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第8話 ダークマター

 エルフの里で一日の休養を終えたあと、俺は里を出ていくこととなった。

 しかし、その前にソフィアが里のみんなを集めて宣言したいことがあるらしい。

 ようやく本腰を入れる気持ちになったか。

「聴いてくれ。私はこのたび、この里を離れることを決意した。よろしく頼む!」

 長老たちの前で頭を下げてお願いするソフィア。

 その様子を見ていた一部のエルフが反発を強める。

「そんな男と一緒にどこに行く気だ!」「ソフィア、お前はおれたちの希望の光なんだぞ」「里の外は危険だ。やめておけ」

 様々な声が上がるが、長老が前に立ち、みなを落ち着かせる。

「里の一大事じゃ、確かに里の外に出るのはわしの意見が必要じゃな」

 長老は振り返り、ソフィアに身体を向ける。

「お主・ソフィア=クラベルをエリアの里から追放する!」

「「なっ!」」

 俺とソフィアは同じく声を上げる。

「この者に続くエルフが現れんことを切に願う」

 この里の掟を破るから、法規的措置を行うために、そういう言い回しをするしかないのだろう。

 これでも優しい方なのかもしれない。

 もしかしたら考えが変わるまで軟禁されてもおかしくはないのかもしれない。

「私、おかしいですよね。でも、ジュンイチが私を連れ出してくれる」

 え。なんか俺のせいになりそうなことを言っているんだけど。

「ジュンイチがいなかったら、私外の世界を見てみたいとは思わなかったわ」

 凜とした声音で、にこやかに微笑むソフィア。

 俺とソフィアはエルフの里を追い出され、麓にあるアイシアのいる小屋へ向かう。

 その道中、少し休むことにした俺たちは、近くの切り株に腰を落ち着ける。

 葉っぱに巻かれたおにぎりを出すと、俺たちは仲良く食べ出す。

「しかし、ジュンイチがかばうとは思わなかったよ」

「あのときは俺も必死だったからな。それよりクラミーはどうしているかな」

 クラミーは裏切るような奴じゃないが、俺を置いて逃げたのは事実だ。あの後、父親に薬を届けられていればいいが。

 それにしても、薬草を持って帰れない俺はどうなるのだろう。アイシアをがっかりさせてしまうか。

 悩みの種が一つ増えたところで、俺はおにぎりを食べ終える。

「そろそろ行くか?」

「ちょっと休んでからにしよ。食べていきなり動くのは身体によくないわ」

「それもそうか」

 ソフィアはそう言って俺に無理をさせようとはしないのだった。

 その気遣いが嬉しい。

 しかし、こっちの世界のことはまったく分からないな。

「おい。聴いたか。王様が復活したって」「なんだよ。そりゃ。急病で休んでいるんじゃないのか?」「また圧政かよ。勘弁してくれ」

 通りすがりの旅人が言い合えっているのを見て、俺もソフィアも疑問符を浮かべる。

「そこの、どういうことだ?」

 俺が旅人に尋ねると、ちょっと眉根を寄せて喋り始める。

「それがランスロットって王様はみんなに圧政を強いて、自分だけ楽をしようというのだからひどいもんだ」

「でも反乱とか起きないのか?」

「逆だよ逆」

 旅人は苦い顔をして顔を歪める。

「え。どういうことだ?」

 俺は訳も分からずに混乱する。

「ランスロットの奴、軍に大金支払って、取り立ての任務に当たらせているんだ。だから反乱しようにも、武装された軍に抑え込まれるのさ」

 なるほど。軍を最大限に利用しているわけだ。甘い汁を吸った軍は反感を買うことはない。

 その上で取り立ての任務を与える。これほど効率の良い仕事もないのかもしれない。

「しっかし、嫌な奴だね。ランスロット王ってのは」

 ソフィアが顔をしかませながら、歩き出す。

「ああ。そうだな」

 俺は王様のせいでこっちの世界に連れられてこられた。それも美愛を置き去りにして。

 その一端である王様には心底苛立っているのは事実。

 それに民衆からの支持もよろしくないと来ている。

