19.協力プレイ(3)
「え、あれ? キス???」
パペットな見た目だからそこまで噛み付いてる感はないけれど……完全にラピッグの丸いお尻にパクッとくっついている。え、キスってこんなんだっけ?
「一応、キスっす。モーションが少ないんすよね、専用技だから実装して欲しいんすけど、敵として出るのが多いからちょんと触れる感じだと分かりにくいから仕方ないと言えばそうなんすけど……」
アスリーさんの言葉に同意の意味を込めて頷き返しつつジェリー達の様子を見ていると、噛みつかれたラピッグは少しふらついた後、パタッと倒れて“zZZ”と眠り状態のマークがついた。
一匹が襲われたことで他のラピッグも攻撃してくるのかと緊張したけど、眠っているだけの仲間に興味がないらしく、フゴフゴ言いながら群れの残りはのんびり食事をしている。
「これ、気づかれてないってことです?」
「そうっす。状態異常なら群れから敵対はされなくて、離れていれば攻撃したとしても従魔や召喚獣に敵対して攻撃するんすけど、こちらに攻撃はしてこないっす!
あ、でも、近かったらまとめて敵認定されるから気をつけるっす!」
な、なるほど。思ったより召喚士って戦いやすそう? なんか、こう、昔やってたモンスターを戦わせるゲームみたいな感じでちょっと安心。
ラピッグ達に視線を戻したらちょっとずつ眠ってるラピッグから離れていってる……もしかして、寝てる仲間に気をつかってるのかな? そうだとしたらなんか少し可愛く思えてくる。
「眠りとか特定の状態異常だとアイテムを使って捕獲ができるっす、今は持ってないのでこのまま倒すっす」
「はい。わかりました!」
元気よく返事をして、寝てるラピッグに向かって、もう一度、ジェリーをしかける。今度は倒すのが目的なので飛び付くでダメージアップを……あ、スライムとモーションが違って頭突きみたいで可愛い。
五回くらい“飛び付く”で攻撃したらラピッグが目を覚ましたので、今度は“さよならのハグ”を使えば小さな両手を目一杯広げてラピッグの首に抱き付いた。パッと見は可愛らしくぎゅっとしてるように見えるけど……あれは完全に首を絞めにかかってる動きだ。
「……あの、これって抱き付く場所は決まってるんですか?」
「あ、接触系は決まってるっすね。首や手足は共通っすけど、あとは姿毎に違って尻尾があれば尻尾、首や手首がなければ別の場所って感じっす」
なるほど、ラピッグは真ん丸だから首や耳ぐらいしか掴めそうな場所がない。それなら首に抱き付くのもわかる……かな?
そんな風に考えている間にもジェリーはぎゅうぎゅうと首を締め付け、それをほどこうと暴れていたラピッグがポンッと軽い音を立ててドロップアイテムに変化した。
「倒したっぽい?」
「そうっすね、ラピッグってHP低いからけっこう簡単に倒せるっす。
――あ、ほら。“ピンクの毛皮”ドロップしてるっすよ!」
そう言ってささっと食事中のラピッグ達に気付かれずに回収したアイテムを見せてくれる。
ピンクの毛皮はその名の通り薄桃色のラピッグよりも色の濃い、ハッキリしたピンク!って感じの色合いをしていた。受け取った毛皮は毛足も長くて、貰ったぬいぐるみの短い毛とは全然違う。
「見た目とドロップアイテムがこんなに違うんですね、なるほど、これが共通……」
「たしかに、こうやって見比べるとちょっとって感じがするっすよね、なれちゃえば気にならないっすけど」
苦笑しながらそう言うアスリーさんは、さあ次に行くっすと残りのラピッグ達を指差す。
「わ、分かりました。よし、ジェリー……左端の子に“おやすみのキス”!」
――*――*――*――*――*――
「ひぃ、ふう……よし、納品分とれましたー!」
