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略取


「ん…、ここは…?」


エリスが目を開けた。

よかった。生きていたようだ。


「私、アクセル殿に魔法を撃たれて…。」


「俺が助けた。」


「そうなんですか、ありがとうございます。」


彼女は横たわっている体を起こして礼をした。

彼女の目は少し涙ぐんでいた。

それもそのはずだ。

アクセルは暴走し、

かつての仲間まで殺そうとする屑へと成り果てた。

エリスは少し休養が必要だろう。

このまま寝かせておいた方がよさそうだ。


「エリス…だよな?アクセルがそう呼んでたし間違えないよな?」


「あなたは名前がないんでしたっけ。私はなんて呼べばよいですか?」


「オズでいい。」


「偽物という意味で付けられたのにその名を使うのですか?」


「俺が偽物ということには変わりない。

だが偽物にも偽物なりの使命がある。

俺はそれをこなすだけだ。」


「オズさんはアクセル殿の怠慢を見て殺そうとしたのですよね…。」


「いや、違うが。」


「アッ、そ、そうなんですか。」


「それでも私は、以前のアクセル殿に戻ってほしかった。

今はもう、アクセル殿じゃありません。

…私がもう少ししっかりしていればこんなことにはならなかった。

全ては私の実力不足なんです。

たった一人の心を動かせないようでは、聖職者として失格ですね…。」


「アクセルの心には響かなかったが。

俺の心には響いた。」


「オズさん…。」


「すまんな。この程度の慰めしかできなくて。」


「いや、ありがとうございます。心の靄が晴れた気がします。

あ、あれ…。涙が…。

どうしちゃったんでしょう…。」


そういうとエリスは体を小刻みに震えさせながら泣いていた。

きっと彼女にはいろいろなことがあったのだろう。

俺は毛布を渡した。


「がんばったな。」


自然とそう言ってしまった。

彼女の痛みや苦しみなんて分かるわけがないのに。

仲間の変貌を一番近くでずっと見ていた者の心情なんて、

ただ一場面を見ただけの俺には決めつけることはできないはずなのに

それでも声を一言掛けたかった。

エリスが鼻をすすって、目を手で擦りながら俺を

まじまじと見て言う。


「昔のアクセル殿とあなたはどこか似ている気がします。

優しさも強さも持っているでもどこか悲しそうでどこかに負い目を感じてる。

でもそれが人間たる証です。きっとあなたはどんな困難にも打ち勝てます。」


「そうか。」



「俺はここで一夜を過ごす。

そのために晩御飯を探してくる。」


俺はエリスから離れて、

川の方に歩く。

あ、そういえば

彼女は聖職者だったよな。


「エリス、お願いがあるんだが…。」


エリスの方を振り向くと、

彼女はもうぐっすりと眠ってしまっていた。

しょうがないか。



俺たちは今、王城付近の森へ身を潜めている。

ここからなら町を見渡せるのだがどうも町の様子がおかしい。

爆音が時々町から聞こえてくる。

大方、(チート)を覚醒させたアクセルが

暴れまわっているという感じか。

アクセルは俺が殺してきた勇者の中でも一段と苦労させる奴だ。

ここまで生へのこだわりと力を信じている奴はいないだろう。

あらかた生前がろくでもないってパターンだ。

まあ、俺も人のことは言えないがな。


草の生えた茂みを掻き分けた先に水の流れる音がする。

近くだな。

アクセルから受けた傷が痛む、早く横になりたい。


「なぁ、こんなところにオズとかいう剣士はいるのかよ?」


「さあな。兵士は結局アクセルの言うところの強者に従ってればいいんだよ。」


「あいつはまだキレてんのか?」


「カズトラル国との決戦の時も毒を盛るようなやつだからな。

そう簡単に治まらねぇだろ。なんか翼生えたし。」


何故ここに兵士がいる。

アクセルの奴は手負いの俺を兵士に探させているのか。

しょうがないが、魔法で少し眠ってもらおう。

だが魔力をあまり使いたくない。


奴との戦いにまでは体力を、魔力共に温存させておきたい。

できれば明日には奴を殺さなければ。

このままでは勇者に国を滅ぼされかねない。

できれば犠牲者は最低限にしておきたいしな。


まあ魔力を温存したいなら、気絶するまで殴るしかないな。

仕方のないことだ。

許せ、兵士よ。


「おい、誰だ貴様止まrッ…。」


「貴様ぁ!!ウッ…。」


早く戻ろう。

エリスが心配だ。


「見つけたぞぉ!!」


しまった!!

エリスのいる方角から声がする。

仲間を呼ぶということは森には結構な数の兵士が居るのか?

体がボロボロとはいえもう少し遠くへ逃げるべきだったな。


アクセルはきっとエリスの殺害命令くらい出している。

急がねばならない。

一面に茂っている草を剣で刈り取りながら全力で走る。

全身が痛むが、それでも走らなければ。


「いたぞ、偽勇者だッ!!」


8人の兵士たちが俺目掛けて切りかかろうとする。

このさい魔力の温存はしょうがない。

とにかく最速で行くッ!!

己を想い、解き放て。


「バーンッ!!」


「うああああああっ!!!」


自分の足元で爆発させ、広範囲に爆風で何人かの兵士たちを吹き飛ばしつつ、

自分は上空を飛ぶ。

アクセルの時にもやった手法だ。


「怯むな。魔法を放てッ!!」


「炎の精霊よ、我が身に力を与えたまえ。フレイムッ!!」


全ての世界でもっともメジャーな魔法か。

やはり魔法に特化していない兵士などは口頭での詠唱が必要。

兵士らが詠唱してる間に、

着地を取って駆けだした。

敵に構って攻撃するのは得策ではない。

今はエリスを助けるのが優先だ。


「間に合ってくれ…。」


息を切らしながら走り、どうにか追いついた。


「よぉ、偽勇者君。」


「アクセルッ!!まさか、エリスを殺したのか!?」


「いや、でも君を王城へ誘う餌になってもらおう。

真っ向勝負だ。これでどっちが強者かわかるよな?」


天使のような白い翼が生えているアクセルは

空中にふわりと浮いている。


「場所はこの国の闘技場。

時間は明日なんて言わねぇ。

今日だッ!!お前には休ませない。

傷だらけなところを見ると回復魔法は使えないようだな。

今はぴったり6時。3時間後だ。3時間後に来い。

負けたり、来なかったらどうなるか分かってるよな?」


「ア、アクセルッ!!」


「殺しは慣れているだろ?俺は一瞬でもお前に恐怖心を抱いた。

でもそれは間違いだった。

真の強者は結局俺だったんだよォ!!!

もう俺は恐怖も捨て、人間性も捨て、

この翼が示すとおりに、俺は神になる!!!」


「それじゃあな。がんばれよ弱者。

ハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!!!!」


そういうと奴は上空へ飛び去った。

奴を絶対に、殺して見せる。






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