17.協力プレイ(1)
「あ、そっそうだ。ロゼくんってラピッグを探してるんすよね? め、迷惑じゃなきゃ手伝っても……良いっすか?」
「え、いいの!? ぜ、ぜひ、お願いします」
思わぬ素晴らしい提案に、勢いよく返事をして握っていた手に祈るように持ち変えてぎゅぅうっと握り締める。
「じゃ、じゃあ……パッ、パーティー申請送るっす…………うわ、自分からなんてはじめて……これで良いの、かな」
「申請、届きました!」
「あ、よかったっす」
なんかぶつぶつ言ってるアスリーさんにどうしたのか聞こうとする前に“【あああ】さんからパーティー申請が届いています。パーティーを組みますか?”と言うメッセージが現れたので、すぐにそちらに気がそれる。ワクワクしながらタップすれば、視界の端にアスリーさんの名前と職業レベル、その下にアスリーさんのHPらしき黒い丸印がたくさん並んでいた。
「黒丸……ってことはメインは青属性ってことですか?」
浮かぶステータスからアスリーさんへと視線を戻せば、向こうもステータスを見ていたのか視線が右下を向いていた。あれ、私は左上なんだけど、設定で変えられるのかな。
「あ、そうっす。ちなみに、見えるのは名前とレベル……あ、職業レベルっすね、に、HPっす。MPはなぜか見えない仕様なんすよね」
「へえ、それならMPが少なくなったときって、どうやって助けてもらうんです?」
「口頭っすね。ただ、俺が知ってる人で、誰がどのスキル使ったからどのくらいのMP残ってるかって分かるヤバい人もいますけど」
「ぜ、全員分を……?」
本当のことなのか恐る恐るたずねれば、神妙な顔でうなずきが返ってきた。そんなすごいことができる人って誰なんだろう、そう思い聞けば意外な答えが返ってきた。
「ちなみに、それができるのがうちのギルマスっす」
「そうなんですね、すごい……そう言えば、ギルマスってどんな人なんです? 配信動画でギルマスの話は出てきたのは見たんですけど、名前も姿もいっさい出てこなくて……」
「あ、あー。ギルマスってあまり人前に出ないんすよ」
「目立つのが嫌い、とか?」
攻略サイトを運営しているギルドだもん、ギルマスの顔バレしたら、ギルドに入れてーって人が押し掛けそうだからそうなのかもと聞いてみれば、首を横に振ってそうではないと返ってきた。
「ギルマス、いわゆる社畜で、毎日忙しくて、時間があれば攻略サイトの運営を優先してるからカブにはほとんどインしてないんすよ。一応、幹部の人達とはLINKで繋がっててそっちから週一で指示とかくるみたいっすけどね」
「しゃちく……そう、なんだ。大変そうですね」
「そうっすね。俺も実際に会ったのはギルドに入る時ともう一回の合わせて二回くらいっすから。
あ、ギルマスの名前を教えとくっす。ロゼくん、大きなカブに知り合い多いでしょ? もしかしたら、ギルマスから話が来るかもなんで」
そう言うとピコンとチャットが開いてそこに短く『アイビー』とだけ書かれていた。それを読み上げようとしたところアスリーさんが人差し指を自分の唇にあてて声に出さないように注意された。
「誰が聞いてるか分からないんで、読んじゃダメっす」
「ご、ごめんなさい」
「あ、謝らなくていいっす! 先に言わなかった俺が悪いんすから……さ、さあ、ラピッグを探すっす!」
「は、はい!」
注意され落ち込むとアスリーさんは慌ててフォローしてくれて、話を切り替えた。これ以上、話を聞くのはダメだろうと思ったので、私も思考を切り替えることにする。
「じゃあ、俺が跳んでラピッグを探すんで、そこに向かうっす」
「はーい、よろしくお願いしまぁっ!!?」
パンッと手を合わせて、そう言ったアスリーさんに元気よく返事をしてる途中で、ブワッと風が吹いたかと思うと、アスリーさんが3mほどの高さまで跳んでいた。
「十一時の方向約20m先に大きな群れ、三時の方向約100m先に小さい群れ。どっちにします?」
「え、えっと。じゃあ、小さい群れの方でお願いします」
ストっと綺麗に着地した後、何事もなかったかのように平然と聞かれ、少し戸惑いつつも危険が少なそうな小さな群れを選ぶ。
「了解っす。じゃあ、向かいましょうか?」
「は、はいっ」
