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傍観

カズトラル国と、その他多くの国を滅ぼし、

幾多の犠牲の元に成り立っているのがこの王国アスト。


アクセルは私を連れさり、柱に括り付けた。

この王国の首都のシンボルである時計塔がただただ動く。

ここは闘技場でしょうか。

誰もいない闘技場で私はただ時に身を任せる。


仲間を癒し治癒する。

それが聖職者である私の役目。

だけど私はたった1人の仲間さえ癒すことが出来なかった。

かけがえのない一人の仲間なのに。


何者さえ立ち入らないこの時間は過去を思い出させてくる。

涙で心は洗えないはずなのに、

涙が溢れ出てくる。


オズさんはきっとなんとしてでもアクセルを殺すだろう。

それはオズさんと話して分かった。

オズさんの瞳を見て分かる。

一人で抱えきれないほどの使命をたった一人で、

孤独と共にこなしてきたようなそんな、

雰囲気を感じる。

きっと彼は偽勇者なんかじゃない。

そして勇者の前に、ただの人間なのだろう。

辛いし、痛いし、怒るし、心を動かされる。

だけどそれは人だからこそなのだろう。

アクセルの怒りとは違う、

人としての怒りを私は彼から感じた。


「偽勇者だァ!!!偽勇者が来たぞォ!!!やれぇ!!」


闘技場の外から怒号が聴こえてくる。

彼は今、きっと戦っているのだろう。

アクセルを殺すために。

本当はアクセルを殺してほしくない。

聖職者として、いや仲間として

私は彼を人間に戻したいのだ。

だからオズさんにはここに来てほしくないが、

でもやはり、来てほしいように感じる。


いや、私はどっちにもつけない。

運命を背負った勇者の戦いを私はただ傍観するだけ。

傍観するしかないのだ。


「ハァハァ…、アクセルッ!!俺は来たぞ!!」


オズさんだ。オズさんが来たのだ。

体は森で会った時より更にボロボロになっている。


「オズさん!!」


「エリス、無事かッ!!」


オズさんが私の元に駆け付ける。

だが魔法がオズさんと私の間に放たれた。


「おお、ちょうど9時ピッタリだな。

よく兵士たちを倒せたな。」


「当たり前だ。」


上空から現れたアクセルは、

翼を羽ばたかせながら優雅に着地した。

オズさんがアクセルを睨む。


「御託はいい。さぁ、勝負だ。」


「弱者らしく逃げなかったのは褒めてやるが、

それでも俺に勝てるとは思わんが?」


「勝てる勝てないじゃない。勝たなければいけないんだよ俺は。

そういう使命だ。」


「ほう、では俺の使命はなんだと思う?」


「勇者ごとに使命が違うのだよな?」


「ああ。だが俺にとっては貴様の使命はどうだっていい。」


「じゃあ俺が教えてあげよう。俺の使命は国を豊かにすることだ。」


「ならば何故国を好き放題にしている?」


「俺はな気づいたんだよ。強者が弱者を虐げ、搾取するのだったら

俺がその強者より強者になればいい。

簡単で最もシンプルな答えだ。

俺の前世の世界は剣もなければ魔法もない。

力ではなく平和的解決を目指す世界だ。

だが結局は平和なんて弱者が強者の傲慢を耐え抜いているだけだ!!」


「俺は(チート)さえあれば絶対に揺るぎない王国を創れるのだ!!

俺という強者が永遠に君臨し変化がない世界。

それが真の平和なんだよ。」




「さっきから強者、前世、強者、前世とうるさいんだよ。」


「お前の運命を破壊するのが俺の使命。

お前が何といおうと俺はお前を殺す。」


「そうか。やってみろ。できるもんならなぁ!!!」


二人の勇者の戦いが始まった。

お互いが剣と魔法をぶつけあいながら戦っている。

アクセルの思想は理解できるが許させるものではない。

オズさんは彼に勝てるのだろうか。

いや勝つためにここに来たのだ。

負けるはずがない。


闘技場の観客席が騒がしい。

というよりなぜここに人が居るのか。

上の方にそっと耳を澄ませてみた。


「どちらの勇者が死にそうか?」


「アクセルの方が優勢としか言えません。」


「くッ奴め。私をじじいなどと呼んだことを後悔させてやる。

奴の暗殺の準備を頼む。」


「了解しました。国王様。」


国王がこちらに来ている。

しかも暗殺とは。

勇者を道具としか見てないようだ。


「バーンッ!!」


「その魔法しか使えないのかお前は!!。」


「エレクトロォ!!」


「そういうお前こそエレクトロではなく、新しい魔法をつかったらどうだ。」


激しい爆発がそこらで起こる。

とても目が眩しい。

多彩な魔法が詠唱無しで放たれている。

勇者とはこんなにも人とかけ離れた存在なのでしょうか。

こんなにも素早い攻防が繰り広げられているとは。

土埃が舞い、剣の接触音が高く響く。

地面が焼け焦げている。

なんて凄まじい戦いなのだろうか。


にしてもあの兵士たちはいつ攻撃を仕掛けるのだろう。

暗殺しようにも今のアクセルはとても強い。

魔法を使っても死なないだろう。


オズさんの息が切れかけている。

だんだんオズさんが被弾する数が増えている。


「くっ、ハァ…ハァ。」


「どうしたもう息切れか!?今まで勇者を殺してきたはずなのに

そんな程度の力しかないのか!?」


「く、くそったれが。」


オズさんは強い。

だがアクセルも強い。

彼は己の強さを自覚し、頂点だと信じている。

限りなく楽園に近い者を目指すアクセルと、勇者を殺すという明確な目的があるオズさん。

アクセルの方が己を信じる気持ちが強いのは事実だ。

だがオズさんも負けていない。

神と人。

強いのは神だが、人は神を想って必死に前進を続けられる。

その前進は神だって凌駕するはずだ。


「行け兵士達よ。今こそ王国アストの力を見せる時!!!

放てぇ!!!!」


「爆炎の魔人イフリートよ、我が身に収まらんばかりの力を

授けたもうせ!!!」


闘技場の観客席をぐるりと取り囲む魔導士たちが、

一斉に詠唱した。

それも、この国に伝わる伝説の魔法。


来る。特大魔法が。


「フレイムファルファニウム!!!」


あの数の魔導士が力を合わせてようやく放てる魔法。

あれを食らったらひとたまりもないだろう。

闘技場上空に巨大な炎の塊が現れ、

勢いよく落下してくる。


「終わりだアクセル。俺はこの時を待っていた。」


「なぜ兵士が俺を裏切る!?」


「自分の胸に聞いてみろ。」








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