10.ベラとベルと……
『コンコン~始めましての人はよろしくさん、ノンノンチャンネルへようこそ~』
『今日は不定期開催の推しキャラ座談会やで~。のんびり語るって言うのも配信の醍醐味やから攻略情報みたい人はごめんな?
では、早速、今回のメンバーを紹介しまーす。どうぞ!』
『はいはい、どうも! “大きなカブ”検証班アイテム部部長の創造紳士です! 紳士だけど女プレイヤーで~す』
『えっと、あ……あああです、えっと、その、よろしくです』
『はい、なんと! うちの重鎮、創造紳士さんとカブ内のプレイヤーランキングに載ったほどの実力者あああくんが来てくれました~、拍手~。あ、投げ銭ありがとー』
『創造紳士さんは過去にもよく話題に上がってたから知ってる人は多いかな? うちのギルドの初期メンで前線にも出てくる生産職の人やで~、ん? ああ、そうそう、見た目は話したことなかったな、ご覧の通りウサギの子やで。ぶち柄の垂れたうさ耳にアリスモチーフは鉄板で可愛いんよな~、ん? 女性に年齢聞くんはNGやで?
そんであああくんは……お、そうそう、前にミッチーが話してたフィジカルお化けの子やで~、総プレイ時間が100時間越えたプレイヤー特典の目のくまと首輪がチャームポイントのトラの子やね――その首輪はなんですか?――僕も知らんねんよ、それなんなん?』
『えっ! い、いきなり振られるんすねこう言うのって。えっと――可愛い?――ありがとございま、え――黒い?――ああ、見た目は真っ黒にしてるんです、黒が好きなので、はい。
あああ、質問でしたよね、すみません。えっと、この首輪は忠誠の首輪ってやつで、前に入ってた公式ギルドの“カルペディエム”で貰った装備品で、カルペディエムのNPC以外から避けられるってメリットがあります、はい』
『いやそれデメリットー! メリットは“カルペディエムのメンバー達が友好的になる”でしょー!? 間違った情報は検証班が許さないぞっ』
『ひぇっすみません! 根倉陰キャからしたらこう言う効果の方がメリットに感じられるので思わずそう説明してしまいましたが確かにデメリットになりますごめんなさいほんとごめんなさい』
『ちょっとちょっとー、喧嘩しやんといてや。今日は推しキャラ座談会っ、まぁったりの~んびり!が、テーマやで?』
『そうだった、騒いでごめんね』
『す、すみません』
『んじゃ、推しキャラ座談会はじまり~』
『イエーイ』
(パチパチパチ)
『これって、個人的な推しキャラで良いのよね?』
『せやで、ここで攻略サイトのランキング出してもしゃーないやろ』
『うーん……検証班としてはランキングも見てほしいところだけど、私は広報じゃないしノンノンに任せるっ』
『お任せを~。んじゃ、ま、最初は僕からいくかなぁ。僕の推しキャラはムギやな』
『ムギ、って確かイベントに出てくる仮面を被ったキツネっぽい子よね。イベント最後で仮面の下から美少女出てくると言うエモい感じの。
――ネタバレ?――あ、そう言うのは話しちゃダメな感じ?』
『いや、大丈夫やで~。
基本的にイベント当日にその内容話すのは投稿サイトでもNG出てるけど、過去のイベントとかは基本自由に話してOKやで~、ノンノンチャンネルではうちが運営してる攻略サイトに載ってることは話すから注意!ってチャンネル説明にあるからこの場合はセフセフ』
『え、前にこのサイトでイベントの配信動画見たんすけどあれってアウトのやつやったんすか……?』
『ん? ああ、生配信と編集して配信するやつとで規約が少し違って――ごめんごめん、座談会やったな、詳しい説明は後で内々でするな~。でも、とりあえず、ここまで話しといて終わるんはあれなのでざっくり言うと、イベント当日の生配信OKなんよ』
『そうなんすね……なんか、配信って簡単に考えてましたけど難しそうっすね』
『他ん所みたいにルールガチガチってわけやないから覚えれば楽やで?
