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第62話 愛してます

「ちょっと。アンタ大丈夫?」

「大丈夫。大丈夫っす〜」


「真っ赤っかじゃん。そんな赤い人はじめて見た」

「マスター。ごちそうさんです。おいくらっすか?」


「超出たがってるし」


二人は互いに支払いを済ませ外へ出た。

夜の冷たい風が心地よかったが、立花は足元もおぼつかない状態。

近野は肩を貸して歩かせた。


「すんません。係長」

「いいって。私にも責任あるし。明日は休みなんだから寝てなね。風俗とか行かないで」


「いや……」

「ん?」


「行ってないっす」

「ハァ? ウソかよ。嘘つきは嫌いです。そのウソ嫌いです」


「いやぁ。前は行ってたですけど」

「やっぱり」


「係長のこと好きになってから行ってないっす」

「…………」


「係長。愛してます」

「……あっそ」


酔った勢いの言葉。だが力強い。信念のこもった言葉だった。

近野も立花のそんな気持ちには薄々感づいてはいたが、一言で流し彼を支えながら歩いた。

二人は、小さい公園の中に入り一つしか無いベンチに腰を下ろした。


「あ〜。重たい」

「スイマセン。筋トレしてるんで」


「なるほどね。脂肪よか筋肉のが重いから。ってどうでもいい」

「はは」


「ふふ」


立花をベンチに座らせたまま、近野は自動販売機から水を買ってきて立花に渡した。


「ほい。酔いつぶれのジルコニア」

「何言ってんすか。ダイヤモンドでしょ」


「かっこつけて輝きだけはいっちょまえ」

「本物っすから。本物」


「はいはい」


立花だけをベンチに座らせて、彼女は彼から少しだけ体を反らして冷たい缶コーヒーを飲んでいた。

そして思い出す。この男と共に居て楽しくてストレスなど忘れていたなと。


「返事は?」

「なに?」


「ぬねの」

「コイツ、ムカつく」


近野は立花と逆方向を向いたが、立花は繰り返す。


「返事。告白の返事ですよ」

「ああ」


「愛してます」

「そうですか」


しばらく沈黙。近野だけコーヒーを飲む。

立花はそんな近野を見つめていた。


「酔っ払って聞いたって忘れちゃうでしょ」

「忘れないっすよ〜」


「あっそ。じゃぁ、嫌い」

「……忘れました」


「はぁ?」

「酔っ払ってるんで」


「プッ」

「はは」


立花は立ち上がって、近野に近づく。

だが、近づく度に近野は少しずつ離れた。


「強姦するつもりだな。青年」

「んな気ないですよ。一緒に帰りましょ。終電になっちゃいますよ」


「あっそ。50センチ以上近づかないでよ」

「へいへい」


「なにそれ。上司に向かって」

「なんすか。面倒くさいっすよ」



幾分落ち着いた立花とともに駅まで歩きだした。


楽しい男だ。

自分が恋している課長の真似をする年下の男。

自分の気持ちを知っていても好きだと言ってくれる男。


だが、近野はそんな気になれなかった。

まだ鷹也への思いを捨てきれないし、自分にもチャンスがあるのかもしれないと思っている。


そこへ立花。またも大きな体を曲げ近野の顔を覗き込んで笑顔で話しかける。


「でも、愛してなくとも好きでしょ? 嫌いではないでしょ」

「う〜ん。どっちかっていうと……嫌い……かな〜?」


「……今日の酒は強過ぎて、全然記憶に残らないっす」

「プ。バカ」


二人はにこやかに手を振って別れ、別々の電車に乗り込んだ。

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