第8話 笑顔
入学式の後、
新入生たちは各人が定められた教室へと向かう。
はて、僕はどこに行けばいいのだろう。
そんな事を思っていると、
僕は教師の一人に声を掛けられた。
「レンくん、ちょっとこちらに来てください」
声を掛けてきたのは若い女教師だ。
年齢は・・・周りの教師たちより僕たちの方が近いのではないだろうか。
幼い顔つきとは反対に、
何とも破壊力のあるスタイルをしている。
僕かその教師の後に続き、
廊下を歩く。
やがて一つの部屋にたどり着いた。
生徒指導室、と書かれている。
僕と女教師はその部屋の中に入った。
「あ、あなたがレンくんね。話は聞いています」
女教師は言った。
「私はクローディア。貴方が入るクラス、Aクラスの担任です」
「は、はじめまして、クローディア先生。・・・レンです。お、お世話になります」
そう言って僕は丁寧に頭を下げた。
クローディアは驚いたように僕を見ていた。
「い、意外と礼儀正しいですね。敷地内で狼藉を働いたと聞いていたのでもっと凶暴な子だと思っていました」
それは本人を前にして、
言わないほうが良い話なんじゃないか。
僕はそう思った。
「ろ、狼藉なんてとんでもない。僕は父の指示に従ったまでです。迷惑をお掛けして、も、申し訳ありません」
「お父様の?・・・でも良いです。結果として学院長が特例を作るような優秀な生徒が来てくれたんですから」
「・・・と、特例。先ほどの入学式でも話が出ましたが、そんなに珍しい事・・・なのですか?」
僕は尋ねる。
「ええ。前代未聞、と言っても良いです。ムートン剣闘学院に入れるのは各代100名まで。これが伝統的に定められているのです。実は私もここの出身生なのですが・・・長いムートンの歴史の中でも初めてかと」
「そ、そうなのですね」
学院長は僕をさらりと入学させたが、
そんなに特別な事だったのか。
「そ、そんな特別な待遇をなぜ僕に?」
僕はクローディアに尋ねた。
「貴方!自分が何をしたか分かってないの?」
クローディアが驚愕の目で僕を見る。
「・・・ええ。す、すみません、山奥の生活が長かったので、世間知らずでして・・・」
僕の言葉にクローディアがため息をつく。
「貴方が昨日倒した、守衛さんたち。彼らはただの守衛じゃない、元剣闘士達よ。引退したとは言え新入生が叶う相手じゃないわ」
ああ、あの人たちはそんな感じだったのか。
剣筋から見て、
大した実力じゃないと思ってしまったが、
どうやらそれなりの実力者だったらしい。
「その後に貴方が戦った相手。彼の名前はシャガール。私と同じ教師で、現役の剣闘士です。【轟剣】のシャガール、と言えば聞き覚えがありませんか?」
クローディアの問いに、
僕は首を横に振る。
「そ、そう・・・まぁいいです。とにかく貴方は既に学園中の噂になっています。どうか覚悟してください」
クローディアが言う。
覚悟?
いったい何に覚悟が必要なのだろうか。
「・・・わ、分かりました・・・」
よく分からなかったが、
僕はにっこりと笑い、返事をしておいた。
僕の顔を見て、
クローディアの表情が固まる。
なんだろう。
この顔には既視感がある。
「どうしました?」
僕はクローディアに尋ねる。
「あ、あのつかぬ事を聞きますが・・・なんでそんなに笑顔が下手なんですか?」
「え」
「顔は整っているのに、笑顔が壊滅的に怖いです」
クローディアが言う。
「・・・こ、怖い・・・?」
僕はその言葉にショックを受けた。
僕が落ち込んでいるのを見て、
クローディアはようやく自分が言い過ぎたのに気が付いた様子だ。
「と、とにかく!教室に行きましょう!良いですか、くれぐれも注意してくださいね!」
そう言って生徒指導室を出て行くクローディア。
僕は涙目でその後を追った。