群れをもう一つ分倒したところで納品分の毛皮が集まり、嬉しくなって少し鼻歌交じりにアスリーさんに報告すれば、私がラピッグに集中してる間に、邪魔が入らないように他のモンスターを倒してくれていたアスリーさんが笑顔で振り返った。
「じゃあ、帰るっすか?」
「はい! あんまり、長くゲームするものよくないから少しずつ進めようと思ってるんで!」
「ロゼくんって真面目っすねぇ……」
ドロップアイテムを背中に背負ったナップサックみたいな鞄にしまいながらアスリーさんは苦笑する。
「ちょっと、訳あって、私、親戚の家で暮らしてるんです。なので、ゲームばかりしてると心配かけちゃうかなぁって」
「そうなんすか? 俺も似たようなと言ったらあれっすけど、友達の家に住んでるんすよ」
「そうなんですか?」
叔父さん達のことをぼかしながら長くゲームをできないと言えば、アスリーさんも現実世界の話をさらっと話してきた。
なんとなく、お父さんの話をチラッとした時に、アスリーさんってそう言う話はしたくなさそうな人っぽく思ってたけどそうじゃなかったみたい。
「お友達って学校とかのですか?」
「あっと。んー、あー学校と言うか、なんと言うか。難しいっすね……」
「……ごめんなさい、言いたくないこと聞いちゃいました?」
みっちゃん達と仲良さそうにしてるのを動画で見たから、アスリーさんも学生かと思ってたけど違ったみたい。さすがに踏み込みすぎちゃったかもとしょんぼりしていたらアスリーさんが慌ててフォローしてくれた。
「あ、いや。別にそんなことないっすよ? 生い立ちとかそこまで悲観してはないっすし……ただ、こう、人に説明すると引かれたりとか色々あって――今、住んでる家の友達との関係も、説明すると引かれるかなぁって」
「そうなんですね」
友達って、もしかして元カノとかそう言う関係の人なのかな、でも、それなら私はあまり引かないけど、普通は引くのかな。
そんなことを考えていたら、話が途切れてしまって沈黙が流れる。なんとなく、きまづい。
「そ、そうだ。受付で他のモンスターからとれたピンクの毛皮出すと面白いって話ってどんなのですか?」
「あ、ああ。えっと、体験する方が面白いから――っと、これを一緒に渡してみるといいっすよ」
ニコニコしながらそう言って渡されたのは、先ほどまで集めていたラピッグのと同じように見える“ピンクの毛皮”。貰った時のアナウンスも特にラピッグの時と変わってなくて、本当にこれで面白いことが起こるのか不思議で、どんなことが起こるのかを帰りしな何度も聞いてみたけど、お楽しみ~と教えてくれなかった。
「むぅ……」
「アハ、ハハハッ。もうすぐっすから我慢~っす」
ちょっとご機嫌なアスリーさんの後ろを歩きながらギルドに入りカウンターについたとたん、NPC達がじっと私達――いや、アスリーさんを見つめている。
「あ、あ、そうだった。これつけてたんだった、俺は外で待ってるっすから、楽しんできて!」
そう言いながら首にしている首輪から伸びる鎖を引っ張って見せてから、ギルドの外へと出ていった。
私一人になれば、NPC達からの視線は一つを残してすっと消えた。唯一、視線を送っているバニラくんの前まで行くと、少しカウンターに乗り出し気味でこそこそと声をかけてきた。
「ロゼくんもカルペディエムの人と仲が良いのですか?」
「え、っと。“も……ってことは?”」
「大きな声では言えませんが、僕もいるんです、あのギルドに友人が……ほら、前に手紙を渡してくれた」
そこまで言って黙ってしまったバニラくんに返事をしようと選択肢を探すけどなぜか出てこない。あれ、これもイベントのうちだよね? それなら、普通は選択肢が出てくるようになってるはずなんだけど、うぅ、アスリーさんが待ってるかもだし苦手だけど自分で考えて返事しよう。
「あの――「バニラー? この書類作ったの誰ー?」
「あっ、それ僕が作りました!
