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15.初・報酬!

「えっと、えっと……あ! すみませーん、バニラくーん」


 人でごった返した受付には見知らぬNPC達が座っており、相手がNPCだとは言え初対面の人と話すのは苦手だなと思っていれば、人と人の間にチラリと青い髪を見つけて声をあげてからやっちゃったと後悔する。

 まだそこまで仲良くないのに私のためだけに来てなんてくれないよね……大人しく受付に行こうとしたところで、奥の方で作業をしていたバニラくんがこちらに気づき持っている書類を隣に居た人に頼んでこちらの方にやって来てくれた。


「どうしましたか、ロゼさん」


「あ、えっと、あの依頼をクリアしたので、それの処理をお願いしたくて」


「ああ、依頼達成の報告ですね?」


 まさか来てくれるとは思わず少し口ごもりつつ依頼書を出せば、バニラくんはニコリと笑って依頼書の内容を確認し始める。


「“フロッシェルの討伐と納品”ですね。では、依頼書で討伐の確認をしますのでお待ちください。

 はい、達成していることを確認できました。では、もう一つの納品の確認をしたいので蛙貝の提出をお願いします」


 へぇ、依頼書をコピー機みたいな道具に入れることで討伐の確認ができるんだ。ゲームの中だからそこら辺は適当なのかと思っていたけどちゃんと事務っぽい作業をするんだね、こう言うところで時間が使われるのを嫌う人は多そうだけど、カブはNPCが綺麗だったり可愛かったりするから私は好きかな。

 真剣な顔をして作業するバニラくんを眺めていたら、視線がこちらに向いてドキッとする。


「えっと、蛙貝、蛙貝ね……あ、ウィンドウでまとめて渡せるんだね」


 鞄の中に手を突っ込んでから蛙貝はそこそこの大きさがあるし、それに数もあるから受付のカウンターに乗せきれるかな?と悩んでいたら見慣れた半透明のウィンドウが現れた。そこには『蛙貝を渡す数を入力してください』と書かれ、その下には入力欄があり0~7まで入力できるようになっていた。

 依頼書に書かれていた納品数は6だったけど、私が持ってるMAXの数まで渡せるようになってるみたい。多く渡したらどうなるか気になるけれど、一応、他の依頼で必要になるかもだから“6”と入力すると目の前に数枚重なったデフォルメされた蛙貝が現れ、バニラくんがそれをカウンターから下ろして数を数えるような動きをする。


「はい、確認終わりました。依頼達成おめでとうございます、こちら、報酬になります」


――5,000Qを手に入れた。


 “Q”と書かれた布袋を受けとれば聞きなれたアナウンスが流れる。

 受け取った袋を胸の前でしっかりと持ち、邪魔にならないようにバニラくんに手を振りながらカウンターから離れて壁際でそっと袋を開ける。


「わぁ……すごい、初めて自分で稼いだお金だ」


 袋の中には金色の硬貨がいち、にぃ、さん……たしかカブでは100Q(キュウ)で金貨一枚だったから五十枚もの金貨がキラキラと袋の中で輝いている。

 これを自分の手で稼いだのだと思うとゲームの中だと忘れるくらい嬉しい。そっと一枚金貨を取り出してじっくりと見る。表には装飾された“Q”の文字が描かれ、裏には太陽?のようなマークが描かれていた。


「ふあ、すごい、キラキラで光がうっすら透けて――え、すっ透けてるっ!?」


 そのまま明かりにかざせば装飾されたQに重なるようにして太陽のマークが現れ、それがまた綺麗で見惚れていたところでハッとする。()()()()()()()()()!?

 どう言うことなのかと慌てて攻略サイトを開いて調べてみれば、金貨は『リンゴット』とと言う特殊な鉱植物(ミネラント)で作られているらしかった。


 鉱植物(ミネラント)は名前のとおり鉱物のように固い植物で、人の出入りが少ない鉱山や廃坑にいつの間にか生えてくる石のように固い幹に宝石に似た果物をつけるファンタジー植物で、その中でもアップルビーから()()にとれる素材がリンゴットで、なんとプレイヤーも入手可能らしい。

 ただ、この金貨みたいに加工するのは不可能と公式発表されているため、プレイヤーが加工しても成功なら金に失敗なら木炭(・・・・)になる。ただ、特定のNPCに渡すと高額で買い取ってくれたり、良いアイテムと交換してくれるらしく、金は金で普通に採掘できるからプレゼントとして使うのが普通らしい。


「すごい、まさにファンタジーって感じ!――ダイヤモモンド――エメラブドウ――わぁ~色々あ……サファイアボカド?

