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プロローグ

久しぶりの連載です。

宜しくお願いします。

 私は箒を持って、自分の生まれ育った屋敷の玄関の前で掃き掃除をしていた。

 金の長い髪を無造作に一つにくくり、服装は質素なワンピースを身に纏っている。一見すると顔が綺麗で、仕草も洗礼されているので令嬢のように見えるらしい。

 だけど、よく見ると服装や体の手入れが行き届いていない。きっと他所の人が見たら、服装や仕草がちぐはぐな不思議な少女に見えただろう。


 そこに、年の頃は三十半ばくらいの女性と私と同じくらいの女性が現れる。この二人は、お父様の愛人とその子供。

 私のお母様が亡くなった後に、お父様が突然家に連れてきたのだ。

 私は、お母様の喪も明けてはおらず賛成することはできなかった。それなのにお父様は何を言っても聞いてくれず、気が付いたらこの二人に屋敷を乗っ取られていた。

 今日もいつものように、二人は派手な衣装を身に纏い私のところにやってきた。


 お父様の愛人である、アンジェリカが口を開く。


「エレーヌ、しっかり働いているのかしら? これからは、貴方の代わりに私たちがこのブルックス家を切り盛りするんだから。本当だったら貴方なんかいらないけど。でもかわいそうだから、この家に置いてあげてるの。私たちに感謝してよね」


 私は、悲しげな表情で無言で立っていた。だって、何を言っても通用しないのがわかっていたから。


「何か言いなさいよ! しゃべりかたも忘れたの?」


 娘のプリシラが、私を馬鹿にして冷ややかな視線を向ける。これもいつものことで、私はもう諦めていた。

 何か言い返すと、二人ともヒステリックに理不尽なことを叫んで私を追い詰める。そんな毎日に疲れてしまったのだ。


 二人は、私が何も言い返さないのを見ると面白くないのか、ふんっとそっぽを向いて屋敷の中に戻って行った。

 あの二人は一日に一度、私に嫌がらせをしないと気が済まないらしい。私は、どんよりとした雲の多い空を見上げて溜息をつく。


「お母様、どうして死んでしまったの? 私は、どうすればいいのかしら?」


 私は、空に向かって呟いた。

 お父様が、一人娘の私を可愛がっていないことなんてとっくに気づいていた。でも、お母様や屋敷の使用人たちが、私に愛情を注いてくれたので寂しくなんてなかった。

 それにお母様は生前、お父様のことを悪く言うことがなかった。だから、父親ってこう言うものなのだろうと思っていただけだった。


 まさかお母様が亡くなった途端に、婿入り先の屋敷に愛人を連れてくるなんて……。そんな非常識な人だったなんて思いもよらなかった。

 怒りよりも、悲しい気持ちの方が強い。私は、自分の父親が愛人やその娘を可愛がってたって別によかった。だって、娘の私から見たお父様は、魅力なんてなかったから。物心ついた時から、父親には距離を感じていた。

 だから私は、今までと同じ生活を送らせてくれれば何だって良かったのだ……。だってこのブルックス家を継ぐのは私しかいないから。

 この国の法律だと、家を継ぐのは男女に関係なく直系の子供のみ。だからお母様の実家であるブルック家の当主は、お父様ではなくお母様だった。

 お母様が身体が弱く、当主としての仕事ができないから父親が当主代理として家を切り盛りしていた。父親は、私が成人するまでのつなぎでしかない。


 お母様が亡くなってしまったことはもう仕方ない。だからお父様が、ずっと一人でいる必要なんてないから、新しい幸せを手に入れてもいいと思う。

 ただ私を、どうしてこんな風に扱うのかそれだけが信じられなかった。


 私は、そんな寂しくてやるせない気持ちを空の上に向けた。




 その光景を、空の上から見ていた人物がいた。一面真っ白な雲の世界で、湖に映る娘の姿を長いことじっと見つめていた――――。


 

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