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第27話 鎹、頑張る

鷹也は泣いている彩をそのままに車を走らせて保育園に娘を迎えに行った。

子供の前だ。彩は涙をぐっと飲み込んだ。

保育士より鈴を受け取り、彩は声を詰まらせながらチャイルドシートに鈴を乗せた。


鈴はすぐに気付いた。

雰囲気が違う。二人して平静を装っているが鷹也には彩に対して見えない分厚い壁があるように見えたのだ。

鷹也はおくびにもださない振りをして鈴に楽し気に今日の出来事を聞いた。


「どうだ~。スズ~。保育園は楽しかったか~」

「あのね。あのね。楽しかったよ~。絵を書いたよ。大好きなイチゴ! あとね。あと、ヒマワリ! あと、ちゅみきをたくさんかさねたの。あと、あと、あと……」


必死に場を和ませよう。二人を笑わせよう。

子供ながらに鈴は考えたのだ。

だが二人は笑顔を作るばかりで声を出さない。


「♪ネッズミがでたぞ♪ネッズミがでたぞ♪ワンニャン♪ワンニャン♪パニックだ~~い♪」


自分の中で一番楽しい歌を歌って見せた。家族みんなで行った大型遊園地の道程で父親と一緒に歌った歌。

また一緒に歌ってくれると思ったのだが、不発。

何もない。上手とも言ってくれない。


「パパ、オナラしたでしょ! くさいよ。ごっちんするよ~。はーごっちんごっちん」

「してねーよ」


不発……。

冗談も通用しない。チャイルドシートの上で手を大きく振って楽しげに言った冗談が不発。

鈴のチャイルドシートから斜め前に母親の横顔がある。それがいつもの大好きな笑顔がないのだ。


「えへ!」


笑って見せた。誘い笑いで母親を笑わせようという寸法。だが母親に笑みがない。


「えへへ」


多少母親の口元が動いた。だがへの字口になり、モゴモゴと動いている。今にも泣きそうだった。

鈴はもうどうしていいか分からなくなった。


「えへ。えへ。えへ。……エーン……。エーン……。ウワーン!」


次第に車中の緊張した雰囲気に飲まれて泣き出してしまった。

彩もつられて泣いてしまう。


鷹也は分かっていた。鈴が彩を見て泣いているのを。

だが子供だ。すぐにこのことを忘れてしまうだろう。

明日、明後日にはもういなくなる母親のことなど……。


「オマエのせいだからな」


ポツリと小さい声でつぶやく。

それは彩の耳に届いたのだろうか?

とにかく二人は泣いていたのだから。

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― 新着の感想 ―
[一言] 現実ではまだおむつが取れないほど幼い子がここまで気を遣ってしまう事はないと頭ではわかりつつも… この話はどうしようもなく心がキュッとなりました…。
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