降臨
計画通り国王が協力してくれた。
下級な兵士たちは計画を知らずに俺を攻撃したが
それが逆にアクセルへ疑いを持たれずに助かった。
王城に侵入し、国王にほとんど命令するような感じだったが
国王がやけに協力的で助かった。
今だ。
アクセルが上空に打ちあがった魔法に気を取られている隙に
俺はエリスの元へ全速力で駆けだした。
「なぁ。俺がこんな魔法で死ぬと思うか。」
「いや。だがこれならばどうかな。」
己を想い、解き放て。
「カラメロ。」
地面から鎖のようなものが生えて、
アクセルを縛り付けた。
見様見真似だったが、
なんとかこの魔法を打ち出せた。
「何ッ!!この魔法が使えたのか!?」
「いや、お前が王城で女性達に使っていたのを真似ただけだ。
お前の固有魔法だろうが俺には使える。
まぁ、お前のよりは性能は低いがな。」
「なにもかもが偽物な男め!!」
「お前の魔法であるカラメロが魔力を奪う効果で助かったぜ。」
「だ、だが、力は魔力永続。
魔力が尽きることはない。こんな鎖すぐにでも出て見せる。」
「そうか。じゃあがんばってくれ。」
闘技場の観客席から凍えるような突風が吹いたと思うと、
アクセルの下半身は氷漬けにされた。
国王だ。
彼の側近達が氷魔法を使ったのか。
「貴様ら、俺を裏切るなんて。どうなるのか分かっているのかじじい!!!」
「ふっ。所詮勇者など世界を救い終わった後は無用な存在などだよ。
ただ弱者の駒としていいように動いておればよかったものの、
この国王をじじい呼ばわりし、女と遊びほうける勇者などいらんわ!!」
「俺がこの国を救ったんだ。この俺が!!
俺を助けろ!!」
「カズトラルを1日でほとんど1人で攻め滅ぼし、
凱旋を数か月後にやり民衆に激戦の様子を演じた勇者などいらん!!
この国が求めるのは従順に従い我が国に利益をもたらすその
力だけだ。
アクセルなんぞ要らないのだよ元から。」
「くそがっ!!クソクソクソクソクソォ!!
ふざけるな、ふざけんじゃねぇ!!!!!」
国王がアクセルと口論している間に
エリスを縛り付けているこのカラメロの鎖を
断ち切り、
彼女をお姫様だっこで運んだ。
「あ、ありがとうございます。」
「俺は君の言動に心を突き動かされた。
君が教えてくれた人が人たる所以。
俺はそんな風に生きたいんだ。」
「オズさんは立派な人間だと思いますよ。」
「血塗られた俺をそう言うとは、
とても嬉しい。」
そろそろ魔法が彼に落ちる。
悪いが彼の運命はここで終わりだ。
「くそがくそがくそがくそがッ!!
やめろ、ヤメロォォオォ!!!!!!!!!!!!」
瞬く間に光が世界を包み込んだかと思うと、
熱風が体に押し寄せたので咄嗟に目を瞑った。
瞼の肉越しでもその魔法の威力の凄まじさが伺える。
炎系の魔法が威力が一番高いとは知っていたが、
今まで炎を操る勇者には出会ってこなかったため
初めての体験だった。
数秒前と今ようやく目を開けて見た視界が違うということは。
「すごいな…。」
「ええ…、そうですね。」
闘技場の観客席より下が焼け焦げ、崩れ去っていた。
床はなくなり、地面がむき出しになっていた。
それでもなお、アクセルは体の形の原型はとどめていた。
しかも、まだ息があるようだった。
さすがは運命が味方している勇者といったところか。
俺は観客席にエリスを置いて、
アクセルの元へ駆け寄ろうとするが、
エリスが俺の袖を引っ張った。
「私も行かせてください。」
「しかし…。」
「アクセルをずっと見てきた傍観者として、
最後を見届けたいのです。」
「分かった。気を付けろよ。」
観客席から地面に飛び降りた。
石造りの闘技場はほとんど崩壊していた。
アクセルの元に駆け寄ると、
彼にはまだ息があり、
何か喋っていた。
しかしここまで意識があるとは。
それほど彼はこの世への執着が強いのだろう。
勇者とはいえこれほどの魔法を耐え抜くのは至難の業だ。
「アクセル、息があるようだがお前を殺す。」
「俺は死なない、俺は勇者だ。絶対に死なないのだァ…。」
