第39話 慰謝料と返済金
「アヤは?」
「い、いませんよ……」
「嘘つくな! 信用できるか!」
「あの……上がってもらっても結構です……」
鷹也は鈴を片手に抱いたまま、二人が密会したであろう部屋の中に入って行く。
「アヤ! アヤァッ!」
鷹也は彩の名を叫んだ。
「あ、あの……本当にいないんですが……」
「うるさい。アンタは黙ってろ」
「あの……あの……」
鷹也は乱雑に部屋の中をかき回し、トイレや脱衣所、洗濯機の中、天袋まで見た。
この汚らしい部屋で彩はこの男に抱かれた。痕跡を消すように本や服を撒き散らして行く。
その様子を見て鈴は腕の中で怯えていた。
「本当にいないようだな……」
「……ハイ……あの……なにかあったんですか……?」
「あんたにゃ関係ない」
「ハイ……」
「スマン。邪魔をした」
鷹也は散らかしたものを片付けもせずに部屋を後にしようとした。背後から浮気男の声がする。
「あの……」
「なんだ」
「お金のことなんですが」
「ああ……」
「もうすぐ120万円なら揃いそうなんです」
鷹也は一度はいた靴を脱ぎ、鈴を抱いていない手で浮気男の襟首をふん捕まえた。
「貴様! やっぱりアヤを食い物をしてるな! 120万はアヤから引き出したんだろう! アヤはどこだ!」
浮気男は両手を上げて首を横に振る。
「違います。アヤさんは関係ありません。いや、ちょっとは関係あるかも。前にもらった金が20万残っていたのと、親から真面目になるって借りた100万なんです!」
鷹也は襟首から手を放した。
「本当か?」
「本当です。本当です」
「アンタも真面目になるんだなぁ……」
「そうです。そうです。親戚の紹介で就職先も決まりましたし……」
「そうか……大したもんだ」
「スイマセン……そこからコツコツ返したいと思ってるんです……期日には間に合いませんが……」
「そうか……分かった。本当はアンタの顔も見たくはないが待ってやる……」
「あ……ありがとうございます……」
鷹也は部屋を後にした。
鈴をチャイルドシートに乗せて車を走らせる。
しばらく走ると、鈴は大声で泣き出した。
「うわぁーーん。うわぁーーん」
「ど、どうした? スズ……」
「パパが怖いよぉ! スズたん、ママに会いたい! ママに会いたいよぉ!」
「ご、ゴメン……。スズ……ゴメンな……」
鷹也には謝る事しかできなかった。




