第31話 二人でお茶を
次の日、彩に子供を託して鷹也は外に出た。
市役所に離婚届を取りに行く為だ。
車で行けばすぐだが、彩にせめて子供の名残を尽きさせてやりたかった。
そのため徒歩で向かった。眠っていない体に太陽の光が痛い。
細い路地を歩いて少しばかり広い道に出た。
広くても住宅街でみんな出勤している時間帯だ。
車通りは少なかった。
その時、後ろから一つだけクラクションが聞こえた。
鷹也が振り返ると、自分の会社のロゴマークが入った社用車があった。
「課長!」
途端に、鷹也の顔がほころぶ。声をかけてきたのは部下の近野であった。
「近野くん」
「ハイ。社用でこちらのほうに来てたんです。どちらへ行きますか? 乗りますか?」
近野は思った。課長である鷹也はどうせ断って来るだろう。
しかし、惚れた男と少しの時間でも一緒にいたい。そう思っての言葉だった。しかし返答はいつもと違っていた。
「そうか。スマン」
そう言って近野の隣りに乗り込む。
「あれ?」
「どうした?」
「いえ。何でも……」
近野は車を走らせた。鷹也には時間がある。今後の近野の予定を聞いて、少しお茶をして行こうと誘った。
「やだ、課長。どんな心境の変化ですかぁ? 外回りするときだって同列に並ばなかったでしょ? 奥様一筋のはずなのに」
そう言われても鷹也は黙っていた。ドアに肘をついて窓の外を眺めている。
近野の車は適当な喫茶店を見つけて停まった。
二人はその中に入って行った。
鷹也は席に座るとすぐに切り出した。
「黙っていてもすぐにバレる。キミは一番近くにいる人間だから信頼していうが、実は妻と離婚する事になった」
「え?」
近野の目が大きく見開く。本当に驚いている。
「ど、ど、ど、どうして」
「……まぁ、プライベートだし……。情けない話だから……」
「えー。そうなんですね。お子さんは? 向こう側?」
「いやぁ。オレが育てる事にした」
近野はうすうすと感づいた。奥様が不貞を働いたのだと。
しかし、確信がない。少しばかり突っついてみようと思った。