「王を討伐するか」

「無理じゃな」

 久しぶりに帰ったアイシアの小屋で、俺はソフィアとアイシアに宣言した。

 が、みんなが否定的な意見を言う。

「王様を倒して、その後はどうするんじゃ? お主が代わりを務めるとでも?」

「そ、それは……」

 陰キャでコミュ障な俺にそんなことができるわけがない。

 それを分かっていて、アイシアはわざと突き放すような言い方をしている。

 血迷ったことを言わせないために。

 これからはアイシアの元で生きるべきだと。

 矛を沈めるべきだと。

「して、薬草は見つかったのう」

「見つかった!? どこに?」

「昔、乾燥させて保存してあったのを思い出したわい」

 アイシアはそう言うと土鍋で色々な食材をぐつぐつと煮込む。

 できあがった固形物が水の上を浮いたり沈んだりしている。

「ようし。ようやく完成じゃ、あとはこれを――ぐへへへ」

「笑い方が汚いな。それにしてもそんなものどうするんだ?」

 アイシアは一通り笑い終えると、言葉を発した俺の顔をマジマジと見つめてくる。

「言ったろう。手勢が足りぬと」

 アイシアはソフィアに顔を向けると訥々と語り出す。

「正直、エルフ族の話は驚いた。しかもこんな美人さんを仲間に引き込むことができるなんてのう。しかし、エルフの魔法は魅力的じゃが、身体能力の高い奴が欲しいんじゃ」

 そう言って得体の知れない食べ物を小瓶に移すアイシア。

「しかしのう。エルフを連れてくるとは」

 相当驚いているのだろう。ソフィアのことをしきりに話したがるアイシア。

 しかしソフィアは筋肉フェチだ。その変態性を無視できまい。

「おばあちゃんは薬師なのですか?」

 ソフィアが腰の曲がったアイシアに視線を合わせ話しかけてみる。

「そうじゃよ。悪い魔女さまじゃ」

 クスクスと悪そうな笑みを浮かべ、瓶の中のダークマターをかき混ぜるアイシア。

「そう、なのかな……?」

 ソフィアが困惑したように微笑む。

「そうじゃ。今からこのフェネックを人間に変えようとしておるからのう」

 どこで捕まえたのか、フェネックがこちらを見てシャーっと威嚇してきた。

 そのフェネックは目の前に置かれたダークマターを見て、不思議と近寄ってくるではないか。

「いやいや、そんなもの食べないでしょ」

 俺のツッコミを無視してフェネックはダークマターを口にする。

 ボコボコと泡を吹き出し倒れる。

「ヤバくない? あれいいのか?」

 フェネックとはいえ、命は命だ。むやみやたらに殺生をするのは気が引ける。

「大丈夫じゃ。もう少し信じておくれ」

 ボンッと音を立ててフェネックが弾ける。いや、煙が充満して見えなくなる。

 煙が晴れると、そこにはフェネックの耳と尻尾をつけた全裸の美少女が現れる。

 小さなおっぱい――ちっぱいに、白色の長い髪の毛、くりくりとした大きな黒い瞳。顔は整っており、どこか西洋人形に似ている。

「へ。こいつは、誰?」

 俺が呆けていると、アイシアが毛布を見つけてくる。

「お主、いつまで見つめているつもりじゃ」

 つるんつるんの彼女に毛布をかけて奥の部屋に連れていくアイシア。

「さすがに女の子の全裸を見つめるのはキモいよ」

 ソフィアからきついお叱りを受けるが、俺が悪いのか?

 しかし、さっきのダークマター。もしかして動物を擬人化する能力ではないか?

 そうだとしたら相当すごいぞ。

 サメやドラゴンも擬人化できるのか!?

 いやドラゴンとかいないか。

 その図上を災害級のドラゴンが駆けているが、それはまた別のお話。

「しかし、君もおかしな人だね」

 ソフィアがふふふと可笑しそうに笑う。

 それがなんだかむずがゆくて困惑する。

「だって。君見蕩みとれていたじゃない」

「見蕩れていた? 俺が……?」

 そんなバカな。

 そのとき、筋肉が動いた。ソフィアがよだれを垂らしている。

 全部台無しだよ!!

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