12.のんちゃんのギルメン
今までの流れと今後の流れを考えて、少し書くのに時間がかかってしまいました。ある程度流れは決まったので、なんとか同じペースの更新を目指します。
「未解明……そんなのがあるんですか?」
私の疑問にネコスキーさんは神妙に頷いた。
「――カブには三章までストーリーがあって、それぞれの章で分岐があるの。第一章ではメイン属性分岐、第二章では種族分岐。第三章は第一章と第二章の結果による分岐……」
「それの種族で分岐されるストーリーが、自キャラじゃなくて、一番仲良しのNPCの種族の分岐だってことが最近分かったんだよねぇ」
ネコスキーさんの真剣な説明に被せるようにしてPさんがのほほんと重要なことを告げた。あ、ネコスキーさんちょっと睨んでる。
また、言い合いになる前に慌てて口を挟む。
「えっと、つまり、私の場合だとバニラくんと仲良くしてたら、ユニン族じゃなくってメェア族のストーリーになるってことですか? でも、攻略サイトでは自分のキャラの種族だって……」
「ああ、それ、第二章の種族分岐に入るまでにNPCのストーリーを終わらせてる必要があって、大抵の人は終わってないから自分の種族になるみたいでね」
「正直、NPCがそこまで重要だなんてみんな思わないもんねぇ」
「まあ、それを最近になって私達の検証班が発見したんだよ、それで今調査中なの!
それで話を戻すのだけど、その調査してる対象の一人がブルーベルなのよ」
「対象の一人? 分かってないストーリーは一つじゃ……」
私の目を見て真剣にそう告げるネコスキーさんの話にふと疑問が浮かび、そのまま尋ねてしまう。するとネコスキーさん達は顔を見合わせてニンマリと笑みを浮かべて胸を張った。
「一つ以外は調査完了済みなのよ!」
「大きなカブは優秀だから、ねっ!」
「その情報はまた配信するからロゼも見てみてな?」
「え! すごいっ、楽しみにしてるね!
あれ、でも、どうして一つだけ分かってないって分かるんですか?」
まさかのすでに調査完了済みなんて! のんちゃんが配信でよく褒めてるけど、本当に検証班は優秀ですごいな。あれ、でも……と、またしても疑問が浮かび口にすれば今度は打って変わって元気だったネコスキーさん達は肩を落とした。
「前の公式の配信中にチラッと種族の数を話をしてて、NPCにしかいない種族が五種類あるってこぼして……そこで足りない!って気づいて……」
「その足りない種族の内、天使――あ、教会にいる鳥獣人のこととか、ニコやスティみたいな実は獣人じゃない特殊キャラとか、そこら辺の種族は前々から怪しくて調べてたから簡単に分かったのだけど。でも、一人どうしても足りないなって、その足りないのが“魔族”だったんだよねぇ。
それで、今出ているNPCでストーリーが全然分からなくて、詳しい種族が分かってないのがブルーベルで、彼が最後の種族の魔族なのでは?って結論になってね」
「そこまでは! そこまでは良かったんだけど!
だけど、名前はギリギリ調べられたのにイベントが全然発生しなくて……」
「…………」
そこまで言ってガックリと落ち込むネコスキーさんの姿に何となく居心地の悪い気持ちになる。
そのベルくんのイベント、発生したっぽいし、なんなら一つクリアしちゃったっぽいんだよね。これは言うか言わないかどうすれば良いだろうと悩んでいると、ヒョコっとのんちゃんが私の顔を覗き込んできた。
「ロゼが悩む必要はあらへんで? ゲームの攻略はうちのギルドの事情でロゼはギルメンちゃうからな」
……私を安心させるためだろうけど、メンバーじゃないと言われると胸の奥がズキッと痛んだ。
せめて、私の知ってることを話して仲間意識だけでも持ちたいなと私はベルくんのことを話すことを決心した。
「あ、あの。私、そのベルくんのイベント遭遇したよっ」
「ん? ベルくんって??」
「えっと、ブルーベルって子がそう呼んでって言ってきて、それでなんか、イベントっぽいタイトルが出て、クリアも――」
「「ええっ!?」」
「嘘っ!?」
「ほ、本当に? ど、どんなのだったの!?」
のんちゃん含め、みんな、私の発言に驚いて、ネコスキーさんに至っては私にグイと顔を近づけてきて、のんちゃん達とは違うキリッとした感じのイケメンな顔に、女性だと言うことを忘れてドキッとしてしまう。
「え、ええっと……」
「どんなタイトル!? 内容は? 台詞はなんだった!!?」
「ちょっ、詰め寄んな! その時の視点ムービー借りればええやろっ、そんなグイグイ詰め寄られたらロゼが怖がるやろうがっ!!」
