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第5話 夜の悪魔退治

この山猿が勇者だと?!


「騎士様、この悪魔の接近には気が付かなかったんですか。害意しかないと思うんですけど…」

「今、そんな話してる場合じゃないだろっ、悪魔だぞ! こっちは足手まといばかりだってのに!」

「うがうっ」


獣のように勇者が吠えた。

ぴりっと雷のような静電気が見えた。

途端に、ばりばりっと耳をつんざく轟音がありどんっと悪魔めがけて雷が走った。


「ぎゃあっ、無詠唱で神聖魔術?! さすがは勇者ってところだが手あたり次第に攻撃するなよ。ひとまず悪魔とは交渉するところから始めようぜ!」

「第4階梯神聖魔術『聖なる雷光』ですね。悪魔との交渉なんて碌でもないものばかりじゃないですか…」

「ふうっ、先ほどから小賢しいことばかり。いい加減にくたばりなさいっ」


悪魔がぎろりと瞳を光らせた。勇者の力が弱いのか見た目ほどのダメージは与えられていない。

途端、何かに押しつぶされそうになる。上からのしかかられる見えない重みに、思わず膝をついた。


「ぐっ」

「ぎゃうっ」

「ううっ」

「そのまま潰されるがいいっ」


高らかに悪魔が嗤う。


「勇者を差し出せば、僕たちは助けてくれるんじゃなかったんですか?」

「答える前に攻撃されましたので、時間切れです」


しれっと答える悪魔は、どこまでいっても悪魔だ。

純粋なる魔の存在に甘いことを期待してはいけない。

そうだよな、と心の中でぼやく。

だからこそ、手加減なしでやれるというものだ。

思わず口角を上げながら、聖句を唱える。


「地に集いし我らの民よ、手を叩け、声高に叫べ。いと高き我らの主は恐れ敬われん、全知の王なり『聖域展開』」


第3階梯神聖魔術、第4篇12節の聖域を作り出し魔を祓う術式だ。膨大な光が溢れ、重力が消え去り悪魔を弾き飛ばした。


「ぎぃやぁぁぁっ」

「目に見えるものではなく、目に見えぬものに注視せよ。見えるものは刹那だが、見えぬものは永遠なれ『聖清光明』」

「ばうぅっ」


同じく第3階梯神聖魔術を唱え浄化の光を放てば、追い討ちをかけるように、勇者が吠える。悪魔の全身が発光し、火がついて燃え上がった。青い色の炎はいっそ禍禍しいほどだ。

さらに力を籠めれば、青い光が一層激しさを増した。

勇者は神聖魔術に特化しているので、青い炎にはならない。

本来ならば。


「なにがなんだか。青い炎なんて高位魔術じゃないか。坊主は絶対見習いじゃないだろう」

「さすが、勇者ってことじゃないですか」

「んなわけあるか! っと、突っ込んでる場合じゃないな」


羽根まで黒焦げになった悪魔は悶えながら地面に転がった。すかさず、剣を構えたランデバルトが首をはねる。


「がぁぁぁぁっっ!」


悪魔が吼えながら、塵になって消えた。


「やったか…なんて夜だ。神官見習いは大司教並みの力を使いやがるし、勇者に会って悪魔のお迎えまできちまった」

「聖騎士様が随分と弱気なことを言いますね」


思わず告げると、ランデバルトが頭を掻きつつ首を傾げた。


「あれ、ばれた?」

「さすがにわかりますよ」

「だよなぁ…あー失敗した。だけど坊主じゃ悪魔の首ははねられないしな。仕方ない、これは避けられない事態だ」


騎士には2種類ある。

王国に属する騎士と神殿に属する聖騎士だ。前者は王侯貴族や民を守り、後者は神殿や神官を守る。騎士は剣の腕や貴族階級の者と決まっているが、聖騎士は純粋な剣の腕と神力量になる。聖騎士にも序列はあるらしいが、僕はそちらの道は考えていないので詳細はわからない。

王都の神学校には聖騎士養成コースなるものがあるらしいが、僕の通う学校にはない。

人数が少ないからというよりも、教える人がいないからだろう。

それほど、聖騎士というのは狭き門だ。


ランデバルトの神官の実力を知っていること、神聖魔術への知識量、悪魔への効率的な対処法など、いずれも神殿に属する聖騎士でないと知らないだろうということくらいはわかる。

なぜ隠すのかは知らないが、聖騎士には正規の制服がある。

真っ青な隊服に、純銀のクルスだ。誇りとともに身にまとうと聞いている。

憧れる者も多いはずだが、草臥れた格好の彼からは全く敬意が感じられない。

むしろ、聖騎士や神官を嫌っていそうだ。

悪魔の首を一閃ではね飛ばす所業など、評判通り腕は立つのだろうが、性格に難がありそうだった。


「うぅっ?」


どさりと地面に座り込んだランデバルトを見つめて、勇者が首を傾げた。


「騎士様、何となくですがこの勇者…お腹減ってるんじゃないですかね?」

「ああ?! 食べ物なんてもうどこにもないぞ」


呆れたような彼の言葉にきゅるるるっという小さな腹の音が重なるのだった。




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