第40話 願いながらドアを回して
家に到着した。
鷹也はわずかな希望を胸に抱いていた。
家の灯りがついているのかも……。
そしたら彩が待っているのかもしれない。
しかし、希望は空しいものだ。一つの灯りもついていない。
鈴を抱きかかえて玄関のドアノブを回す。
くるり……
開いていた。
鷹也は驚いて中に飛び込んだ。
だが人の気配はない。
先ほど、慌てていた為に自分でカギを閉め忘れただけだった。
玄関の前には相変わらずダンボールと宝石箱。
自分の馬鹿さ加減に腹が立ったが、どうやら空き巣の被害はないようだった。
鈴も鷹也の腕から降りて鷹也より先に家に上がり、暗い廊下の中央で母親を呼ぶ。
「ママ?」
だがシーンとしただけで返答はなかった。
「ママぁ!」
当然返答はない。
鈴はまたグズりだした。
自分の服を固く握って、肩を振るわせている。
後ろ姿。暗い家の中。だが鷹也には鈴が泣くのをこらえているのが分かった。
「スズ……ママなぁ……」
鷹也が鈴に声をかけると、鈴は振り向いてニコリと笑った。
「ごりょこうかな?」
なぜそう思ったのか分からない。
一度、鷹也の実家に行ったときに鷹也の父親のみが留守のときがあったのだ。
その時の鷹也の母親の返答が「旅行」。そしてお土産を買って来てくれた。
鈴は鈴なりに母親が二度と帰ってこないのかもしれないと感じたのかもしれない。
だから、楽しいことを考えて自分をごまかしているのかもしれない。
お土産をもって帰ってくることを。
「そ、そうかも……」
二人は一緒にリビングに入った。
夏だと言うのに冷たい家の中。
だが鈴は精一杯おしゃべりをしているのが分かった。
鷹也はそれに明るく返す。
二人でいつものように食事をし、いつものように風呂に入る。
そこにもう一人がいないだけ。
罪を犯した彩。
それがいないだけなのだがなんと寂しいことであろう。
その晩、鷹也は鈴の隣りで眠った。
彩がいたポジションで。
鈴に寄り添って抱きしめながら……。