体を蠢かせながら起き上がろうとするも、
そんな力は彼には残されていなかった。
彼は喋ることしかできないということを悟ったようだ。
「エリス…、俺に回復魔法をかけろぉ…。」
「嫌です。」
「てめぇ…。俺は最強だ。コイツさえ倒せればお前のどんな願いでも叶えよう。」
「私の願いは、あなたに人間性が戻ることでしたがそれは無駄だったようです。
あなたは自分を神だと信じてやまない獣に成り下がってしまった。
私にはもうあなたに癒しや安らぎも与えられません。」
「…。悪いがそういうことだ。この世界のお前を殺させてもらおう。」
「この世界ってどういうことだ…?」
「お前は神にあるはずの運命を捻じ曲げられ、
お前はこの世界で勇者の運命を送ってしまった。
お前は元の世界に帰るんだよ。アクセル。」
「い、嫌だァッ!!!!それだけは勘弁してくれ。
あんな世界もうごめんだ!!!!この異世界にいさせてくれ!!!!!」
元の世界に帰ると知った瞬間、アクセルの顔は真っ青になり、
息も乱れ始めた。
過呼吸になりながら必死に喚いている。
「ち、力はそのままだよなぁ!!!???」
「いや、お前の世界は剣も魔法もない世界、使えるはずがない。
そしてそれは神のものだ。
お前は神に操られていた哀れな道化師だ。この世界の安息を約束されたお前の運命。
ここで破壊させてもらおう。」
「いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ
いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ
いやだいやだいやだいやだっ!!!!!!!!」
「戻りたくねぇあんな世界にいたらまた俺は、
強者に嬲り殺されながら、悲惨な世界での運命を歩むなんて、
そんな…。く、クソガァアアアアアアアアアアアァッ!!!!!!!!!!!!!」
「俺はこの世界でだったら強者なんだ。
この世界だったら俺は輝かしいレットカーペットのような運命を
歩めるんだ!!!!
俺から全てを奪わないでくれッ!!!!!頼むッ!!!!!」
「最初からお前は弱者だ。
この世界でも前の世界でもな。
人の優劣を気にするような奴は最初からずっと弱者のままだ。」
「やめろ…、やめてくれ…。
やだ、戻りたくない…。」
彼の翼がバタつく、そうとう嫌がっている様子だ。
「俺がコイツに勝てる力をくれぇぇぇえええええええッ!!!!!!」
コイツが崩れ去った闘技場で大きな雄叫びをあげた。
翼が共鳴するかのようにどんどん肥大化する。
まずい。このままでは。
俺は剣を強く握りしめ、アクセルに斬りかかった。
「サセン…。ソウサセン…。」
「オズさん避けて!!!!!!」
上空を見上げると、弓矢が篠突く雨のように俺に叩きつけようとした。
己を想い、解き放て。
「バーンッ!!!!!」
爆発で多くの弓矢が弾き飛ばされたが、
それでも弓矢は俺目掛けて飛んできた。
足を曲げ、エリスの方向に飛び込んだ。
「危なかった…。」
「ハハハハ、ハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!
俺が俺じゃない何かにうって変わられるようだ。
面白い、面白イ!!!!
ハハハハハッ!!!!」
アクセルの方向をみると翼が体を包み、
人ではない何かに変化しているようだった。
「しまった。奴が天使の餌にされる!!!!」
アクセルの元へ駆けようとするが、弓矢がまたもや飛んできた。
俺の走路に打ち込んできてうまく近づけない。
「誰だッ!!」
天を見上げるとそこには弓を構える無数の天使がいた。
今も俺目掛けて弓を引いている。
「アクセル!!力を求めるな!!永遠に捕らわれるぞ!!!」
「お前の命令なんぞ聞かんし、元の世界にもどるよりはましだ。」
そう言うと、彼の体中から翼が生え。
彼を取り込んだ。
天使が彼の体を蝕んだのだ。
「よくも、よくもやってくれたなぁっ!!!!!!!!」