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第8話 勇者の条件

僕は幌馬車の荷台から、馭者台に座るランデバルトの背中に向かって叫んだ。


「ら、ランデバルト! 大変だ!」

「はあ? 坊主、いきなり呼び捨てとはどういう了見だ?」

「しまった、いつも心の中で呼んでたんだった。じゃなくて、大変だって! 勇者が女だったんだ!!」

「お前、いつも心の中で呼び捨てとかやっぱり猫被ってやがったな? って、ええ、女?! はあ? 勇者だぞ?!」

「だよな、真っ黒の髪も目も勇者だよ! だけど大事なものがついてないんだ!」

「お前見たのか?!」

「不可抗力だーーーーっ」


力一杯叫んだ。

こんなに頑張った覚えは人生で初めてかもしれない。

そりゃあ嬉しい神が与えた試練であったことは間違いないが。

孤児院育ちの僕は、女性の裸体など拝むことができない。神殿の男女の区別をしっかりと分けた孤児院だったからだ。

まあ神官が隠し持っていた聖女と称した裸婦像ならたくさん見たことがあるが。なんでも宗教を絡めれば許可されるところは素晴らしいが、堕落していると言われればそれまでだ。

とにかく女体の神秘は絵でなら知っているが、実際に見たのは初めてだった。

幼女の体なので、思ったほどは興奮しなかったが。



「っは、違う、そうじゃなくて、女なんだよ! どうしよう?」

「いやいや、創世記にも勇者がたくさんキレイどころの女神侍らせて子を産む話があるだろう。500年前に語られている勇者だって男だ。勇者が女ってのはあり得ない。それは勇者じゃないぞ。神官見習いでも常識だろうが」


ランデバルトが一旦馬車を停めて、後ろを振り返る。

思いのほか真剣な表情に、僕も事態の大きさを実感する。


勇者は男である。

これは勇者の容姿が黒髪、黒眼を持つという点と同じ絶対的な勇者の条件だ。

それ以外にも神聖魔術を自由自在に使え、動物に好かれるなどの条件がある。


「そんなに疑うなら騎士様も見てみればいい」

「俺は坊主と違って婦女子の体をみだりに眺めたりはしないんだ」

「卑怯! 僕ばっかり罪人に仕立て上げる気だな! だから、汚れた服を着がえさせたかっただけで、やましい気持ちはこれっぽっちもないって言ってるだろっ?!」


清廉潔白そうな顔でランデバルトがきっぱりと答える。

てめぇ、普段あれだけものぐさ気取ってて、突然手のひら返すなよ!


僕だってそんな邪な思いばかりではない。そりゃあ街に出て可愛い女の子と話すのは好きだが。さっきも舐めるように勇者の裸体を眺めまわしてしまったかもしれないが。

それについては黙っていよう。


「とにかく、これは俺たちの手に余る。上に相談するしかない。飛ばすから、しっかりつかまってろよ」


ランデバルトの言に、僕は大きく頷くしかなかった。

そうして幌馬車は、暴走馬車と化すのだった。

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