 んー? リンゴ、モモ、ブドウは果物でしょ? アボカドって果物なの? うーん、と。あ、果物なんだ、へー、食べたことないけど、テレビで料理とかで使われてたから野菜かと思ってた」


 新しいことも知れたので、私は検索画面を閉じて次の依頼を探しにボードの前へと移動する。

 壁にかかったボードにはたくさんの依頼書が貼られていて、一枚一枚確認するにはすごく手間がかかりそうだけど、そこはゲーム、近づくだけで私が受注できる依頼のタイトルがズラリと目の前に並び、私はその中から気になるのを選べば良いのである。


「あ! “キズグスリーフの納品”発見!

 えっと、なになに――キズグスリーフを十枚納品、報酬は()()()()()()!? え、薬って専門の職業の人しか作れないんじゃ……でも、受けられるってことは報酬も受け取れるってことだよね?」


 ウンウンと悩んでみたものの、覚えられるなら買わずに傷薬を作れてお得だよねと結論付けて私はその依頼書を選ぶ。


「えっと、さっきのフロッシェルの討伐と納品は採取にもなるはずだから、これを受ければ討伐一つに採取二つクリアになるのかな? うーん、これじゃまだ足りないよね。他に、は――」


 出ている依頼で討伐と採取をいっぺんにできるのはないかなと探していれば、“ラピッグの討伐と納品”を見つけた。

 内容はフロッシェルと同じようにラピッグと言う魔獣を討伐するものみたい。


 ラピッグはウサギとブタを足したみたいなモンスターで、体型は薄桃色の短いフワフワとした毛が生えたウサギに近くて、顔は大きなピンク色の鼻とつぶらな黒い瞳でブタっぽい。

 耳は長く垂れているから後ろから見たら完全にウサギなのに、顔がブタだったから初めて見たときはあんまり可愛くないと思ってた。でも、カブのグッズでマスコットに選ばれるくらいにはそこそこ人気のモンスターらしく、デフォルメやらアニメ風やらいろんな画風で見慣れればたしかに可愛いかな?って最近は思いだしてる。

 ちなみに、“バッドフライ”って言う、アゲハチョウみたいな柄の皮膜?を持つコウモリのモンスターもマスコットによくなってる。ただし、こっちのは状態異常にする攻撃をしてくるので序盤では出てこないらしい。


「マスコットモンスターの依頼かあ」


 他を探してみるけど、これ以外に討伐と納品がセットのは出てないみたい。依頼は毎日ランダムだと聞いたから、明日、またログインすれば別のがあるかもだけど、そうしたらどんどんとギルドに入るのが遅くなってしまう。

 でも、マスコットキャラクターになってるモンスターの討伐だよ?実物を見て可愛くて倒せなかったり~みたいなことよりも、マスコットキャラクターを攻撃するのってなんか抵抗あるじゃん。


「ううーん……悩んでいても仕方ない、今日はこれしかないんだし、これを受けよう……」


 私は依頼一覧から“ラピッグの討伐と納品”を選択して、手の中に現れた依頼書を受付へと持っていった。

 あ、ちなみに、依頼の受付と達成の報告でカウンターが違うので、バニラくんは依頼の受付の担当じゃないなので受付カウンターにはいない。なので、フロッシェルの時と同じく女性NPCに受付してもらった。


「よ~し、じゃっ、頑張るぞーっ!」




――*――*――*――*――*――




「はい。また、水玉草原です……ハァ」


 ぬかるんだ地面を見ながら思わずため息が出る。正直、前に来たときからこのエリアはあんまり好きではないんだよね。

 どこからモンスターが出るか分からないからもあるけど、このぬかるんだ地面の感触が好きになれないんだよね……なんか、こう、足の裏からゾワゾワゾワって鳥肌が上がってくる感じがするんだよね。


