第9話 ホームルーム
「ここが君の教室です」
クローディアが言う。
教室の入り口には1-Aと書かれていた。
「ここが・・・」
僕は確認する様に呟いた。
「そう、Aクラス。別名選抜クラスです!」
「選抜?」
「ここは新入生のうち、入試試験における上25名が在籍するクラスです」
クローディアが言う。
「25名。では僕は・・・」
「お察しの通り、そのクラスの26番目の生徒って訳です」
「なるほど」
それは目立ちそうだ、と思った。
定員制の学園の定員制のクラス。
そこまではっきりと定められた規律の中に入りこんだ僕は、
イレギュラー以外のなんでもないだろう。
「そ、そんなに心配しないでください」
クローディアが言う。
その表情は優しい笑顔だった。
「・・・異例ではあるけど、貴方は認められてここにいます。紛れもなく私の大切な生徒ですから、何かあったらいつでも相談してください!」
そう言ってグッと顔を近付けるクローディア。
注意しろと言ったのは自分ではないか。
そう思うが、
クローディアの顔があまりに近くてドキドキする。
クローディアはどこか幼く、
あまり年上と言った感じがしない。
「あ、ありがとうございます・・・」
僕は赤くなった顔を見られない様に、
顔を背けた。
「あ、こ、こちらこそごめんないさい・・・」
赤面する僕を前にクローディアも我に返る。
どうもこの先生は猪突猛進型のような気がする。
二人して照れてなんか変な感じだ。
「さ、さぁ!行きましょう!」
そう言ってクローディアはガラリと教室の扉を開ける。
いよいよ僕の学園生活がスタートする。
期待と、不安。
様々な気持ちが入り混じった不思議な感覚だ。
クローディアの後に続き、
僕も教室へと足を踏み入れた。
・・・
・・
・
クローディアと僕が教室に入ると、
それまで騒がしかった教室がシンとする。
「レン君の席はあそこです」
クローディアが指し示したのは教室の
右奥の席。
僕はそれに従い、
席へと移動する。
その間、
教室の全員から視線を感じた。
これはかなり目立っているな。
僕はその視線に反応しないよう、
顔を伏せて歩いた。
「さて!皆さんおはようございます。私は担任のクローディアです!」
クローディアが勢いよく挨拶をする。
僕に注がれていた視線が教壇のクローディアへと移る。
助かった。
僕はそう思った。
「今日から皆さんの学園生活がスタートします。校長先生が仰った通り、毎日の鍛錬を大切に――――」
そこからクローディアの話がスタートする。
たどたどしいが悪くない内容だ。
彼女自身の熱意が言葉に現れ、
生徒たちも真剣に聞いている。
僕はようやく落ち着きを取り戻し、
教室の中を見渡す。
当たり前だが僕と同い年くらいの生徒が、
並んでいる。
男女比はちょうど半々くらい。
このクラスは成績上位者からの実力順と聞いたから偶然だろう。
全員の姿勢が凛としており、
真面目にクローディアの話を聞いている。
だがその中に、チラチラとこちらを見ている視線を感じる。
僕はその視線の主に目を向けた。
彼女は僕と視線が合うと、
恥ずかしそうに顔を伏せた。
なんだろう、
どこかで見た事がある顔だ。
「―――以上です。それではこの後は各授業と学園生活についての注意点などを話して解散となります」
そう言ってクローディアはいくつかの連絡事項と、
学園で過ごすための注意事項を説明を始めた。
「皆さんが気になっているのは、学内対抗戦と、大魔闘選手権のことだと思います」
クローディアがそう言った瞬間、
教室内の空気が張り詰める。
なんだろう。
この変化は。
「学内対抗戦はこれから秋の月の最終週と学年末の冬の月の最終週に行われます。その結果によりクラスの構成が変わることがありますので、気を抜かない様に。皆さんの年齢での実力差は努力によって簡単に覆るようなものです」
クローディアが言う。
なるほど、この上位クラスと言うのも変動があるわけか。
それにより競争心を煽ろうと言う事なのだろう。
「そしてもう一つ、大魔闘選手権は冬の月の第2週。ちょうど年末に行われます。選ばれるのは各代の成績上位者3人と、特別推薦が1人。計10人となります。選ばれた代表は他校の代表と学校の威信を賭けて戦うのです」
クローディアが目を輝かせて言う。
その言葉に何やら教室の温度が少し上昇したような気がした。
見れば、クラスの何人から立ち合いの時の様な剣気が立ち上っている。
僕には分からないが、
今の話は彼らの心の琴線に触れる何かだったのだろう。
「では連絡事項は以上です。通常授業は明日からとなりますので、今日は解散です。お疲れ様でした!」
と、クローディアが言って教室を出ていった。
ようやく終わったか。
さて、教室を出よう。
今日はやることがある。
そう思った時に、
僕の席に一人の生徒が近付いてきた。
僕は思わず身構える。