13.いざ、初(?)依頼!
「お、おお。これがオープンワールド……すごい、果てしない」
私は今、町の外、ハスイレン湖とは逆の方向にいます。何故そこにいるか?って、それは――
「公式ギルドに入るんは一般的にいくつか依頼をこなしたら向こうから誘われる感じやね」
「向こうから?」
公式ギルドへの入り方を調べてなかったので、思わず口にした疑問にのんちゃんがさらりと答えてくれる。
「非公式でもするような、有望な冒険者の勧誘と同じ感じだよ」
続いてトルソーさんがそう言うと他の二人も頷いていた。つまり、公式ギルドに入るには依頼をこなさないといけないらしい。
「依頼っていくつくらいこなせばいいんですか?」
「ギルドとその依頼内容によんな。木漏れ日の歌だと討伐なら二~三回、採取なら五~六回くらいだった、かな?」
――と、言うわけで依頼をこなしに出ています。本当はもう少し、四回、五回目くらいやってから出る予定だったけど、まさかの二回目で(町の)外デビューです。
バニラくんの時に出てる?あれは町に近くて町の中判定のモンスターは出ない場所だったのでノーカンです。
「うう、ここからはモンスターが出るって分かってると怖い……一応、黙視でモンスターの確認はできるそうだけど、でも、怖い」
ちょうどモンスターが隠れられそうな腰までの高さの草が至るところに生えて、ポツポツと大きめな泉がたくさんある草原をビクビクしながらうろつく。
「えっと、依頼は“フロッシェルの討伐とドロップ品の納品”、フロッシェルはたしか貝と蛙が合体したみたいな魔獣で」
ギルドの受付で貰った“依頼書”と言うアイテムをもう一度見る。
そこには二枚貝の隙間から蛙の手足が飛び出した様な独特のモンスターのイラストと依頼理由、そして、大きくランクと報酬が書かれている。
この依頼書、依頼を受けると貰える特殊アイテムで依頼内容書かれていてそれの確認ができる……ってだけのアイテムじゃない。納品だとドロップ品と一緒に提出しなくちゃ依頼成功にならなくて、難易度によっては依頼書自体が失われる可能性があるのもあるらしい。
まあ、私が受けているFランクにはそう言うのはまだないので、普通に依頼をこなせばいいのでそこは安心である。
「えっと、フロッシェルの特徴は水辺に集まり大声で鳴き喚くが、大型の生き物が近付くと殻を閉じてしまうほど臆病。殻の強度は石より固く、人に踏まれたくらいでは何のダメージも受けない」
ここまではギルドにあった魔獣図鑑に載っていて、他にもお肉は食材に、殻は加工されて薬の材料になるらしい。
あと、たまにレアドロップとして真珠がとれるみたい。これは攻略サイト情報に載っていた情報で、使い道としては錬金術の材料になるらしくプレイヤー同士のオークションで高値で売れるみたい、手に入るかは分からないけど、もし手に入ったらのんちゃんにプレゼントしたいな。
「よし、とりあえず水辺にレッツゴー!」
今回の依頼をしっかり復習できたので出現場所である水辺へと移動をと、一歩踏み出したとたん目の前にでっかく“水玉草原”と現れてビックリして思わずよろけたが、カブ搭載のサポート機能によって転ぶことはなく、現実ではできないような仰け反った体勢で止まる。
「ビッ……クリした、エリア表示か。
それにしても……この角度でも転ばないなんてスゴいね……たしか、これが体幹サポート、だっけ?」
ポチポチとメニューを開けば設定の下の方に“体幹サポートON”と書かれている。これは運動神経が悪い人や私みたいに障害がある人も平等にプレイできるための機能で、現在プレイしているプレイヤーの平均的な運動神経に合わせて調整されている。
よくある全国平均のや国が出してる指標ではなく、プレイヤー=カブの世界での平均に合わせてくれているの! ここが私がこのゲームを選んだポイントでもある。
初心者が増えれば不利なんじゃない?と思う人もいるだろうけど、そこはちゃんとLv毎に分けられていて、このレベルのプレイヤーの平均って感じでサポートしてくれるので障害を感じず遊ぶことができるし、レベルが上がればそれだけ身体能力へのサポート範囲も増えると言う最高の仕様なの。
「……プレイヤーレベルの平均だから、私と同じレベルの人はこれぐらい倒れずに避けられるんだ」
体幹サポートの説明を思い出して、他のプレイヤーの身体能力に驚く。私は足が悪いけど、それを抜きにしてもこの角度は倒れ……ちゃったや、サポートの時間が切れちゃったみたい。
「うーん、そう考えると、玄人向けって言われてた召喚士で居続けるのけっこう不安かも……レベルが上がればサポートも上がるけど、平均だから限度があるし……」
やっぱり、ジェリーのレベルが上がるのを待つ前に転職しようか悩みつつ、メニューにあるエリア通知の大きさを目の前に浮かぶサンプルの文字を見つつ、小さいけど見逃さない程度の大きさに調整する。これで、良いかな?