「でも、我儘は言ってらんないんだよねぇ、ここ以外に今の私が行ける“草原”のエリアはないから、ねっ……わわっ」


 水玉草原の名前の由来にもなっている、いくつもの小さな池や沼を避け、ぬかるんだ地面に足を取られながらラピッグを探して歩き回る。

 ギルドや攻略サイトの情報ではラピッグは群れで移動しているモンスターらしく、ここ!と言う場所にとどまったりはしていない。なので、こうやって地道に探すしかないらしい。


「モンスターごとに……好物が設定されてるって…………あったけど、そもそも……好物の場所がわからないと言うっわっわわっ! せ、セーフ」


 フロッシェルの時は水辺で鳴いていると分かっていたので、鳴き声を頼りに歩いていけばよかったけれど、今回は草をかき分けて探しながらだから何度も転びそうになっては体幹サポートに助けられる。たぶん、これがなかったら転んで泥塗れになっていたと思う。


「うーん、見当たら――ん、あれ……なんだろ?」


 遠くの方で黒い塊が動いてるのを見つけ、思わず足を止めてそちらを見る。

 黒い塊はあちらこちらへフラフラと移動したと思ったら急に立ち止まり垂直にジャンプをする。そして、また、フラフラと移動を始める。挙動不審な動きにモンスターの一種かと思ったけれど、よく見れば黒い尻尾が見えた。


「もしかして、アバター? なんか、見覚えがあるような、誰だっけ?

 …………あっ! アスリーさん!!?」


 なぜかその姿に見覚えがあり、知り合いにいたかな?と考えていれば黒い人影にチラリと鮮明な赤を見つけ、つい最近動画で見たばかりの人物(アバター)であることを思い出し、思わず名前を叫んでしまう。

 すると、向こうの方にいたはずのアスリーさん(仮)はピタリと動きを止めて、(おそらく)こちらの方へぐるりと振り返った。


 え、嘘。この距離で聞こえたの?ビックリして固まっているとアスリーさん(仮)はこちらに向かってずんずん近づ――えっえ、はっはや、はやくない!? ここ、心構えが……。


「……えっと、俺のこと知ってるんすか?」


 声をかけてから、目の前に来るまでの時間があまりにも早すぎて何て返事すればいいか分からず、声を上ずらせながら()()()男のふりをして返事をしてしまった。


「あ、はい。えっと、わ――()はミッチーの兄弟?のロゼって言いますっ」


「ミッチーさんの、兄弟…………って、あぁ!!? ノンノンさんがやたらと自慢してきた、あのっ!??」


「やたらと自慢!?」


 向こうが私のことを認識してくれて良かったと思う前に、それが兄の奇行によるものだと知って思わず叫び返してしまった。

 私が叫んだことにアスリーさんは肩を揺らして数m後ろに飛び退いた。


「え、あ……ご、ごめん。大声、苦手……でして。フヘ」


 後ろに飛び退いたことに私が驚いていれば、アスリーさんはなんとも言えない笑みを浮かべながらこちらにそろそろと近づいてきて、先程よりも離れた位置で立ち止まる。

 さっきの瞬発力もそうだけど、こう、警戒するような感じが種族がグルグウ族なこともあってまるで猫みたい。


 後ろと前髪が短くて、横上を伸ばして顎下で結んだ独特の髪型に、くまの目立つ三白眼って言うのかな? 白目がちな瞳は視線の方向がハッキリわかるので、じっとこちらを見つめられると緊張――あ、反らされた。


「急に叫んでごめんなさい……」


「あ、あぁ……せ、せめるつもりはなくて。その、ちょっと前の父親が乱暴な人でそう言うのが苦手……って、別に興味ないよね、他所の家庭のことなんて」


「えっと、まあ。うん」


 私のところもそうだけど、アスリーさんの家族もそれなりに問題があるみたい。本音を言うとちょびっと興味はあるけど、家庭のことをそうずけずけと聞くのはよくない、私だって聞かれたら嫌だもん。何て返すのが正解かは分からないけど、とりあえず興味はないですよ~と言う雰囲気は出しておく。

 意外と雰囲気で相手の言いたいこととか分かるもんだからね。大事、大事。


「あの、えっと……そうだっ! アスリーさんはこんなところで何をしていたんです?」


 なんとも言えない沈黙が流れる。何か話題をと考えて、最初に声をかけたきっかけを思い出した。

次回からはアスリーと一緒に遊んでいこうと思います。


06/08:種族名が不適切、また、覚えにくかったので大幅に変更しました。

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