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境界の教会/キョウカイ×キョウカイ  作者: 宇佐見仇
第二章  開錠 ― Lock Picking ―
13/52

機知の未来/人はそれを予知という

人物一覧

美玲……女子大生  阿誰あすい……女子大生 タルボット……科学者

一之瀬……メイド  棚田……???  鬼無……探偵

緋冠……シスター  カルヴィニア……神父



※注意

6/15編集前の「子ウサギのささいな反撃」を分けたものです。

        ●


 二人掛かりで大柄な神父を転がしたりして雁字搦めに縛った。一之瀬は「力を込めれば込めるほどきつくなる拘束」という不思議な縛り方を見せてくれた。大型肉食獣を生け捕りにする際に使用される技術だという。


 無事に縛り終えると、困惑に満ちた阿誰が話しかけてきた。


「ちょっと美玲。どういうこと? いったい何をしているの?」

「そーそー、あたしも説明してもらいたいんだけど」一之瀬が口を尖らせる。「犯罪の片棒を担がされて、はい悪戯でした、じゃ済まされないよ?」


 他の者も説明を求めて、美玲のことを見つめている。


 困ったことに美玲は説明力に自信がなかったし、これまで大勢に注目された経験も僅かしかない、いわゆる口下手だった。勘違いされたらどうしよう、と不安を感じながら、それでも包み隠さず話すしかないのだ、と覚悟を決めた。


「ええと、わけを話すけど、でも、そろそろ目と耳を塞いだ方がいいよ」


 美玲の忠告に全員が不思議そうな表情を浮かべた瞬間、聖堂ホールが真っ白な光に包まれた。目蓋越しでも網膜を焦がす閃光に、何人かが悲鳴を上げた。


 美玲は慌てて蹲り、次に来る爆発に備えて両耳を塞いだ。


 鐘の音がどこからともなく響いた。悲鳴は瞬く間に鐘の音に塗り潰される。鼓膜を貫く轟音はあちこちに反響しまくって、ごちゃ混ぜの騒音に変化する。


 肺が内側から圧迫され、美玲は気圧を下げるために、口を大きく開いた。

 破壊的な騒音は、三度鳴ってから、幻のように消えていく。


 恐る恐る両耳から手を離しながら目を開いたら、強烈な光も綺麗さっぱり消えていた。他の者たちは頭や口元を押さえて苦しそうな様子だ。


「ッ、何なの……。さっきの」


 阿誰が髪に触れながら、呆然と呟いた。

 一之瀬があっと口を開ける。


「ちょっと、何あれ! 見て!」


 彼女の指差す先には巨大な扉があり、そこに文字が浮かび上がっていた。近くで見に行こうとした黒帽子の女と怪しげな男を、美玲は呼び止めた。


「ちょっと待って、鬼無さん、棚田さん。あれのことも今から説明するから」


 名前を呼ばれた黒帽子の鬼無は、苦虫を噛んだみたいな顔をした。


「うげぇ、オレの名前まで知ってんのかよ。同業者か?」


「少しばかり君に興味が出てきましたねえ。君がさっきの奇跡現象を引き起こしたってことですか? トリックは? 動機は何ですか?」

「わあ、待って待って。いっぺんに聞かれても答えられないよ」


 美玲は慌てて手を振った。二人が不思議に思うのは分かるし、適当な説明で納得してもらえるとは思わない。美玲は手探りで答えていった。


「えーとね、さっきのは私がやったんじゃない。あっちの扉、開かなくなっているけど、それも私がやったんじゃないからね。何やっても開かないから強く蹴ったり、ナイフで抉じ開けようとしたりしない方がいいよ?」

「……何言ってんだ、てめえ?」鬼無が引き気味に言った。


 恐らくその言葉は、全員の総意だったろう。仕舞いには親友である阿誰にさえ、可哀想な子を見るような目を向けられた。


 このまま肝心な部分の説明を引き伸ばしていると、本当におかしな子として認識されてしまう。それでも美玲が答えあぐねていたのは、きっと信じてもらえないだろう、という予測があったためだ。下手したら、今以上に哀れに見られる。


 退くか進むか、すべて話すか、ただ黙するか。美玲は躊躇った。そんな優柔不断の背中を押したのは、風に掻き消えてしまいそうな小声だった。


「……どうして、分かったんですか? これから起こることが」


 儚げなシスターが、上目遣いで美玲をじっと見ていた。これから起こることが分かる。確かに他人の目にはそう映るだろう。さながら奇跡のように。


「ううん、違うよ、シスターさん。私は分かるっていうより知っているんだ。すでに一度体験したことだから。扉が閉まることも、光と音が発生することも、この恐い神父さんが暴れて、私たちを皆殺しにすることも」


 最後の例えに阿誰がぎょっとして、気絶した神父に目をやった。


「知っていたって……、どうして? どうやって知ったって言うの?」


 ますます困惑を深めた親友が問いを重ねる。美玲は腹を括って答えた。


「私ね、実は超能力使えるの。予知夢が見れるんだ」


 場が一瞬にして、通夜みたいに静まり返った。棚田だけが満面の笑みで「それは素晴らしい!」と手を叩いた。わざとらしい拍手だった。


 ほら。やっぱり信じてもらえない。


         ●

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