念のため、他に驚く要素になりそうな通知の設定を弄って、改めて“水玉草原”へと足を踏み出した。
「わわっ……思った以上にぬかるんでる」
あっちこっちに泉があるからか、地面はどこもかしこもぬかるんでいる。足をとられるほど沈みはしないけど、足跡はつくくらいには足が沈む。
サポートもあってか足はスムーズに動くけど、ぬちゃぬちゃと水を含んだ地面の独特の音に少し戸惑っていれば、草の影からスライムが飛び出してきた。
「初心者が冒険に出る最初の場所としてはなかなかにハードじゃないかな、ここ。あ、スライム」
飛び出してきたスライムはチュートリアルで出てきたのとはちょっと見た目が違い、薄く青みがかっていて、弾力がないのかノロノロと這うようにして出てきた。
カブでは採取素材やモンスターは見つけやすいように最小は30cm以上に設定されている、なので、ナメクジみたいな動きだが大きいからかあんまり気持ち悪く感じない。
「えっと、ハートがグレーってことは、まだ敵対してないってことだから、こちらに気づいてないってことであってるよね?」
こそこそとスライムを観察していると近くに生えている草の根元で動きを止めモソモソと変な動きを始める。何をしてるんだろうと観察していれば、草がだんだんと短くなっていっている。どうやら草を食べてるみたい。
「へー、ちゃんと食事シーンとかあるんだ……あ、スライムが食べてる植物、採取アイテムだ」
草の上には未取得のアイテムを示す黒色のひし形が浮かんでた。取得した後だと属性があればその色、なければ白色のひし形に変わるって書いてあった。
「うーん、“図鑑”があれば登録されるから採取するべきだろうけど……持ってなくても採取した方がいいのかな?」
地図も図鑑もカブではアイテムやスキルが必要で、私はそれを持っていない。たしか、アイテムだと取得してからの情報が登録されて、スキルは……取得前からだっけ? とりあえず、満腹になったのかスライムが移動していったので、まだ残っている草を引っこ抜いてみる。
引っこ抜く前は長細い緑色のデフォルメされた草だったのに、引っこ抜いた後は手に持っているのも周りのもハートの形の葉っぱになっていた。
――キズグスリーフを手に入れた!
――初採取ボーナスが贈られました!
「キズグスリーフ……きずぐす、りーふ……傷薬とリーフをかけてるんだ、分かりやすい。傷薬の材料かな? うーん、鑑定系のスキルやアイテムがないから分からないや」
とりあえず鞄にしまい辺りを見渡せば、たくさんの緑色のひし形が浮かんでいるのが見える。その下には可愛らしいハートの葉っぱの草が生えていて、景色が一変してなかなか楽しい。
「あれ? これ、なんか、ハートの形が違う気がする……」
――キズグリリーフを手に入れた!
