SEDICI *???の独白*
●2話連投しています。
●この話は胸くそ展開していますので、苦手な方は飛ばしてくださいませ。
その人は背が高く、優しくて、頭がよく、何と言ってもイケメンで当然あこがれている人が多かった。 もちろんあたしもその一人。 家庭内がうまく行ってなくて、顔面偏差値も中の上くらい、頭もそれほどよくなく三流大出身のあたしなんか彼とお近づきになれるなんて、そんな都合のいい夢はみていなかった。 だから遠くから見ているだけでよかったのに。
会社の歓迎会に参加したとき、彼も参加していたことは知っていたけど、どうせあたしなんか相手にしてもらえないって思ってた。 ほら、ね? 今も彼の元にたくさんのかわいい女の子達が群がっているじゃない? みんな自信があるのね、なんて独り言ちて、ちびちびとお酒を飲みながらなんとは無しに周りをぼーっと眺めていたの。
「どうしたの? つまんない?」
いきなり声を掛けられ、びっくりして振り返ると彼が居た。
「へっ!? い、いえ‥‥ あの、大丈夫です‥‥。」
耳まで赤くしながら(だって!憧れの彼に話しかけられたんだよ?!)しどろもどろで答えると、彼がくすりと小さく笑い、私の耳元に口を寄せると「ねえ、二人で消えちゃおっか?」ってささやいた。 ひゅっと息を飲み、目を見開いて彼を見ると、彼は口元に右手人さし指を立てて妖艶に微笑んだの。
憧れの彼の甘い誘いに抗えるはずもなく、こっそりと二人で抜け出し、そのままホテルで夜を明かしたの。
あたし達はその日をキッカケに付き合う事になった。
身体から始まった関係だけど、付き合い方なんて人それぞれだし、後悔どころかあたしは文字通り有頂天だったわ。
――――― でも、幸せな時間は突然終わりを告げ、待っていたのは抜け出せない泥沼のような生活だった。
「おまえってさぁ、ほーんとダメな女だな。 何でそんな簡単な事も出来ないんだよ?」
「あーあ、おまえのせいだぞ! どうしてくれるんだよ?!」
料理が自分の好みの味付けじゃなかった。 掃除の仕方が雑だった。 出かけた先で道に迷った。 ゲームで負けた。そんな些細な事で彼は時にあたしを責め、自分を正当化し、あたしを精神的に追い詰めた。
彼は俺様至上主義のモラハラ野郎だった。
もうダメだ、別れようと思う絶妙なタイミングで彼はあたしに泣いて謝り、そしてドロドロに甘やかす。 絆された馬鹿なあたしは彼を許してしまい、また同じ事を繰り返す。
精神的に弱ってきていたあたしの唯一の癒しは乙女ゲームの中の攻略キャラのエド様ことエドナーシュ様だった。
彼に理不尽に責められ落ち込んだ時も、画面の中のエド様の優しさに救われた。
俺様なジェラルド王子にそつなく対応し、主人公を優しく包み込む。 そんなエド様に愛される主人公に自分を重ねた。
あたしはきっとこの頃からエド様に恋していたんだと思う。
そんなある日、イケメンで外面はすこぶるいい彼の本性を知らない、彼に焦がれる女が、あたしが彼を束縛して困らせていると勘違いして「彼を解放してあげて」って迫ってきたわ。 解放して欲しいのはあたしだって言うのにね。
そしたらその女があたしに馬鹿にされたと勘違いして、あたしを隠し持っていた包丁で刺し、あたしの意識はそこで切れた。
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母さんが死んだあの日、あたしはそんなくそったれな前世を思い出した。
生まれ変わって今いる世界が大好きだったエド様のいる『星君』の世界だってわかった時は本当に踊り出したくなるほど嬉しかった!
それなのに‥‥ 10歳の時行った王宮ではエド様に会えるって嬉しくて仕方なかったのに、エド様側には何故かあの悪役令嬢のエリザベスがいるじゃない! 一体どういう事なの?!
もしかしたらエリザベスもあたしと同じ、転生者なの?!
だとしたら許さない。 エド様と幸せになるのは.... 幸せになっていいのはこのあたしよ!
ああ、エド様.... きっとあたしが貴方を悪役令嬢から救い出すわ。
待っていてね....
胸くその悪い鬱展開が続いたので、そろそろ明るい話をもってきたい‥‥