第7話 圧倒的
そして翌日。
王立ムートン剣闘学院の入学式。
僕は集まった人の数に驚いていた。
係員に促され、
巨大な講堂のような場所に入場すると、
僕たちと同じような服を着た学生たちが、
拍手で出迎えた。
向かって右側は赤いリボンとネクタイ、
向かって左側は緑のリボンとネクタイ。
そして僕たち新入生は青色のリボンとネクタイを付けているから、
恐らく学年ごとに色分けされているのだろう。
生徒たちの更に奥、
壁際に並んでいるのはこの学園の教師たちだろうか。
「ようこそ、新入生諸君」
そう言って登場したのは、
エシュゾ学院長だった。
その登場に、新入生たちからおぉっと歓声があがる。
「例年、ここには100人の新入生が訪れるが、今年は特例により101人となった」
学院長のその言葉に生徒たちがざわつく。
特例とはどういう事なのだろう。
事情の分からない僕は、
ただ知らぬ顔で学院長を見つめていた。
「静かに。特に騒ぐことはない。ここは剣闘学院、いつでも強い者を求めておる。今回は才能を秘めた者がいつもより一人多かった、それだけじゃ」
学院長が言った。
「そして君たちには、その才能をこの学院で如何なく伸ばして貰う事を求める。ワシが伝えたい事は二つだけ、常に鍛錬を怠るな。ここは強者の居場所、向上心の無い者に居場所はない」
学院長は僕たちをジロリと見渡す。
生徒たちの間に緊張が走る。
だが僕は、
表情こそ変えなかったが、
内心鼻で笑って聞いていた。
生きているのであれば、
鍛錬するのは当たり前ではないか。
伝説の剣闘士も随分甘い事を言う、
そう思っていた。
「そして、もう一つは――――」
学院長の目つきが鋭くなる。
その途端、僕は心臓が鷲掴みにされたかのような錯覚に陥った。
手足が痺れ、身体が呼吸の仕方を忘れる。
膝が勝手に震え、思わず力が抜けそうになる。
なんだ、これは。
僕は動揺し、周囲に視線を送る。
すると周りでも生徒たちがガクガクと震え、
中にはその場に倒れる者も多くいた。
そこで僕は気が付く。
これは殺気だ。
その圧倒的な気配は、
もちろん壇上に居る学院長から発せられていた。
射程の遥か外、
剣すら抜いていないのにここまでの威圧感。
僕は目の前の存在が、
遥か高みにいる存在なのだと言う事を悟る。
父はこんな男と戦ったと言うのか。
そして放たれた殺気は徐々に弱まっていく。
今やその場に立っている新入生は、
僕を含め僅か数人だ。
「そして、もう一つ言いたいのは上には上が居るということじゃ。学園の中でも、その外の世界にも。それを忘れる出ないぞ。では諸君、また会おう」
そう言って学院長は、
舞台の奥へと戻っていった。
講堂の中には、
まるで嵐が過ぎ去ったかのように静寂が満ちていた。
学院長の圧倒的な力を見せつけられながら、
僕はひとり笑っていた。
これは恐怖か、違う。
嬉しいんだ。
僕はにやける自分の顔を必死で整えた。
僕は震える自分の右腕を左手で押さえつけ、
溢れる笑いを堪える事に集中した。
まったく素晴らしいじゃないか。
僕がこの命を賭けて殺す相手が弱ければ、
僕の命そのものの価値が下がる。
相手にとって不足はない。
それどころか今の僕じゃ、
学院長の足元にも及ばないだろう。
強くなって見せる。
この学院で学べるものはすべて吸収して、
必ずこの刃を突き付けてみせる。
僕はそう胸に誓った。