アスリーさんの先導に群れがあると言う三時……右手の方向に歩いていく、私は貰ったラピッグのぬいぐるみを鞄にしまって小走りであとを追いかける。
私より少し前を歩くアスリーさんは、たまに飛び出して来たスライムを軽く蹴飛ばして一発で倒したり、薬草などがある場所では立ち止まって教えてくれたり、とても楽々に進めてすごくありがたい。
「あ、そうだ。ロゼくんってどれくらいラピッグのこと知ってます?」
「えっと、ウサギとブタを足して割ったみたいな姿で、ブーブー鳴く大人しいモンスター?」
「うーん、大人しくかはちょっと微妙っすね」
そう言うと、立ち止まりクルリとその場で回って振り返りピッと三本指を立てた。
「ラピッグが大人しいのは三匹でいる間だけで、四匹以上になると狂暴になってプレイヤーを襲ってくるようになるっす」
回った勢いでゆらりゆらりと動く尻尾が可愛い……じゃなくてっ。
「そっそうなんですか?! それじゃあ、今向かってる群れは……」
「群れ、あっ……あ、あっと、ごめん、なさい。カブ用語使ってたっす……数で性質が変わるモンスターはその数以上だと群れって呼ぶんす……なので、今向かってる先には五匹のラピッグの群れがいるっす……ちゃんと言ってなくてすみません……」
「ぜんぜんっ、ぜんぜん気にしてませんからっ、元気だしてください! えっと、ほっ他には何か注意とか特徴とかありますか?!」
アスリーさんは感情の波が激しいみたい、私にはそんなことで?みたいな説明不足とかでやたらと落ち込んだりする。へにょんと耳も尻尾も垂れて落ち込むアスリーさんを励ましながら、なんとか、話を切り替えようと頑張ってみれば、アスリーさんは『特徴……』と小さく呟いてから何かを思い出したように、腕を背中に回して器用に背負っていたナップサックから何かを取り出した。
「ナイフ、と……フォーク?」
取り出したのは短剣……みたいな大きさがあるナイフと、それと同じ位の大きさのフォークだった。
銀色で、持ち手のところがフォークは左向きの羽でナイフが右向きの羽の形をしていて、対になってる感じがオシャレで大きさが普通なら欲しいくらいな綺麗な二つだ。大きいと言うだけでなんか不思議に見えると思いながらそれを見つめていれば、アスリーさんは自然な動きで左手にフォークを、右手にナイフを持った……あ、もしかして、双剣の一種なのかな?
「あ、これはイベントで……イベントの“チョコレイドールvsマリオミント”って言う季節イベントの期間に作れる双剣っす。名前は……名前は、忘れて。すみません……」
「大丈夫ですよっ。そんなイベントがあるんですね~、すごいです! それで、どんな感じのイベントなんですか?」
「あ、イベントっすか? えっと、タイトルのチョコレイドールとマリオミントって名前通り、チョコのドールとそれを改良して作られたチョコミントのマリオネットが出てきて、あーえっと、説明が難しいんで詳しくは“大きなカブ”を見てほしいっす」
「ふむふむ、チョコレイドールとマリオミントってどっちも名前が可愛いから、見た目も可愛いんです?」
「そうっすね、お菓子みたいな見た目で、そのイベントに出てくるモンスターは可愛い……か、は俺は感性がずれているって言われてるのでわからないっすけど、みんな美味しそうではあったっすね。
あ。今はその話じゃなくて、そのイベントで作れるこの武器がちょっと特殊で……あ、ちょうど良いところに」
面白そうな話に目的を忘れかけていたところ、アスリーさんがハッとしたように話を戻して、辺りを見渡し一点に視線を止める。
私もそちらを見ると、スライムがプルプルと体を震わしながら草陰から出てきたところだった。
アスリーさんはそちらに音を立てず近づいてそのままサクッとフォークで刺した後、素早くナイフで一刀両断した。
「わぁ! すごいっすごーい!!」
「あ、ありがとうございます。あ、それでこれを見てください」
アニメみたいな華麗な動きに拍手して褒めれば、アスリーさんは少し照れくさそうにした後、倒した後のスライムの方を見るように言われる。
スライムって何かドロップしたっけと攻略サイトを思い出しながらそちらを見れば……高級料理とかで出てくる銀の皿に蓋がされた帽子みたいなものが落ちていた。
