18.協力プレイ(2)
長らくお待たせしました。また、チマチマ書き続けていこうと思います。
「あれが、ラピッグの群れ?」
アスリーさんと二人で草陰に隠れながら、プギプギと鳴きながらうごめくピンク色の塊を見つめる。
パッと見は地面につくくらい長く垂れた耳とピンク色の毛が印象的なウサギ、でも、座って回りを見渡した時に見えた顔は大きな鼻とキラリと光る小さな牙を持つブタ……と言うよりイノシシみたい。
「けっこう大きくて……怖い、ですね」
「1mはあるっすからね」
そう。見た目はよく見かけた姿だけど、さっき貰ったぬいぐるみとサイズもあまり変わらないけど、実際に見ると可愛らしいけど、けどけどけど――1mもある生き物が集まっているのは少し怖い。
しかも、見つかったら襲ってくると分かってるからよけいに怖い。
「ど、どうやって倒せばいいとかコツとかあります?」
「え? あ、コツ……俺はそのまま切りかかって終わらせるから、コツなんて……えっと。
あっ! ロゼくんってどうやって戦ってるんすか?」
「どう……まだ、フロッシェルとしかしてないけど、一匹を呼び寄せて、そこをジェリー……スライムに攻撃してもらってをしてた感じ?
あっでも、途中からミラーズマに戦ってもらってましたね――全部一撃でしたけど」
うーん、改めて言葉にしてみるとフェーブが一方的な感じで、戦闘って感じじゃないんだよ、ね。
「ロゼくんは召喚士なんすね、それなら……」
「あれ? アスリーさんは召喚士ってことに驚かないんですね」
「んぇ? ああ、召喚士が初心者向けじゃないってことっすか? でも、何を選ぶかは人それぞれっすし、野良となら厳しいすけど……NPCとパーティーを組むんならそこまで問題ないと思うっすよ?」
「そうなんですか!?」
今まで兄達を含めて反応が微妙だったけど、高ランカーのアスリーさんは意外と好意的な反応……プレイスタイルで印象が変わるのかな?
「でも、レベルの数字でテイムできる数が変わったり、PTが埋まる?だったり、あとはあとは魔物はテイムできないって色々と癖があるって書いてた……と、思うんですけど」
「数字のはたしかに少し厳しいっすけど、PTの数って基本的にプレイヤーの数なんすよ。召喚士だと召喚したモンスターもプレイヤーの一部としてカウントされて、二匹で一人分埋まるんだったかな?」
そう言って顎に手を添えて考えるアスリーさんを見ながら、ずっと疑問に思っていたことを聞いてみることにする。
「そもそも、魔獣と魔物の違いってなんなんですか?」
「あー、“魔物は魔力を持った植物のことで、それから生まれた動物を魔獣と呼ぶ”ってのが公式の説明っすね。と言っても、魔物はほっっっとんど見かけないっす、まれに魔獣じゃなくて魔物表記になってるのがいるくらいっす」
「そうなんですね! あれ? でも、バニラ君が魔物と魔獣の違いを調べてるって話してたような……」
「ああ、彼のストーリー見ると分かるっすけど、さっき言ったまれに魔物表記になってるやつの違いを調べてるんすよあのNPC、詳しく言うとネタバレになっちゃうんで言えないっすけど、ストーリー最後まで終わらせたら魔物か魔獣か見分けられるようになるっすよ」
「へー! なんかお得ですね! 他のキャラとかもそう言うのあるんですか?」
「あるっすよ。まあ、基本はそのNPCの職業で作れる専用レシピとかっすけど、バニラみたいな錬金術師のやつは小ネタみたいなの教えてくれるっす」
ふむふむ、それならソロプレイを考えていた私には合っていたのかもしれない? でも、人によってこうも印象が変わる職業だし、様子を見るのが無難かも。
「あ、俺なりには、なるっ……すけど、召喚士の立ち回り教えましょうか……?」
「ほんと!? お願いします!」
思いがけない提案に食い気味に飛びついちゃう。アスリーさんは高ランカーで、彼に教えてもらえるならきっとこの職業が私に合ってるかどうかきちんと分かるはず。
「あ、わっわかった……す。えと、まだ、チュートリアルのスライムは持ってるっすか?」
「え……持ってます、けど。この子が何かあるんですか?」
「実はスライムは魔物判定で、転職で召喚士になった時は従魔にできない初期職業特典なんっすよ。
それで、この……あ、ネタバレって――OKっすね、じゃあ、カブに出てくるゾンビとかいわゆるアンデットって全部スライムから派生したモンスターなんす」
「そうなんですか!? あれ、でも、なんでそんなに詳しいんですか? 攻略サイトにそこまで書いてなかった気が……」
「それは俺の初期職業が召喚士だったからっす」