まあ、配信の話は置いといて……推しキャラの話に戻るんやけど。そのムギって子が仮面の時はツンって感じやのに、最後の最後で仮面外した時に無邪気な少女に戻って……っ! イベントと相まってごっつええ感じなんよ!』
『確かに可愛いわよねーっ。こう、呪縛から解き放たれた?って感じが“夕暮れの隠れんぼ”ってイベントタイトルとマッチしてて』
『そうそう。お――私もムギちゃん好きです――あのイベントは泣いた――ええよな、ええよな――あの夕暮れの物寂しげな感じが最高でした――分かるわーっ!』
『……あの。盛り上がってるところ申し訳ないんすけど、モブじゃ、なかったでしたっけ、ムギって……? 確か、丘の上でもうすぐ日が暮れるねって話すだけの……』
『ん? ああ、ムギはイベントの時だけ特別なアクションするNPCなんよ。普段は夕暮れの丘で“日が暮れちゃうね?”と“もうすぐ帰る時間ね?”くらいしか話さんけど、イベントやとちゃんと喋るし、なんなら動き回るで』
『なるほど、イベキャラってことっすか……』
『あ、そうだ! ムギちゃんが活躍するイベント――“夕暮れの隠れんぼ”の情報は我がギルド運営の攻略サイト“大きなカブ”に載ってるから是非チェックしてね~!
URL載ってる? あ、載ってるね! ここをチェック~』
『めっちゃ宣伝するやん。宣伝したんやから次は創造紳士さんな?』
『はいは~い、私の推しキャラは――バニラくんことバニたん!』
『バニラって、初心者向けNPCランキングの子なんでは? 宣伝?』
『宣伝もちょっとあるけど、普通に推しよ~。あの儚げ美青年って感じがこう、母性をくすぐるって言うか、ストーリー見たら、こうさ、バニたん幸せになって~って思わない?』
『う~ん、“木漏れ日の歌”との好感度上げてないからそこのNPCのストーリー進んどらんのよなあ』
『えーっ、あそこはギルドの依頼こなすだけで所属してるNPC全員の好感度上がるシステムなのにもったいなーい!』
『あ、あのあのっ、そのオススメのバニラってどんな子っすか? 俺、あんまりNPC詳しくなくて』
『あああは、知らんっけバニラは――『説明しよう!
バニラ、通称バニたんは元孤児院と言う背景を持つ公式ギルド“木漏れ日の歌”に所属するベェア族の青年で、彼はなんとβ版から居るNPCの内の一人! しかも、β版では彼との会話でしか出てこなかったキャラも一緒に正規版に実装されると言う破格の対応を受けたキャラなのです!』
『へ、へえ、すごいキャラなんすね』
『そうよ~すごいのよ~。あ、バニたん繋がりで仲良くなれるキャラのことも攻略サイトに書いてるのでチェックしてね♪』
『まぁた宣伝……もう、次、いくで。あああくんの推しキャラどうぞっ』
『えっと、俺の推しキャラは“カルペディエム”のギルマスのベラ様です』
『うっわ、全キャラの中でも最悪中の最悪女じゃん! あああってそう言う趣味なの? あ、もしかして巨乳好き?』
『えっ!? いいいいや、そ……びっ美人じゃないっすか! ね、ノンノンさんもそう思いますよね!!?』
『え、僕? いや、別に僕は胸は特に――ノンノンは足フェチ――あ、そう言えば前にそんなこと話してたなー』
『ノンノン、こう言う話題でもあんまり焦らないね、つまんなーい』
『そこまで狼狽えるようなことか? でもさ、ベラ様ってストーリーに出てくるベラドンナやんな。あれはボスキャラやから趣旨とちょっと違くないか?』
『む、ノンノンさては攻略サイト全部見てないね? ベラドンナは“カルペディエム”のマスターでもあるのよ、しかも、イベントキャラを除いた今いるキャラの中で一番強いの』
『そうなん!? あ――ベラドンナがギルマス?――ごめんごめん、みんなもついていけんよな。さっきみたいに画像を……っと、これがギルマス時で……これが、ボスの時かあ。こうやって並べてみると確かに同一人物やけど、ギルマスの時はゴシック? いや、これは喪服かな。で、ボスの時はドラゴンの姿だから雰囲気が全然違うな。
あ、創造紳士さん、見てみーや。僕みたいに仲良うなれるの知らない人結構いるみたいやで――ふつくしい――女王様――みんなのトラウマ――うんうん、色々、言われとるね。でも、やっぱみんなのコメント見る感じストーリーで出会う人のが多くない?』
