表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/111

第9話 我が家

近野は後部座席の窓から鷹也のその姿を消えるまでずっと見ていた。


「お客さん。どちらまで?」

「ああ。そこ右で……」

「はい」


車は夜の街を走り抜けて行く。

街灯の黄色い灯りがリズムよく近野の顔を照らす。

近野は輝くネオンの光を窓から眺めていた。


「出会うのが少し遅かったくらいで……。悔しいなぁ」


小さいその声は運転手にすら聞こえなかった。



その頃鷹也は別なタクシーを捕まえて家に向かっていた。


家に帰ると、すでに寝静まっている。

男に少しいたずら心が湧いた。

まだ、妻の彩に今日帰ることもひと月休みのことも言っていない。


そっと彩の部屋を覗くと子供と眠っていた。


鷹也には先ほど感じた近野の膝の温もりが残っていた。

それが近野の温もりだとは分かっていなかったが体の奥からムラムラという欲求が沸き上がっていたのだ。


すぐさまシャワーを浴び急いで体を洗って、眠っている妻の後ろに入り込んで背中に抱きついた。


「……キャ!」

「オレだ。おとなしくしろ」


「やだ……。タカちゃん……?」

「そう。ビックリさせようと思って帰って来た。いいだろ?」


そう言って彩の胸に手を伸ばす。


「ダメダメ。眠いのぉ」

「いーじゃん。いーじゃん」


鷹也は強引に彩に身を重ねようとしたが、彩は平手で男の膝を打った。


「ダメ。スズが起きるでしょ」


そう言って立ち上がりトイレに向かって行った。

鷹也は叩かれた場所を押さえて呆然としていたが、それもそうだと思った。

今まで普通に彩に自分の体を合わせていたが、今は子供がいる。


そう考えると、今までどれほどブランクがあったのか?


子供ができたと控えていた。

子供が生まれたと控えていた。

仕事が忙しくて控えていた。


考えてみると彩と行為はおろか身を密着させたのも久しぶりのことだった。


トイレの水流の音が聞こえる。彩が戻って来たのだ。


「なによぉ。いきなり。いつも連絡くれるのに」

「ゴメン。急に飲み会になったんだ」


「そっか。じゃぁ仕方ないね」


そう言いながら彩は布団の中に滑り込んだ。


「……ごめん。スズも起きるかもしれないし、一日中スズの相手で疲れてるの。寝ていい?」

「あ、ああ」


そう言うと、彼女は布団をかけて鷹也に背を向けた。

子供の方を見ながらもう一度、二度目の睡眠をとるためだ。


鷹也は久しぶりに愛しい妻の顔を見てさらに欲求が募ったがせめてとばかり、唇を顔に近づけた。


「ん……」


彩はそれでも顔を向けようとしなかった。

仕方なく鷹也は彩の耳に口づけをし、自室に戻って布団を敷いて寝た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