ネコスキーさんを突き飛ばして(たぶん、星が散ってたから攻撃したんだと思う)、のんちゃんが私の前に立ってみんなからの視線から隠してくれる。
そのお陰で、さっきまでバクバク暴れていた心臓も少しは落ち着かせれることができて、知らず知らずつめていた息を吐く。
「ごめんなぁ、ロゼ。こんな大勢に詰め寄られて怖かったろ?」
「う、ううん。平気っ! ちょこっとビックリはしたけどね、えへへ」
「あーーっ、ロゼは本当に良い子やわ、さすが僕の妹、可愛いの塊」
心配そうにこちらに振り返って聞いてきたのんちゃんは片手で顔をおおってそう叫ぶと、抱きついてきた。カブでは抱きつけないはずだから、のんちゃん、また、スキル使ってる……のんちゃんってこんなにシスコンだったっけ? 最後にあったのが事故の後の…………あんまり、覚えてないや。
嫌なことまで思い出しそうになり、頭を振って無理やり記憶を振り振り払う。
「えっと、そのさっき言っていた、“視点ムービー”?って言うのってどうやって見せれば良いの?」
「ああ、えっと、メニューにあるプライバシーと安全ってところから――」
フムフム、のんちゃんに言われた通り操作すると私が遊んできたカブでの景色がそっくりそのまま画面に映し出される。
何でこんな機能があるんだろうと驚いていれば、配信用として運営が用意した機能で、他にも盗撮とかの通報があった時に確認したりと色々な面で使われている機能らしい。今回も、私を取り囲んで説明させるより、視点ムービーを解析する方が良いと言うのんちゃんの意見により、私はベルくんと会ってから別れるまでの映像をのんちゃんに送った。
「――これで、送れてる?」
「ちょっと待っててな……うん、送れとる送れとる」
「こんな長台詞あったのぉ!?」
「女神の子……神の子……あの種族では少ししか触れてなかったワードがガッツリと出てるっ、これをクリアすればカブの世界がわかる……っ」
「うわわ、ガッツリ蛇だっ!? うぅ、猫なら良かったのに……ハゲか……」
「ネキ、毛のないキャラをハゲって言うのやめなよぉ」
目の前で再生された視点ムービーは、私の声も入っていて少し恥ずかしかったけれど、自分の視点を第三者として見れるのは新鮮だ。
あの時は戸惑ってばかりで、ベルくんのことをよく見れてなかったけど、こうやって見ると本当に美少女って感じ……本当はどっちなんだろう。
「ねえねえ、のんちゃん。あの、ベルくんってどっち、なの?」
「ん? どっち……って?」
「ほら、性別。ぼくって言ってるから男の子かとあの時は思ってたけど、こうやって見返すとやっぱり女の子な気がして、僕っ娘ってやつなのかなって」
「ああ、このキャラはロゼに対しては男の子やね」
「私に対しては?」
のんちゃんの言葉に首をかしげていると、トントンと肩を叩かれる。振り向けばトルソーさんがこちらを見ていた。
「ロゼはアジサイって知ってる?」
「あのピンクとか青とかの花が咲くやつですよね?」
「そうそう、それと相手に合わせて性別が変わることをアジセイって言ってな。ブルーベルはそのキャラの一人なんだよ」
「そんなのがあるんですか?」
トルソーさんの説明によると、昔から性別によって少しストーリーが変わることはよくあったのが、数年前に発売された『あなたはそれを愛と呼ぶ』と言うR指定の恋愛ゲームに出てくるとあるキャラが主人公のルートによって性別が変わっていたそうで、そのキャラのイメージがアジサイだったことから、性別が固定されていないキャラが“アジセイ”と呼ばれるようになったらしい。
「ちなみに、カブでもNPCに二人、ストーリーボスに一人アジセイはいるからそこまで珍しいって感じではないけどな」
「でも、知らなかったら話が合わなくてハテナになっちゃうよね~」
「ネキ、言い方古くない?」
「うっさいわね、自主規制!」
「そっちのピーじゃないしぃ!」
ネコスキーさんとPさんがもめはじめてワタワタしていると、ポンポンとのんちゃんが私の肩を叩いて二人から離れるようにジェスチャーをしてくる。
あ、肩は普通に触れるんだ……じゃなくて。
「え、え。喧嘩止めなくて良いの……?」
「よくあることだから、特にネコスキーは結構言い合いになること多いんよ、だから、気にするだけ無駄やから……うーん、猫が騒いでると思とき」
「今、猫って言った!!?」
「言っとらん、言っとらんからこっち来んな。Pと遊んどけ」
しっしっと、虫でも払うようにネコスキーさんを追い払ったのんちゃんは、じっと私の目を見つめ微笑んだ。
「ごめんな、うちのギルメン個性強いやつばっかでさ。真面目なロゼには騒がしかったやろ?」
