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第51話 誰にも言わないで

彼女は震えたままだ。


「おねいたん。パパいつ帰ってくる?」


自分にはどうしようもない。今、彼女は肉親を求めているのだ。

ママがいないのでパパを。

近野はすぐさま、鷹也に電話をかけたのだ。


鷹也は課員を迎え入れ、車に乗せ帰路についていた。

彼の耳に付けていたBluetoothイヤホンが着信を知らせた。


「もしもし」

「あ、課長ですか? あのスズちゃんがお帰りを待ってらして」


「そうなのか? もうすぐだが」


近野は鈴にスマートフォンを手渡した。


「スズちゃん。パパだよ」


鈴はそれを受け取って鷹也に話し始めた。


「パパ。スズ、パパに会いたいよぉ」

「どうしたんだ? いつも頑張り屋さんなのに」


「あの……。あのね。あの……」


そう言って押し黙ってしまった。

近野もどうしていいか分からない。

だが、鷹也はピーンと来た。


「スズ……ウンチなのか?」


鷹也の言葉に、鈴は電話に向かって頷いた。

もちろん鷹也には鈴の様子は見えなかったが状況が分かり、ニヤリと笑った。

だが笑ってはいけない。肉親でないものに、汚物の始末を頼めなかったのだろう。

鈴はオムツだ。しかも、恐がりで一人遠くに離れてトイレで力む事ができない。

近野のそばにもいたいが、ウンチもしたい。困り果てて鷹也に助けを求めたのだ。


近野も側で聞いていたので鷹也の声が聞こえて理由が分かった。

思わず笑顔になる。鈴は近野にスマホを返しながらその顔を見た。


「パパ。もうすぐ帰るって」

「ふふ。そうなんだ」


「も〜。おねいたん、笑わないでよね〜」

「ふふ。ごめんごめん」


二人して駐車場の見える窓から、鷹也の軽自動車が帰ってくるのを眺めていた。

ホントにそれから数分だった。

鷹也の車が駐車場にすごいスピードで入ってきた。まるで後輪が浮いているようだ。


鷹也は、急いでシートベルトを外したかと思うと、玄関まで走り込んで来た。


「スズ、ごめんな!」


客を車の中に置き去りにして、愛娘に抱きついた。

鈴も鷹也に会えて安心したのか便意が最高潮に達しその場で出してしまった。

少し臭いがしたが近野は気づかない振りをして課員達を迎えにいった。


鷹也は鈴が恥ずかしかろうと思い、二階の元自室に連れて行きオムツを交換した。


「あ〜。間に合った。我慢したなスズ。偉いぞ」

「も〜。パパ。遅いんでちよ〜。誰にも言わないでね」


「お、おう」


すでに、車の中で言ってしまっていた。後ほど課員達一人一人に内緒にしてくれと言って回る事になるのだが。


「お姉ちゃんと二人楽しかったか?」

「うん。デーブーデー見たし、ご本も読んでもらったでち」


「おー! 良かったな〜!」


その頃、階下では課員達がご馳走の準備をしていた。

それぞれが酒を持ち寄っていた。

立花は子どもが食べられそうな小さなピザまで買ってきていた。

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