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第4話 狼藉


「ここか・・・」


僕は苦労の末、

目的の地にたどり着く。


大正門からここまで数時間歩いた。

どれだけ広いんだ、この王都は。


「これが・・・」


僕の目の前には巨大な建物。

入り口のところには立派な表札が掛かっており、

そこにはこう書かれていた。


『王立ムートン剣闘学院』


「本当にここで良いのか」


尻込みしながらも、

僕は意を決して建物の中に入った。





「おいおい。ちょっと待て、お前誰だ。見ない顔だな?」


そう言って現れたのは、

学校の守衛だろうか。


先ほどの衛兵さんと同じように制服を身に纏っている。



「ここに入学する者です」


僕は答える。


「入学?冗談を言うな。今年の新入生100名はすでに入寮が完了している。最後の一人も先ほど到着したところだ」


守衛が言う。

()()()()|か。


僕はため息を吐いた。


「見るからにみすぼらしい格好だな。さっさと出ていけ。」


守衛さんは僕を睨みつけると、

しっしと追い払うような仕草を見せる。


それも当然だろう。

なにせ父は僕にこの学園に入るように指示を出しただけで、

なんの手続きもしていなかったのだから。

だから守衛さんにとっては僕が不法侵入者であることは間違いない。



だが僕は父からの指示を守らなくてはならない。

守衛さんには申し訳ないけど。


そう思い、僕はゆっくりと腰の剣を抜いた。



「・・・なんだ?俺とやるつもりか?正気か?」


僕はそれに答えず、

守衛さんににっこりと微笑んだ。

守衛さんの表情が変わる。



「・・・良い度胸だ。元剣闘士の俺を舐めるなよ」


そう言って守衛さんは剣を抜く。

その剣は僕の木剣と違い真剣だ。



だが僕は恐れることなく、

守衛さんに飛び掛かった。



「ああああああああああ!」


空中で木剣を振り下ろす。

守衛さんが剣を構え、それをガードする。


だがその瞬間、

僕の蹴りが守衛さんのわき腹に決まる。


「グハっ!」


守衛さんは倒れ悶絶する。

なんだあっけない。


僕は剣を振りながら、

守衛さんが立ち上がるのを待つ。


「・・・お、お前・・・」


ヨロヨロと立ち上がる守衛さん。

その眼にはすでに僕への恐れが見える。


「ごめんなさい、守衛さん。父の指示なので」


僕は再びにっこりと微笑んだ。

守衛さんの顔はすっかり青ざめている。


「おい、どうした!」


声の方を見ると、

守衛さんと同じ制服を着た人たちが集まってくる。

守衛さんの目に再び力が戻る。


「こ、この変なガキが急に襲い掛かってきやがった!」

「なんだと?」


そう言って他の守衛さんたちも剣を抜き、

僕を取り囲む。


「剣闘学院に侵入などと命知らずなやつだ」

「痛い目に合わせてやる」


武装した男数人に囲まれていると言うのに、

僕の心は高鳴っていた。

なんせ父や獣以外と戦うのはほとんど初めてだったからだ。

待ちきれない。

早く斬りかかりたい。


「捕まえろ!!!」


守衛さんのリーダーらしき男が、

叫ぶと他の守衛さんたちが一斉に襲い掛かってきた。


僕は剣を振るい、

最初の一撃を受け止める。

父の攻撃とは異なる重さ、異なる角度。


「ハハハっ」


思わず笑いが零れる。


「なんだこのガキ!」

「気を抜くな!」


そう言って次々と振るわれる剣。

だが僕はその全てを回避する。


「あああああああ!!!」


空中で身を翻し、

木剣を振るう。


僕の一撃が入るたび、

守衛さんたちが一人ずつ膝を折る。


ついに僕の目の前に立っているのは、

守衛さんのリーダーらしき男ただ一人になった。


「・・・お、お前何者だ・・・なぜこんなことを・・・」


最初の守衛さんと同じように、

リーダーさんの目にも既に恐怖が浮かんでいる。


僕はその顔を見て、

なんとも言えない気持ちになった。

彼らは真面目に仕事をしているだけだ、

彼らには本当に申し訳ない。


「レン、と言います。この学校に入学します。父の指示なので」


僕は微笑み答えた。

そうだ、僕は父の指示に従わなくてはならない。


父の指示はこうだった。


『学院に到着したら最初に会ったやつを叩きのめせ。そして次に出てきたやつも叩きのめせ。そうすれば――――』


その時、

建物の方から一人の男が現れる。


「そこまでだ、坊主」


男はゆったりとした足取りで僕に近付いて来る。


「シャガール先生・・・」


守衛さんの一人が呟く。


「剣闘学院に殴り込みなんていい度胸しているな」


シャガールと呼ばれた男は僕を見て気だるそうに言う。


「殴り込みではありません。ただ僕はここに入学しなくてはいけないので」


「入学?おいおい、まさかこの学院に入りたくて暴れまわってるのか?」


「暴れまわっているつもりもありません。父の指示なんです。ごめんなさい」


僕はそう言ってにっこりと微笑む。

シャガールは表情を強張らせた。


「・・・どんな指示かは知らんが、守衛のおっちゃんたちをやった罰は受けて貰うぜ」


そう言ってシャガールは腰に刺した剣を抜く。

そのわずかな仕草を見て、僕は気が付く。

あぁ、この人はこの守衛さんたちの何倍も強い。

僕の心臓は再びドクンと高鳴る。


「後悔しな、小僧」


そう言ってシャガールは大地を蹴る。




悔しいが、これで父の指示した通りになった。


『学院に到着したら最初に会ったやつを叩きのめせ。そして次に出てきたやつも叩きのめせ。そうすれば――――』


「そうすればもっと強い奴が出てくるから、そいつも倒せ、か」


僕は緩む頬を必死に押さえつけ、

シャガールに向け剣を振った。


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