「キズグリリーフ? え、さっきのと微妙に名前が違う」
他とは違うキズグスリーフを採取したらキズグリリーフと言う、なんか、偽物みたいな名前の薬草(?)だった。どこが違うのだろうと鞄からキズグスリーフを取り出してキズグリリーフを見比べてみる。
並べて見れば、キズグスリーフはツルンとした肉厚の葉っぱをしているのに対して、キズグリリーフは肉厚でもハートの真ん中が割けたみたいなギザギザの葉脈が走っている。うん、見るからに毒草だね、これは。
その後、確認のためにとハートの葉っぱを採ってもアナウンスは流れなかった。もしかしたら最初だけ流れるのかもしれない、そう思いながら摘み取った葉っぱを見ればギザギザの葉脈が走っていた。
こ、これは、初心者向けのプチトラップってやつなのかも、間違えないようにしないと。気を付けながらハートの葉っぱの薬草だけを摘み取っていく、ある程度摘み取って分かったけど、十本に一本くらいの割合でキズグリリーフが見つかる。確率としては低いけど、適当に摘むわけにはいかないってのがちょっと面倒。
「こう言うのもたぶんカブでの楽しみ何だろうけど……はっ。そうだ、今回は薬草採取じゃなかった、フロッシェルを探さなきゃ!」
薬草採取に夢中になりすぎて本来の目的を忘れていた。私は慌ててその場に立ち上がり依頼書に書いてた鳴き声が聞こえないかと耳をすませる。
少し遠くの泉からゲコゲコゲコと声が聞こえたのでそちらに向かって走り出す。
「あ、あれ。声が聞こえなく……うわっ!?」
泉が見えてきたところで声が止んだことが不思議で、そのままの勢いで泉に近付けば、そこには緑色の大きな貝殻がひしめき合っていた。
「え、あ、こ……これが、フロッシェル? た、たくさんいる」
試しに一つ、持ち上げてみようとするがとても重い。私が比べられる重いもので言ったらお米一袋ぐらいなんだけど、それくらい重い。頑張って両手で抱えれば、何とか膝の位置くらいまで持ち上げられるがこれ以上は持ち上がらない。
体幹サポートがあるからここまで持ち上がるのか、それとも、ここまでしか持ち上がらないようになっているのか、どう頑張っても膝より上には上げられず、そのまま手を放せばボドンッと音を立てて少し地面にめり込んだ。
「お、重い……このまま持ち歩かれないようにの対策かな。さて、と、ちゃんと倒して依頼成功させちゃうよっ。出でよジェリー!!」
スライムでは倒せそうには見えないだろうけど、ちゃんと考えてきたのです。私が意気揚々と召喚すれば、野生のとは違うプルンと張りのある半透明のスライムが現れた。
「よい、しょっ……と。行け、ジェリー飛び付く!」
一匹のフロッシェルを少し離れた場所に移動させて、そちらに向かってジェリーのスキルを使わせる。
すると、スキルでキラキラとしたエフェクトを纏ったジェリーは勢いよく、ピタリと貝殻を閉じたフロッシェルにぶつかる。
ぶつかった衝撃でフロッシェルの半分以上がジェリーの中にめり込み、ダメージエフェクトの星が舞い散る。しばらくすると貝が少し開き蛙の後ろ足が出たと思ったらブルンッとジェリーを振り払って貝を閉じる。
「よしよし、ジェリー、もう一度飛び付く!」
私の掛け声にキラキラ光りながらジェリーはまた飛び付き、フロッシェルにダメージを与えると、また、ブルンッと振り払われる。
そんなことを二、三回繰り返した後。また、ジェリーに飛び付かせたとたん、パカリとフロッシェルの貝が開いて蛙の手足が飛び出した。
「やった! 気絶した!」
くるくるとヒヨコが回る気絶のマークを見て、私は作戦が上手くいったことに嬉しくなって跳び跳ねる。
これが私の考えた作戦。攻略サイトでフロッシェルは防御力が高いが動くことはほとんどなく、倒すにはその防御力を越える力で攻撃するか、弱点である火魔法で熱して貝が開いたところを攻撃すると書いてあるのを見て――動かないのならジェリーの飛び付くが外れることはないので、スキルにあった気絶するまで攻撃すれば倒せるのでは?と思い付いたの。
「ふふん、作戦大成功! 気絶状態なら攻撃し放題やもんね!」
鞄から初心者の杖を取り出してチュートリアルでした通り、三角形を描いて火の玉を気絶したフロッシェルにぶつける。一度攻撃したら気絶のマークがなくなり、また、バクンッと音を立てて貝を閉じる。
「むぅ、なかなか倒れない……防御力が高いのか、それともHPが多いのか。とりあえずもう一度飛び付く!」
なかなか倒れないフロッシェルを睨み付けながら、もう一度飛び付く作戦を実行した。