なるほど、そう言うことねと納得していると、アスリーさんは空中で何か手を動かして、いくつかのウィンドウを開いてこちらに見せてくれる。
そこには可愛らしいお人形みたいなモンスターや、ぬいぐるみみたいな可愛らしいものから、他のゲームとかでもみたことのある頭の部分を小脇に抱えた西洋甲冑まで色々なモンスターが表示されていた。
「これら全部スライムっす」
「ぜっ全部!!? え、えっ、でもそこら辺に普通に這ってません? あれはスライムじゃないんですか?」
「あ、あーと、なんと言うか、スライムは死体とか物とかに入り込んでそれを操るモンスターなんす、そんでそこら辺のいるのは操る対象を見つけられてない状態――例えるなら貝殻が見つからないヤドカリみたいな感じっす」
「やどかり、なるほど」
さっきまでは寄生虫が頭の中でうねっているのを想像していたけど、アスリーさんの言葉に新しい貝殻を探すヤドカリがうろうろしてる姿に変わる。
うん、こっちのが可愛いし分かりやすい。
「つまり、私のジェリーは貝……じゃなかった、新しい宿を手に入れればそう言う姿になれるってことですか?」
「そうっす! そうだ、せっかくフレンドに召喚士の……まあ、元なんすけど……後輩ができたんで良ければ召喚士時代に使ってたアイテム譲るっす!」
「えぇ!!? で、でも、もうラピッグのぬいぐるみも貰っちゃったし、そんなに貰うのは……」
遠慮していればアスリーさんは真剣な表情でこちらを見る。
「ロゼくん、オンゲーで大事なのはなんだと思うっすか?」
「え、なんだろう……イン率、とか?」
「あーまあ、それも大事なんすけど……一番大事なのは“初心者の定着”っす!
どんなに面白いゲームでもプレイする人が増えなきゃ儲からずにサ終なんてざらっす! 特にこう言うオンゲーは強いプレイヤーが増えればイベントとかレベルが上がってせっかく入った初心者が苦戦してそのままやめちゃうことがあるっすそうなると新しいプレイヤーはどんどん減って相対的に長くプレイしてる人のレベルが上がっての負の連鎖……はっ!?
あ……まっまとめると俺みたいな廃プレイヤー達は、できるだけ初心者に優しくして続けてもらうのが大事なんす!」
「は……はぁ」
「なので、ロゼくんには長ーく続けてもらいたいんで、プレゼント攻撃っす!」
早口すぎてあまり頭に入ってこなかったけど、ずいと目の前に差し出された藁人形に驚いて一歩引いてしまう。
「なっ、なに、そ……藁人形……ですよね……?」
「そうっす!
…………あ! ……あっ、あ、いっ嫌がらせじゃないっすよ?! これ使うとスライムの進化先がドール系の可愛いのになるんす! ほら、これ、ここっす!!」
慌てて見せられたウインドウにはデフォルメされた猫耳?がはえた赤ずきんの人形や長い耳をリボンみたい結んだアリスみたいな人形が並んでいた。
「バッドエンドールって言うシリーズのモンスターっす。例えばこれは赤ずきんのバットエンド、オオカミズキンっす」
「おとぎ話の、バッドエンドのモチーフってことですか?」
見せられたウインドウにそっと触れて画像を拡大する。赤い頭巾の一部が破れ片耳がぴょこりと飛び出し、もう片方は折れて頭巾のはしからのぞいていて顔は――目はビーズみたいなクリッとしたつぶらなのに、口は耳まで割けてその上から少し雑に縫われていて……怖い感じだけどどこか可愛いデザイン。
「……可愛い」
「でしょでしょ? それに進化する材料の一つがこの“藁人形”っす、これにハロウィンイベントで手に入るアイテムとを加えるとこのモンスターに進化できるっす!」
「イベント限定……そんなの、貰っても良いんですか?」
「どっちも簡単っすから。それで、召喚士としてまずはスライムを何かに宿らせるのが重要なんす、スライムは弱いからすぐに手放す人が多いっすけど、スライムからしか進化しないモンスターとかが今後の召喚士のメインストーリークリアに重要になってくるっす」
「なるほど……ちなみに、オススメってそのバッドエン……ドール?ってモンスター達ですか?」
「あ、傍にいて不快じゃないのが一番っすからその人それぞれっすね、オススメは。俺だとこっちのガシャドクロって言う鎧と骨のやつのが好きっすけど、ロゼくんはこう言うのが好きかな?って思って」
アスリーさんが見せてくれたのは男の子が好きそうなダークでかっこいい感じのモンスター、対して私にすすめられたのは可愛らしいお人形。
これって私が女だとバレてるからなのかな? 少しドキッとしたけど、よく考えなくてもアスリーさんはみっちゃんとよくパーティーを組んでるのを配信で見たし、男の子として扱いつつも本当は私が女の子と知ってるのかも?
