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第22話 堕ちた天使

「は……」


驚く鷹也。何も言えない。何も言えない。

カウンターパンチだ。眉毛がハの字になり情けない顔でソファに背を預けた。

また胃の中から飲んだばかりの強い酒が喉をつく。


「私……寂しかったの……寂しかった……」


鷹也の体はただただそのまま地獄に落下していくように感じた。

暗い暗い奈落の底へ。


自分が懸命に働いている間に彩は。彩は……。

彼女は床に泣き伏した。

彩の泣き声だけがリビングに響く。


鷹也が一つずつ重ねて行った城がガラガラと音を立てて崩れてゆく。


「寂しかった……だと……?」


「ゴメン。ゴメン! タカちゃんを裏切ったのぉ! バカだったの! 私!」


「大馬鹿だよ……」


彩はそのまま泣いている。しかし、鷹也はどんどんと怒りが沸き上がってくるのを感じた。


「どこの誰なんだ?」

「………………」


「答えろよ。どこの誰?」

「……高校時代の……同級生……」


「は? その頃からかよ!」

「違う! 違うの! 三か月前にあった……クラス会で……」


「はぁ? スズをウチの親に預けて行ったあのクラス会?」

「……そう……」


「オマエ、スズの顔が思い浮かばなかったのかよ!」

「……その時は……連絡先を交換しただけだったの……。でも、タカちゃんのことを相談するようになって……」


「オレのこと?」

「そう……。働き過ぎで家にいないって……」


「おう。それで?」

「そしたら、その人、それは浮気だって……。外に女がいて帰ってこないんだって。ずっと……ずっとそう言われたの。そしたらだんだんそんな気になって来ちゃって……」


「その男の言葉を信じたのかよ」

「私、もうダメだったの……。そうじゃないって自分にいい聞かせてたのに、何度も何度も言われたの。そしたら、自分ならそんなことしないって……。私を幸せにしてくれるって言ってくれて……」


鷹也はソファを殴りつけた。その音に彩はたじろぐ。

見たこともない表情のない鷹也の顔がそこにあった。


「オレは……ご両親を亡くしたお前を幸せにするために頑張って来たのに……」

「……そうだよね。分かってる。分かっていたのに……」


「オレは三年間も盆も正月も実家に帰らないで、ただお前の幸せだけを祈っていたのに!」

「ゴメン! タカちゃん! ホントにゴメン!」


「……感じたのかよ……」

「…………」


「答えろよ!」

「……その時は……。でもタカちゃんに抱かれて思い出したの! 本当に大事なのはこれなんだって! それに比べたらあの男とのなんて儚いものだって!」


その言葉の最中、鷹也は吐いてしまった。

リビングの絨毯を消化していないものが汚していく。

彩は慌ててティッシュを抜いたが、鷹也は彩を突き飛ばした。


「いい……! 自分でやる……!」


そう言って鷹也は自分が吐き出したものを無様な格好で拭く。

鬼気迫る表情の鷹也に彩はそれを震えながら見るしかできなかった。

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