第2話 大正門
「ここが、王都エデュアールか・・・」
僕は目の前にそびえる巨大な門を見上げた。
これは王都の大正門が
数百年の間、外敵の侵入を防いできた、
街のシンボルだ。
「それにしても凄い人だな」
周囲には王都の周辺での仕事を終え、
帰宅を急ぐ人で長蛇の列が出来ていた。
大正門は夕暮れの六つ目の鐘が鳴り終わると同時に閉じられる。
それを逃せば明日の朝まで、門の外で野宿するハメになる。
幼い頃から森で過ごしていた僕は、
こんなに大量の人間を見たのは初めてだった。
「ん?」
そんな人混みの中、
小汚い男が、一人の少女にぶつかるのが見えた。
男は少女に気をつけろ、
と悪態を付くと、
真っすぐに僕の方へ歩いてきた。
僕は腰の木剣を抜き、
男の足を払った。
不意を突かれた男は前のめりに地面に叩き付けられた。
「何しやがるっ!」
男は立ち上がり、
僕に掴み掛ろうとする。
僕は男の腕が伸びる前に咄嗟に剣を二度振り、
男の腕を弾いた。
男は痛みに絶叫し、
その場に蹲る。
「・・・盗んだものを出した方が良いですよ」
僕は男に言った。
「・・・なんで・・・それを・・・」
男は驚いたように僕の顔を見る。
僕は先ほど、
男が女の子の荷物から財布を抜き取るのを確かに見ていた。
そんなやりとりをしていると、
騒ぎを聞きつけた衛兵が駆けつけてきた。
「大正門の目の前で何の騒ぎだ!」
僕は衛兵の方に目を向ける。
「あぁ、良かった。衛兵さん、この男が―――――」
「こ、この子供が、急に俺を剣で攻撃してきたんだ!」
腕を打たれ、蹲っていた男が叫ぶ。
「いや、それは・・・」
「助けてくれ!このままじゃ殺されちまう!」
男の必死な懇願に、
衛兵は僕の方にも疑いの目を向け始める。
これはまずい。
「とりあえず一緒に来てもらおうか」
僕は諦めてその言葉に素直に従う事にした。