「じゃあ、どれにするっすか?」
「えっと……じゃあ、この“アリスラビット”?が良いです」
「なら、これっすね。どうぞ」
少し悩んで、アリスみたいな青いワンピースに白いエプロンを着た黒ウサギのバッドエンドールを選び、アスリーさんから差し出された藁人形とトランプの形のクッキーが入った袋を受け取った。
「えっと、これをどうすれば」
「あ、スライムに藁人形は“オモチャ”として与えて、クッキーは“オヤツ”として与えてみて?」
えっと、あ、ステータスからオモチャとオヤツの項目がある、これをクリックして……あ、藁人形を体の上で跳ねさせて遊んでる、ちょっと可愛い。それからクッキーを――。
渡したクッキーを嬉しそうに食べる?ジェリーを見ていれば、聞きなれた電子音と目の前に『ジェリーを進化させますか?』と言う問いかけとその下に『・アンデッドール』『★バッドエンドール』の二択が現れた。
「あんでっどーるは点だけどバッドエンドールは星になってる?」
「ああ、それは藁人形を使った時の通常進化と特殊進化の違いっす、星が黒いやつのは最終の意味で点の場合は二重丸だと最終の意味っす」
なるほど、と頷きながら私は『バッドエンドール』を選択する。
ポコポコとジェリーが泡立ちながら半透明から水色に色を変えて藁人形を体内?に取り込み白と黒のキラキラでおおわれ――シャボン玉のようにキラキラが弾けると中から可愛らしいお人形姿のジェリーが出てきた。
――おめでとうございます、ジェリーは進化しました!
――隠しミッション『ユニーク進化』クリア!
――イベントミッション『忘れられた思い出』クリア!
「わっわわ、なんか、いっぱいクリアした?!」
「あ、そう言えばバッドエンドールってイベ限のユニーク進化だから……たぶん、ステータスも変わってるっす」
「え、そうなの? わ、なんか、可愛らしいスキルが増えてる!
えっと、“おやすみのキス”は相手を眠り状態にして確率で相手を、瀕死、に、する……え、え~っと“さよならのハグ”は相手のHPが0になるまで同じターゲットに、締め付け攻撃を、する……」
す、スキルの効果が怖すぎる!!! え、おやすみってそっちの意味!? そんでもってさよならのハグはもう単純に絞め殺してるだけじゃん!
「バッドエンドール専用スキルっす! ハグはレベル差があってもワンチャン敵を倒せるっすし、キスでモンスターを捕まえやすくできるっす!」
まさかのオススメだった。ちょっとテンション高めにアスリーさんはそう言うと、実践っす!とラピッグの方を指差した。
よ、よぉし。私も覚悟を決めて、ジェリーの方を見れば、青いワンピースに肩紐と裾にたっぷりとフリルのついたエプロン――有名なアリス服と呼ばれる服装を着た目のないのっぺらぼうな黒いウサギのパペット姿。
私が見たことでコテリと首を傾けてジェリーはパックリと口を開けた。中には二つの赤く光る目?があってこちらをじぃっと見つめ、その頭の上でちょうちょ結びにされた長い耳がピョコリと跳ねた。
ちょ……っと、怖い。けど、口を閉じればやっぱり可愛い――とりあえず、アスリーさんに言われた通り私達から近い場所に居たラピッグに向かってジェリーのおやすみのキスを使ってみる。
「行け、ジェリー“おやすみのキス”!」
『ピィィィイッ!』
指示を出せば甲高い笛のような鳴き声を上げ大きく口を開けて、敵に向かって噛みついた。
モンスターのビジュアルを決めるのは苦手です……拙い文章ですが楽しめたら幸いです。