『攻略班から言わせてもらうと、序盤の分岐で裏ルートに進むと高い確率でストーリーボスと出会うよ?』
『そうなんや。僕は通常ルートやったからなあ』
『通常? 裏?』
『そ、あああは、ゲームで悪いことして“カルペディエム”に入ったわけじゃないでしょ?』
『え、はい。あの、最初の頃に勧誘されて……もしかしてそれが?』
『そうそう。でも、普通は裏ルートって入るのすごく難しいのよね。だって方法が――』
「うんうん、なるほど……そう言う」
動画を停止させ映像の中で紹介されてる癖のある黒髪の美女――ベラ様を見て首をかしげる。
「うーん、ベラってのが誰かは分かったけど、ベルくんの情報が見つかんない……もしかして、私が初遭遇? いやいやいや、まさかそんなわけないよね」
もう一度、攻略サイトで“ブルーベル”と調べてみるが検索には引っ掛からない。普通に検索したら可愛らしい青いお花の画像がズラリと並ぶだけで彼の情報は一切見つからない。
それに、彼のあのナーガのような姿も調べては見たけれど、カブでは人型のモンスターはいわゆるストーリーに出てくるボスだけで、それ以外にはいないらしい。
つまり、今ある情報だけでまとめると彼は未発見のボスと言うことになる。
「うー、やっぱりMMOは難しいよ」
考えすぎて頭が痛くなってきた。ばたりと地面に仰向けになって寝転べば、メニューにお知らせのマークがついている。何だろうと開いてみれば、バニラくんにビックリマークのアイコンが出てる。
これはたしか、イベントマークだ! よく分からないけど、バニラくんとのイベントが進んだみたい。動画でも初心者は仲良くなるべきって言っていたし、ベルくんのことは横に置いておいてこっちを先に進めちゃおう。
「えっ、と。アイコンをタッチすれば連絡ができるんだったかな?」
『あ、もしもし? 聞こえますか?』
「あ、はい。聞こえます」
『今、湖に居ます?
ちょうど良かった。もうすぐ、仕事が終わりそうだから、上に出禁の解除許可をもらったら合流できそうなんです』
「そうなんですね。わかりました、待ってます」
『お願いします。では、また後で』
ピコンと通話が切れると、アイコンが移動中のマークに切り替わった。
湖で男の子と待ち合わせなんてデートみたい。恋シュミ系のゲームはしたことないけど、こう言う感じなのかな? 一人でにやにやしながら空を眺めていると、不意に誰かが覗き込んできて影になる。
「え、バニラくん速っ!?」
「バニラ? 君、バニラのとこの冒険者?」
声変わり前の少し高めの男の子の声が上から降ってくる。バニラくんはもう少し高いから明らかに別人で、驚いてびくりと縮こまっていると、彼は私を覗き込むのをやめて、頭の直ぐ横に座り込んだ。
「え、ええっと、誰でしょうか」
「んー? それは知らなぁ方が、お互いのためだと思うなぁ」
訛ってるとは少し違う、どこか間延びしたような話し方をする彼は赤い瞳でじっとこちらを見つめる。
目の色が分かるくらいなら顔が見えるはずなのだけど、何故か彼の顔、と言うか全体が黒いシルエットのようになっていて全然見ることができない。これはおそらくゲームの仕様だろう。紫色の髪の男の子に赤い瞳の男の子、不思議なキャラにばっか出会う、これも全てイベントなのかな?
「そうそぉ、バニラにあったら伝えといて。ごめんなさい、って。あと、これ、渡しといて」
――手紙を手に入れました。
「よろしくねぇ」
赤い瞳の男の子がいなくなった後、体を起こして渡された手紙をよく見る。
少し黄色がかった封筒に赤い蝋燭で封がされている。これは、いわゆる封蝋ってやつだよね? シーリングスタンプとかに憧れていたのでじっと赤いロウを観賞する。ぷっくりしたロウに縁取られ、丸く凹んだ真ん中には……何のマークだろ、これ。
角度を変えて見てみるけど何かよく分かんない。花のようにも見えるけれど、それにしては凹凸が少なくて花びらがほとんどない。
「うーん、何だろうこれは……」
「ロゼさーん!」
うんうん唸っていたら、遠くから私を呼ぶバニラくんの声が聞こえた。
04/19:アスリーの種族を間違えていたので修正しました。
06/08:種族名が不適切、また、覚えにくかったので大幅に変更しました。




