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第6話 怨敵


どれくらい斬り合っただろうか。

僕はシャガールとの戦いにすっかり夢中になっていた。


「・・・そろそろお寝んねしてもらうぜ」


不意にシャガールがそんな事を言い、

僕から距離を取る。



そして剣を横に構え、

何かを呟いた。


「<轟剣>」


その瞬間、シャガールの剣が青白く光り始める。


それを見た僕は再び笑みを零す。


これは【魔剣】だ。



【魔剣】は剣闘士の操る技能だ。

この世界に満ちる魔力を剣に集め、

様々な現象を引き起こす。


【魔剣】の種類は千差万別。

その技能の強さが、剣闘士の強さと言い換えても過言ではない。


僕は木剣を構え直す。

どうだろう、

この頼りない木剣で受け切れるのだろうか。

まだ見ぬ技にワクワクする。



「手加減はしてやる」



そう言ってシャガールが【魔剣】の発動準備に入ろうとした時、

後ろから大声が聞こえた。



「馬鹿もん!!シャガール!子供相手に【魔剣】を使うやつがあるかっ!!」



僕はその声に驚き、

声の方を見ると、

一人の男がこちらに歩いて来るところだった。


「が、学院長・・・」


シャガールの剣から光が消える。



「学院を潰すつもりか!こんな大事な時に!」



学院長と呼ばれた男に叱られ、

シャガールはまるで子犬のようにしゅんとする。



すっかり興が削がれてしまった。

僕はため息を吐き、剣を収める。



「すいません、院長。このガキが」


シャガールは恨めしそうに僕を見る。

学院長の鋭い目が僕を見つめる。


「・・・なんじゃ君は」


学院長が尋ねる。


「僕はレンです。この学院に入学しに来ました」


「・・・お、お前まだそんなことを・・・」


シャガールは驚いたように言う。


「学院に・・・?」


学院長は僕に尋ねる。


「はい、父の指示で」


僕はにっこりと笑い、答えた。

学院長は僕の目をジッと見つめ、

何かを推し量っているようだった。

僕はその目を正面から見つめ返し、

目を逸らさなかった。



「・・・ふむ、良いだろう・・・この学院への入学を認めようじゃないか」


「学院長!」


シャガールが叫ぶ。


「先ほどの戦い見ておったぞ。純粋な剣術の腕前はこのシャガールに引けを取っておらぬ。見事な鍛錬じゃ」


学院長はそう言ってニコリと笑った。

先ほどまでの怒声が嘘の様に優しい笑顔だ。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。学院長、俺はあれも使ってないし、そんなガキと互角な訳が・・・」

「見苦しいぞ、シャガール。ワシの決定は絶対じゃ。さっさと手続きをしてこんか!」


そう言ってシャガールを学舎へと向かわせる学院長。

なかなか豪快な人だ。


「こんな道場破りみたいな真似、昨今は珍しくなった。ワシは好きじゃがな!ハッハッハッ!」



そう言うと学院長は剣を抜き、

周囲に蹲り俺とシャガールの戦いを見守っていた守衛さんたちに剣を振るった。



緑色の光が飛び、

守衛さんたちの身体に触れる。


するとそれまで苦しそうにしていた守衛さんたちが、

何事も無かったように立ち上がった。


俺はその様子を見て、

ドクンと心臓が跳ね上がる。


「じゃが、我がムートンの一員になったからにはもう無暗に相手を傷付けてはならんぞ。この守衛さんたちも、さきほどのシャガールも学院の一員。家族も同然じゃ」


そう言って学院長は笑う。


「はい、分かりました」


僕はにっこりと笑い、

学院長に答える。


「なんだよ、本当に入学しちまいやがった」

「調子に乗るなよ?」

「次は絶対に負けねーからな!」


守衛さんたちは僕と学院長の周りに集まり、

先ほどの戦いが嘘かのようににこやかに笑っている。

父の指示だったとはいえ、

傷付けてしまったことを僕は申し訳なく思った。



「フフ、気にするでない。我が学院に剣で負けて相手を恨む様なものはおらん。彼らも剣闘士のはしくれじゃて」


「学院長!はしくれって何ですか!」

「そうですよ、俺たちだって強くなったらまた闘技場に戻ります!」


「そうか?フハハハ、もちろん君たちにも大いに期待しておるぞ!」


そう言って学院長は豪快に笑う。

守衛さんたちもそれを見て、一緒に笑う。

なんとも家族的で、温かい光景だ。




「では少年。また会うのを楽しみしておるぞ。明日は入学式、新年度のスタートじゃ」



学院長はそう言って僕の頭をガシガシと撫で、

校舎へと戻っていった。



僕はその背中をいつまでも見つめていた。



「おい、どうした少年。もうムートンの一員になったんだ、寮に案内して寮母さんに事情を話してやるから着いてきな」


そう言って守衛のリーダーさんが歩き出す。

僕はその後に従い、笑顔で歩き出した。



・・・

・・



「あの、先ほどの方がこの学院の院長先生ですか?」


僕は歩きながらリーダーさんに尋ねた。


「ああ、そうだ。偉大な剣闘士だが、俺たちにも優しくてくださる。血は繋がって無いが父親のように思ってるよ」


リーダーさんが言った。


「そうなんですね。先ほど学院長が【魔剣】を振るわれましたが・・・あれはもしかして・・・」


「ああ、もちろんそうだ。あれは<治癒>の剣。君だって知っているだろ?学院長は世界で唯一無二の回復剣の遣い手だからな」


ああ、なんだ。


リーダーの話を聞いて、

僕は合点が言った。


おかしいと思ったんだ、

父が僕を学校に通わせるなんて。

父は復讐の事以外、無関心だったから。

学校なんて非効率なものに、僕を通わせる意味がない。


だが先ほどの話を聞いて、

納得が言った。


父は学べと言っているのだ。

これから僕が復讐を遂げる相手の、

癖を、仕草を、そして剣の技を。

一番近い所で。


父に何度も何度も聞かされた恨み言。


世界最強の剣技と、

世界で唯一の回復する【魔剣】を武器に、

剣闘士の頂点にまで上り詰めた伝説の剣闘士。



エシュゾ。



それが父の怨敵であり、

僕の復讐の相手。

そして、僕が入学する王立ムートン剣闘学院の学院長の名であった。



初めまして。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


良ければ、

ブクマ、感想などいただければ執筆の励みになります。


引き続き、戦闘狂レンの学園生活をお楽しみください。


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