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第93話 顔の見えない会話

その頃、鷹也は仕事の真っ最中だった。

しかし、胸のスマートフォンが震え着信を伝えた。

ポップアップには、『不明・公衆電話』の文字。


一見怪しかったが、ひょっとして鈴の身に何かあって、近所の人が連絡して来てくれたのかも知れない。

鷹也はその心構えで課内から出て受話器のアイコンをタップした。


「はい。多村です」

「あ。タカちゃん? アヤです」


鷹也は動転してしまった。

たしかに彩からの連絡を待っていたが、心の準備ができていない。

慌てていろいろと彼女のために準備していた言葉が何一つでてこなかった。


「鈴は元気ですか?」

「ああ。ああ。面倒見てもらってるよ。あのアヤ?」


ここで、鷹也はミスを犯した。

『面倒見てもらっている』という言葉に『母親に』が抜けている。

彩はやはり『面倒を見てくれている妻になる女性』の存在を確信してしまった。


「今、元の市役所に来てました。住所を移転するためです。でも離婚届だしてなかったんですね」

「そ、そうなんだ。だから、あの。その」


「ふふ。タカちゃんらしいです。忙しさにかまけて提出してなかったんですね」

「そ、そういうわけじゃ……あの、あのさ」


「はい?」


たくさん聞きたい事があった。

だが頭が真っ白だ。

鷹也は自分にとって一番聞いてはいけないことを聞いてしまった。


「男と……暮らしてるって……」


探偵事務所の所長から聞いた言葉だ。

もちろん彩の回答は決まっていた。


「あ。ええ。探偵さんから聞いたんですね。そうですよ」


もちろんこれは独身寮の男性たちとという意味だ。

しかし鷹也の頭はますます真っ白になってしまった。


「新しく奥さんになる人のためにも離婚届を提出してくださいね」


あまりにも頭が真っ白になってしまい、最初の言葉が聞こえていなかった。

聞こえたのは『離婚届を提出してください』。


鷹也は電話の前でうなだれてしまった。


「……ああ。週末の休みに友人たちに証人の欄を埋めてもらって、来週の月曜日には提出するよ……」


その言葉に彩も気分が沈んでしまった。

もう一度そんな言葉を受け取ってしまうなんて。

分かってはいたが、やはり苦しい言葉だった。


「お願いしますね」

「う、うん。あの……アヤ?」


「はい……」

「いろいろと思い直したんだ。スズが将来会いたいと言った時に会わせたい。だからせめて連絡先を教えてくれ」


「……ありがとう……ございます。でも、離婚届を出して頂かない事には住所が移転出来ません。それが出来たら、電話も買いたいと思ってるんで、そこから連絡先を伝えたいと思います」


「そっか……。そうだよな……」

「はい。よろしくお願いします」


「うん……」

「じゃ、切ります」


「うん……」


鷹也の電話からしばらく彩の気配が感じられたが、ガチャリという音とともにそれは途絶えた。

鷹也は廊下の壁に寄りかかり、しばらくそのままでいた。


他人行儀な話し方。男の出来てしまった彩。

精神が安定しない。

せっかくの彩からの電話だったのに、ダメージが蓄積されてしまった。

なぜか自分の爪を見つめたりした。


そして大きくため息をつくと、課内に戻り自分の席に座って仕事を開始した。

それしか出来ない。

一生懸命仕事をすることで忘れようとしたのだ。

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― 新着の感想 ―
おいィ!?なんだよそのコントみたいなすれ違いは!
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