閑話 大切なモノ(????視点)
ただひたすらに慣れた山の中を駆けずり回る。
最初は二足歩行だったが、いつの間にか四足に変わっていた。
焦りからだろう。速さが増すのは悪いことではない。山の中ならば誰も気にしないのだから。
アイツの行動範囲はわかっているはずだった。
だが、縄張りのどこに行っても見慣れた黒い色が見つからない。
『まったく、どこほっつき歩いてやがるんだ』
思わず一人ごちるが、帰ってくる返事はない。
思い返すのは二日前だ。突如と現れた悪魔の襲撃を受けた夜に、アイツとはぐれてしまった。
その次の日の朝には何事もなかったかのように戻ってきたのだが、確かに見知らぬ匂いがしていたのだ。
問いかければうまい肉を食べたとしか言わなかったから、特に気にも留めなかった、
それよりも悪魔の方が問題だ。
自分の力はそれほど強くない。あんな魔族の中でも高位の存在に狙われたら、次は命がないかもしれない。
もしかしら、また襲われてどこかで動けなくなっているのか?
ふと湧いた疑問に、居ても立っても居られなくなって山の中を再度駆け回る。
ようやく見慣れた匂いをようやく見つけたとき、それが山の外に向かっているのに気がついて愕然とした。
アイツ以外の匂いがする。
久しぶりの山の外は変わらず長閑な景色が広がっていたが、焚火をした後を見つけて顔を顰める。
人間が、いたのだろう。轍と馬の蹄の跡からも察せられた。
もしかして人間に捕まって連れていかれたのか?
最悪の事態に思わず唸り声をあげてしまった。
ぐるぐるという不機嫌な音しか出なかったが。
『ルナ』
名前を呼んでも振り返る黒い瞳がない。
遠くに行っていないことを祈るばかりだ。
馬車を引いているのなら、今から追いかければ十分に追いつく。
取り戻して、また平穏な山の中で暮らすのだ。
『待ってろよ、すぐに助けてやるからな』
決意を込めて真っ青な空に向かって一吠えするのだった。




