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第23話 崩れゆく城

「何回だ」

「……あの……」


「何回会ったんだ」

「……あの……五回……」


「オレが休暇をとってからも会ったな?」

「うん……」


鷹也は汚物がついたティッシュを彩に投げつけた。それが彩の胸に当たる。


「外に出た三日全部か?」

「いや……」


「じゃぁ何回だよ!」

「二回だよ……。最後の日は別れたの。もう会わないって言ってきたの……」


鷹也は深く深くため息をついた。天井を見つめながら。

唇がブルブルと震える。

ガマンしなかったら涙がこぼれてしまうだろう。

だがそれをしたら、負けてしまうような気がした。


しかし、どうしていいか分からない。


『離婚』の二字が浮かぶ。

だがどうする?


鈴はどうなる?

まだ小さい子供。


彩はどうなる?

両親が他界し、一人ぼっちだ。


自分はどうなんだ?

彩を愛しているのか?


愛している!

愛している!


しかし、裏切られた。

だからこそ許せない。

自分だけの聖女が、邪悪な悪魔に誘惑されてしまったのだ。

その裏切りを許せるのか?


「オレは……」

「うん……」


「どうしていいか分からない……」

「うん……」


「だが、スズには母親が必要だと思う……」

「うん……」


「少しばかり考える時間をくれ」

「それって……」


「……ん?」

「離婚……?」


「うん……それも……ある……」

「……やだ……」


「ふざけるなよ。自分で裏切っておいて。オマエ、オレが今日何をしてきたか知っているか?」

「……え? ……本屋……」


鷹也は大きく息を吸い込んだ。そうすることで幾分気持ちが落ち着いた。声の震えもない。


「泌尿器科に行ってきたんだ。診断はクラミジアだった。オマエはその男からうつされたんだよ」


絶句。彩は鷹也の顔を見ながらその言葉に固まった。


「オマエは、浮気男とそういう行為をした。しかも、感染するってことは避妊をしていないということだろ? 夫にしか許してはいけない行為を、ポッと出てきた男に許したんだ。許せるわけがない」


彩は伏して泣き出してしまった。

浮気男を受け入れたことが鷹也に最悪の形で伝わってしまった。

最低な避妊方法だが相手に言われるがまま直前で体外に射精。

そんなこと鷹也に言えるはずも無い。

だから安心だなどと言えようはずも無い。


そして鷹也にそんなことは関係ない。


「その男を呼び出せ。大事な妻とそういう関係になったんだ。そして家を揺るがした。慰謝料を請求する」


彩の泣き声はピタリと止まった。


「……あの……」

「なんだ?」


「その人……お金がないの……」

「は? 関係ないだろ? オマエには」


彩はしどろもどろとしていた。鷹也は呆れた。


「金を貸したのか?」

「…………」


「貸したのか!」

「……あの……」


「いくら貸したんだ!」

「……あの……150万円……。それと……バラすって脅されて手切れ金に50万円」


鷹也は立ち上がって


「馬鹿女!」


と叫ぶと、自室にこもって布団に入った。

眠れるわけがなかったのだが。

悔しくて仕方がない。家族のために必死に働いた金。

幸せなマイホームを建てるための金。

200万円は大金だ。

月に5万の貯金。ボーナスで50万の貯金が年に2回。

それだって160万。それを少しばかり甘い言葉をかけられただけで簡単に渡したのだ。

抱かれた後のピロートークで、少しばかり貸して欲しい。とでも言われたのだろう。

鷹也の中にはマグマの塊がたぎるようだった。

眠れるわけがなかった。


彩は泣きぐずりながら、鷹也が始末を途中にしていた吐瀉物の処理をし、鈴の元に行って横になるしかなかった。

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