第37話 葬儀には何人?
自分の心はどうしていいのか分からない。
自分が悪いのか?
いや、自分は悪くない。
しかし本当は気付いていた。
彩は辛かったんだろうと。浮気をしたと思ったとき、実は何度もそう思っていた。しかし許せないと言う気持ちで押さえ込んでいた。
制裁をどうしても加えたかった。
制裁を加えた今になってみれば、どうだ?
正直に言った愛しい彩を弁解の余地無く追い出した。
鈴の大好きな人を。
自分の愛した人を。
何が許せない?
持って行かれてしまった心?
二夫にまみえた病気におかされた体?
自分には許さなかった変態行為を許した貞操?
これが自分が望んだ幸せなのか?
誰かが幸せになったのか?
これから自分と鈴は幸せなのか?
庭に立ち尽くしたままだった鷹也は急いで実家の中に入った。
鈴はリビングにリュックサックを逆さまにしてジャラジャラとウサギのお人形を開け、祖父に新しく買って貰った人形を自慢していた。それを横目に見ながら母親がいるであろうキッチンに入っていくと、母親は鷹也の好物であるから揚げを揚げていた。
「母ちゃん」
「なんだよぉ。スズと遊んでやれよ」
「いや。あの」
「まあ仕方ない。アヤがしたことはたしかに許されることじゃない。明日から泊まりがけでしばらく面倒見に行ってやるよ。バカでも息子だもんね」
そう言いながら母親は鼻を思い切りすすった。
少し涙声だったが後ろからでは泣いてるかは分からなかった。
「やっぱー……、オレたち帰るわ」
「フン。親不孝モンめ。このから揚げどうすんだ。父ちゃん食い過ぎて死ぬわ」
「葬式には三人で出るよ」
「フン。とっとと帰れ」
「母ちゃんは……」
「なんだよ」
「父ちゃんが浮気したら許せる?」
「んなわけねーだろ。追い出してやる」
「じゃぁなんで? アヤのことを……」
「でも、もしも……鷹也が浮気したらどうなんだろ? 家にも入れない母親になるかどうかは自信がないよ。バカでもかわいい息子だもんね」
「そんなことしねぇよ」
「それと同じだよ」
「え?」
「アヤはどう思ってたかしらない。姑と思ってたと思うよ。でも私は違う。自分に娘がいないからね。娘だと思うことにしたんだよ。アヤのご両親が亡くなってからね。ここがアヤにとっての実家だと思ってもらえりゃいいなぁと思ってたの。だから……。だからさぁ。娘の寂しかった気持ちも、そうやって夫を裏切っちゃった気持ちも……。なんとなくだけど分かるんだよねぇ……。はぁーあ……。なんで相談してくれなかったのかねぇ……」
「そっかぁ……」
鷹也は急いでウサギのお人形をリュックサックに入れ込み、グズる娘の手を引いて車に乗せた。
楽しみにしていた父親の実家。
鈴は鷹也を「バカ」と罵ったがそれどころじゃなかった。
急がないと彩は出て行ってしまう。
鷹也は自宅に向けて車を走らせた。