「こんな風に食材アイテムだけドロップするようになるんす。個別の食材アイテムが設定されていないモンスターだと“黒焦げのナニか”って言うアイテムが手に入るっす、いっ一応デメリットは食材アイテムとその黒こげのやつしか落とさなくなる感じっす」
「黒焦げ……食べられるんですか?」
「あ、食べられないっすね。料理以外でも失敗すると同じように“黒焦げのナニか”ができたりするんで、おそらく共通の失敗作だと思うっす。
スライムはちゃんと食材アイテムがあるのでそれが落ちるんすけど、その他の食材アイテムの場合はこの銀のやつのアイコンになるんす。試しに拾ってみてください、パーティー内ならドロップアイテム拾えたはずっすから」
言われた通りクローシュに手を伸ばせば指先に何か当たる感触がしたかどうかくらいで目の前から消え、“プルプルの素を手に入れた”とアナウンスが流れる。
「プルプルの……もと?」
「ゼラチンや寒天が細分化されてなくて、ゼリーとかそう言うのを作る時はそれを使う感じっす。それで、今から戦うラピッグにも食材アイテムが設定されてるんすけど、それはレアドロップ扱いなんす」
「レアなんですか?」
食材と言えば大抵のゲームでお世話になる回復アイテムとかなので最低レア度だと思ってたから、アスリーさんの言葉に驚いて聞き返してしまう。
「そうっす、えっと。アイテムは“共通アイテム”、“素材アイテム”、“食材アイテム”、“個別の素材アイテム”があるんすけど、小さい……いわゆるザコモンスターは素材アイテムがたくさん落ちて、食材アイテムは特殊な方法とか武器を使わないと採れないんす。
逆にボスモンスターとか大きいのになると食材アイテムのが落ちやすくて、素材アイテムは綺麗に倒さないと落ちない仕様になってるっす」
「へえー。あ、もしかして実際に解体した時に小さいとお肉が少なくて、大きい方がお肉が多くとれるのを再現してるのかな?」
前にテレビでジビエ特集の時にそんなことを言ってて、皮とかも大きい動物だと加工が大変だとかも言ってたしそんな気がする。
「そうっす! そんな感じでリアルなんすよ。それで、ロゼくんが欲しいのって何になるんすか?
もし、食材なら、俺、けっこう役に立てるんじゃないかなぁーって思ったり思わなかったり――」
「ちょ、ちょっと待ってください」
尻すぼみになりながらそう言うアスリーさんの言葉に、バッグから慌てて依頼書を取り出して確認する。討伐は四匹、ちょうどアスリーさんに教えてもらった“群れ”として活動し始める数で、納品は――。
「“ピンクの毛皮”?」
「あ、共通アイテムなんすね」
「共通なんですか?」
「他にもピンク色のモンスターが落としたりするっす。えっと、例えば、例えば……通常のは思いつかないんすけど、バレンタインとかジューンブライドとかの時に出てきたピンクのモンスターが落としたはずっす」
へー、そうなんだと相槌をうちながら依頼書をもう一度見る。
共通アイテムならラピッグ以外から手に入れた場合でも達成できたりするのかな? こう言う疑問ってすぐに調べないと忘れちゃうからと検索画面を開こうとして、目の前に上級者さんが居ることを思い出す。
「あの、これ、依頼書はラピッグを指してるんですけど、ラピッグ以外から手に入れた毛皮でもカウントされるんですか?」
「あ、良いところのに気づいたっすね。なんと、別のモンスターからのでも問題はないんすよ! しかも渡す時にちょっと面白い反応をしてくれて、あっちょうど前の残ってるんで町に戻った時に渡すんで是非反応を見てほしいっす。本当に細かいところまで作られてるなぁって感心できるしソロプレイでも楽しめる工夫がされていてすごいなってなるしですっごいんすっ!」
興奮したように早口で言うアスリーさんにちょっぴり引きつつも、どんな反応なんだろとワクワクした。
「あ、ここで話すよりサクッと討伐終わらせて町に戻るっす!」
そのままのテンションでアスリーさんはあっちあっちと指差して、ずんずんと先に進んでいく。慌ててあとを追えば、(ゲームの中の)私と身長はそんなに変わらないはずなのに、小走りでないと追いつけなかった。
「こ、これが……上級者、との……身体、能力……の、差……?」
だんだんとタイトルを考えるのが大変になってきました…。
大きく展開が変わらなければ1~XXみたいに番号をふってみることにしてみました。
 