「ううん、楽しいよ! なんか、こう。何て言うんだろう、文化祭とか、体育祭とか、さ。そんな感じの賑やかな祭?って感じがして、すごく。うん、すごく楽しいよ!」
「そう言ってくれると僕も嬉しいわ。困った時だけでもいいし、何ならQ目当てでも良いからいつでも連絡してな?」
「きゅう?」
「あ、ここでの通貨単位がQなんよ」
「つまり、お金目当てってこと? ――ふふ、あははっ。流石にそんなことはしないよ!」
真面目な顔で漫画みたいな台詞を言われ何処の悪女なのと笑ってしまった。
「――そうだった。せっかくだからロゼくん私ともフレンド登録しない?」
「えっ、良いんですか?」
「良いよ良いよ」
「僕もする~」
「私も是非させてほしいな」
ネコスキーさん達がひょこっと会話には入ってきて、プレイヤー名とIDが書かれた小さなウィンドウが三つ目の前に浮かんでいる。
私みたいな初心者とフレンドになってくれるなんて、これものんちゃん達の人徳ってやつなのかな? ありがとうございますと頭を下げて、登録のボタンをポチポチ押していく。
ふふ、兄達だけしかなかったフレンド一覧が少し充実してきた。
「あ、後これ」
――ネコスキーから1,000,000Qが贈られました。
「いち、じゅう、ひゃく……ええっ!? こ、こんな大金(?)受け取れませんよ!?」
「いやいやいや、これは情報料、正当な対価だから受け取って貰わないと」
「対価?」
「ブルーベルとの映像のことだよ、話だけじゃなくて映像だからねぇ」
「ここは笑顔で“ありがとうございます”が、正しいよ?」
三人にそう言われ、のんちゃんを振り返ればうんうんと同意するように頷いていた。こ、ここは素直に従うのが良いかも、私はニッコリと笑顔でお礼を言った。
「ありがとうございますっ」
「素直な子って可愛いーっ! 問題児ばかりだから癒される~、うちに欲しいけど……」
「レベル的にキツいだろうから無理でしょぉ」
「確かにノンノンやミッチーもいるけど、ノンノンは配信、ミッチーはソース確認で忙しいし常にどちらかと一緒と言うわけには行かないしな」
「う……誘う前に釘刺された……」
大人と言えばりっちゃんや叔父さんとしか関わってこなかったので、こうやって年上からチヤホヤされるのはあまり慣れてないから少し照れてしまう。
「えへへ、ありがとうございます、皆さん! 私、ギルドは公式のに入ろうと思ってるんです」
「公式の?」
「ええ!?? うち、そんな嫌!?」
「ノンノン、話しずれてる~」
「珍しいね、公式に入るなんて。ちなみに、どこか聞いても良いかな?」
まだ、私をギルドに入れることを諦めきれてないのか、Pさんにつつかれながらぶちぶち言ってるのんちゃんからは目を反らしてトルソーさんを見る。
「えっと、それはまだ決まってないんですが……攻略サイトで、公式ギルドだとギルドがある町ではギルドに泊まれるって聞いたので、お金――Qの節約になるかなって、あと、まだ人と関わるのが少し苦手なのでNPCで会話の練習ができたらなぁ……って」
トルソーさんとは初めて会ったのに、コミュ障なのを告白する必要はなかったと話してる途中で気づき、最後の方は声が小さくなってしまった。
そんな私の気持ちを察してくれたのかそこには触れずにトルソーさんは笑顔で答えてくれる。
「ふむ、それなら“木漏れ日の歌”に入るといい」
「“木漏れ日の歌”に?」
「ああ、あそこはタイジュ教が運営していた孤児院からできたギルドだから、あそこに入ってると自動的に教会でも寝泊まりできるようになるんだ」
「そうなんですか!?」
確かに、タイジュ教と木漏れ日は“木”と言う共通点が……あ、タイジュ教徒が鳥獣人だから、鳥の声を歌声に例えて木漏れ日の歌ってこと? 一度分かると少し考えれば繋がりが分かるようなネーミングだ。
「それは良いわね、あそこ、召喚士に向いてる依頼のが多かったはずだし」
「ギルドの支部なくても、タイジュ教の教会っていろんな町にあるもんねぇ、こだわりがないなら僕もオススメ~」
「うーん……うん、うんっ、あそこならヤバイNPCもいないし、僕も賛成する。うちじゃないのは残念やけど、入るんやったら安心なところがええもん!」
いつの間にか復活していたのんちゃんも合わせてオススメしてくれたので、私は攻略サイトを運営している先輩プレイヤー達を信じて“木漏れ日の歌”に入ることを決めた。
「……あれ、でも、どうやってギルドに入るの?」
更新が遅れたのですごくどうでもいい設定のオマケ
トルソーはロープレ、他は素でプレイ。
動く点PのPはパンダとかけていますが、ギルメンからはどうでもいいと思われています。
 