すみません、この話はまた今度で……」
私の声に被せるように奥から女性の声がして、バニラくんが返事をすると別のNPCに受付を代わって奥に行ってしまった。
唖然としていたら視界の端に文字が出ていたことに気付き、読もうとしたところで消えてしまった……、バニラくんとのストーリーが進行したのかも、後でアスリーさんに聞こうっと。
「えっと、これをお願いします」
依頼書を渡せば入れ替りで受付に立ったお兄さんが淡々と処理を進めて――不意に手を止める。
「あれ、これは――ラピッグの毛皮ではないですね……でも、ピンクの毛皮ですし……問題はないでしょう」
受け取った毛皮を確認しながら少し悩んだようにそう呟いて、また作業に戻っていった。
「――え。それだけっすか?」
ギルドの外に出てから建物の影に居たアスリーさんにギルドでの反応を伝えたら、不思議そうに首をひねられる。
「おかしいっすね……俺の時は、内緒ですよ?的な感じで少し窘められたんすけど。あれー?」
「NPCによって、セリフが違うとかですかね?」
「そう、かも……後でギルマスに報告してみるっす」
もう少し面白いセリフが聞けたみたいだけど、私の時はセリフと言うよりは一人言みたいな感じだった。
なにか間違えたのかなと考えてバニラくんのことを思い出す。
「あの、さっき、バニラくんが特殊?っぽいセリフを言ったんですけど、これってバニラくんのストーリーですか?」
「セリフって?」
「えっと、自分もかるベりうむ?に友人が居るとかなんとか」
「かる……? あ、カルペディエムっすね! たしかにそう言うセリフが出てくらはずっすね、バニラはいくつかのギルドと関わる感じのストーリーだったはず。
……聞き齧った情報っすけど」
そう言えば配信でも別ギルドに友人がとか言ってた気がする。ふむふむ、ならバニラくんとは順調にイベントが進んでるんだね、どのくらい行くと一緒に冒険できるんだろう。
「ちなみにどのくらい仲良く?なれば、一緒に冒険できるんですか?」
「あ、それはイベントの進行度によるっすね。バニラはたしか友人二人に紹介されて、えっと……あ、たしか喧嘩?的なのを止めるイベントが終わったら全員と一緒に冒険できるようになるっす」
「全員?」
「そうっす。バニラとその友人二人、合わせて三人と。
あ、でも、友人二人だけ連れてくのはオススメしないっす、たしか、喧嘩するはずなんで」
「そうなんですね。でも、二人ともバニラくんと友達なんですよね? なのに、喧嘩するんですか?」
「あっ、それは、二人は――なんだっけ……えっと、バニラとは友達だけど、二人は友達同士じゃなかった、はず? 申し訳ないっす……よく覚えてなくて」
しょんぼりしたアスリーさんを慌ててフォローしていれば、セットしていたタイマーの音と一緒に画面にいっぱいに半透明で今の時間が表示された。
「わ、えっ……と。あの、こんなタイミングでごめんなさい。もうそろそろ終わらないといけない時間みたいです」
「あ、時間とっちゃって申し訳ないっす、えっと、ここから一番近いセーブポイントは――あ、木漏れ日のとこっすね」
「ギルドの中にあるんですか?」
「休憩させてくださいって受付で言えばセーブできるっす!」
アスリーさんは落ち込んでいたのにすぐに気持ちをかえて私のためにセーブできる場所を探して教えてくれた。優しさに感謝しつつギルドに戻ろうとしたところで、後ろから声をかけられ呼び止められる。
「ま、また、時間があったら遊んでくれると嬉しいっす!」
「はい! また、遊びましょう!」
両手で大きく振り返しながら私は急いでギルドへセーブをしに戻っていった。
最後が上手くまとめられなかった気がするので、もしかしたら、今後、書き直すかもしれません。




