第6話 休暇
それからチームで動かしていた大プロジェクトがようやく成果を結び、会社の総売上の10%を占める大事業が終結した。
次回からはリピートも出るだろう。
彼がやっていたことは大きな形となり、社長に呼ばれた。
「失礼します」
「かけたまえ」
身が埋まるほどのソファーに腰を下ろすと、社長は見たこともないような笑顔で彼の前に座った。
「聞いたよ。大成果だったな。私が見込んだ通りだった」
「いえ。まだまだです」
「うん。辞令より少し早いが来年からは次長になってもらう。将来は幹部だな。多村」
「次長! ありがとうございます」
部長から聞いて分かってはいたが、社長の手前驚いてみせた。
次長ともなると、会社の会議に参加できる。
若手のホープだ。鷹也は嬉しさをかみ殺した。
「それからなぁ。総務から聞いたがキミは会社にずっと寝泊まりしているらしいじゃないか」
突然の話だった。鷹也は会社のために当然のことだと思いそれをしていたのだ。
「それはマズイ。会社はキチンと休日も帰る時間も与えている。部下もそれをみならったらブラック企業そのものだ。キミの忠誠心は分かっているがそういうことは控えたまえ」
「し、しかしお言葉ですが社長。全ての車が法廷速度を遵守していたら日本の経済は成り立つでしょうか? 多少、危ない、危険なことをしないと社益に繋がりません」
その言葉を聞いて社長は膝を一つ叩いて笑った。
「はっはっは。キミは小気味いい男だな。その通りかもしれん。だがダメだ。キミを見習うヤツがでるのを恐れる。今回の功績と今までの代休にキミにひと月の休暇をやる。たっぷり休養したらまた頑張って欲しい。いいな。引き継ぎに二日ほどかけてもいいが、それからは休め」
「は、はぁ……」
今まで働きずくめの鷹也には青天の霹靂だ。
しかし、休暇……。それはそれで嬉しかった。
子供も小さい。今のうちにたくさん遊んでやりたい。
貯まった金で旅行にも行きたい。今の貸家は狭い。家を建てる相談もしたい。