するくらい大きな湖が目の前に現れる。
「あれ? でも、湖のどこに行けばいいんだろう?」
前のバニラくんの時は――ベルくんが現れてなんかいつの間にかクリアしてたんだった、つまり、えっと、どこに行けば。
湖はとてつもなく広い、待ち合わせ場所としては最悪な場所って感じ、前にバニラくんと合流して調査した辺りまで行けばいいのかな?
……えっと。どこだっけ?
「とりあえず、歩いていればイベント発生するかな?」
足りなかったキズグリリーフを探しながら、イベント場所を探すかな?と歩き回っていたけど、湖は町の近くだからか何も見つからない。
普通に綺麗な景色を見ながら、ぶらぶらと畔を歩いていればだんだんと霧が立ち込めてくる。もしかして、イベント場所に近づいたかな?と周りを見れば、霧の向こうに誰かが立っているのを見つけた。
「えっと“あなたは、誰?”」
「私は、スティルトン。君が懇意にしているバニラの友人だ」
バニラくんの友達の子か! 少し安心していれば、ゆっくりと霧が晴れてきて、目の前には白くて長い髪を三つ編みにして、白に銀糸の刺繍の入った制服を着たすっごくかっ……ケンタウルスだ!?
わあ、これって前にのんちゃん達が話していたNPCにしかいない種族ってやつかな?
「突然の呼び出しに驚かせてすまない、今日は君に挨拶をしようと思ってね」
そう言って差し出してきた手を握ればニッコリと微笑まれる。
「君は……旅をしているのか、あいつみたいな変なやつじゃなくて良かった」
「……旅?」
「ん? 世界を見て回る旅をしているんだろ?」
当たり前のようにそう言われて、ちょっと考える。そう言えば、主人公は何かを探しに旅をしているって設定だったような……ちゃんと覚えてなくて忘れてたや。
それにしても、こう言うイベントでもちゃんと設定を取り入れてるんだね。あれ、つまり、ちゃんと覚えてないと理解できなくなる可能性もあるってこと?
「――バニラは人に好かれやすい、良くも悪くもそれが彼の良いところではあるが……」
やば、考え事してて話を聞いてなかった。
いつの間にか離された右手で困ったように頭をかく、スケルトンさんは湖のほうをじっと見つめている。結構シリアスな話をしてくれてたみたいなのに、聞いてなくてごめんなさいと心の中で謝りながら、同じように湖の方を向けば、また、霧が立ち込めてきて、それがスクリーンみたくなって映像が流れだした。
白黒で声や音は入ってなかったけど、角度的に顔が見えない人とスケルトンさんが言い争っていて、それを仲裁しようとしたバニラくんが突き飛ばされて怪我を――うわぁ、痛そう……。
「君はあいつとは違うと信じている、これからもバニラと仲良くしてやってほしい」
倒れたバニラくんを抱えて、何かを叫ぶスケルトンさんの姿を見つめていたらそう声をかけられた。もちろんと返事をしようと声の方を向けば、そこにはもう彼はいなくて、視界の端でイベントクリアの文字が浮かんでいる。
「……なんか、けっこう、シリアスなイベントなのかな……さっきの映像のもう一人は誰だったんだろう」
お知らせのマークが点滅してるので、確認しながら考えていれば、NPCの一覧にスティルトンさんが追加されていた。ステ? あ、名前間違って覚えてたのね、スティルトンさんね、ふむふむ。バニラくんのアイコンと違って、こちらは灰色でタップしたら【交流して好感度を上げましょう】と出てきて、仮登録って感じみたい、たしか進めていったら三人と仲良くなれるって動画で見たからそうしたら連絡とかできるのかな?
「さてと、思ったよりイベントが短かったし、キズグリリーフを集めよっかな?」
セーフティゾーンから出て水玉草原へ行き、入手済みの緑のアイコンを頼りに薬草を探せばさっそくハートの形の葉っぱのキズグスリーフが手に入った。
今日はキズグリリーフが目的だけど、前に依頼報酬として傷薬の作り方を教わったので、そちらを試すためにこれも確保しておこう。今はどちらも欲しいから、片っ端から摘みまくって行くぞ!
「ぅんしょっ……と、これでキズグリリーフは揃ったかな? ん? あれはまだとったことないね、っと」
――マッシュルーレットを手に入れた!
うわっ、草がキノコに変わった!!? えっと、マッシュ……ルーレット?
とったものをよく見れば、白軸を中心に白くて平べったい傘の部分がクルクル時計回りに回っている。あ、よく見たら傘の一部が少し欠けてる、なるほど、それでルーレット、止まるのかな? しばらく見ていたけれど、傘はねじれてとれたりせずに、一定の速さでクルクル回っていた。
「こう言う見た目ってことか、ふむふむ……わぁ、キノコがいっぱい」
マッシュルーレットを手に入れたからか、草ばかりだった光景にキノコにが加わって一気に景色が明るくなった気がする。
キノコってじめじめしたところに生えてるってイメージ通り、水溜まり周りに多く生えているみたい。面白いのでいくつかとってみたけど……なんか、違う?
最初に取れたのは右回り、次に取れたのは左回り、右回り、右、左、右、左……これもキズグスリーフとキズグリリーフみたいに回る方向で何か変わるのかな? 取れる割合的にどちらも同じくらいだけど、これは、両方とも何かに使われるって感じなのか、それとも、キノコだから外れが多いのか。
「キノコだし、もしかしたら毒キノコとかかもしれないよね……」
クルクル傘が回る見た目は可愛いけれど、毒キノコかもしれないと思うと、とたんになんか怖くなってくる。
とりあえず、まとめて鞄にしまったら“マッシュルーレット(右回り)”みたいに回る方向で分類がされた。やっぱり別のやつなんだ、あとで調べてみよう、うん。キズグリリーフの時みたいにあとで足りないってなると困るから、取れるだけ取っておこう、取り尽くして無くなったりしないよね? ゲームだからそう言うのはないよね? たぶん。
久しぶりの更新失礼いたします。
前回の終わりから今後の展開をどうするか考え、最終的に無難にゲームの方を進めていくことにしました。




