第20話 異変
それから、毎日三人は一緒にいた。
今までの貯蓄で外食も、温泉旅行もした。
鈴が寝静まると二人して鷹也の部屋で一時の逢瀬を重ねる。
彩の笑顔が増えてゆく。
今までの時間を取り戻すように二人は睦み合った。
しかし、時折彩は不思議な寂しそうな顔をする。
鷹也はまた前のような時間が来ることを恐れているのだろうと察知して、そんな彼女を抱き締め慰め諭すのだ。すると少しばかり涙を流して過呼吸気味になりながら次第に自分を取り戻してゆく。
鷹也は不思議に思いながらそばにいて落ち着くまで手を握ってやるのだ。
それ以外は普通だ。たまに鷹也が子育てで間違うことがあると彩から叱られることがあっても、当初のような嫌味な感じではない。
彩は少しずつ元に戻っていった。
そんな中、彩は一日だけ約束があると2時間ほど出かけたことがあった。
鷹也はなんとも思わず鈴と遊んでいた。
帰って来た彩の顔には笑みはなく、少し暗い表情だった。
鷹也は友人と喧嘩でもしたのかもしれないとそっとしておいた。
休暇も半ばを過ぎたころ、鷹也は体の一部に違和感を感じ始めていた。
最初は気にならない程度に少ししみる感じだった。
だが徐々に違和感は増すばかり。排尿時に痛みを感じ始めたのだ。
その時は仕事の疲れが今頃出てきたのだろうと思った。
しかし毎度毎度痛みを感じるのは異常だ。
膿のようなものもでる。ヒドイ状態になってきた。
体内のどこかが炎症を起こしているのかもしれない。
このままでは夜の逢瀬に影響がでる。
しかし、彩には恥ずかしくて言えなかった。
こっそり「本屋に行く」と言って泌尿器科で診療を受けた。
その結果、医師から返って来た言葉。
「クラミジアです」
鷹也は耳を疑った。そして彩を疑った。
『浮気』の二字。彼女は自分が知らぬ間に自分以外の男に抱かれた。
しかも性病を持つような男と。
心臓が握りつぶされる思いだ。吐き気ももよおした。
あの貞淑で自分しか知らない聖女が自分以外の誰かに抱かれたなどと考えられない。
しかもその見知らぬ男の異物が入った毒の神殿に自分も何度も入り込んだ。
考えれば気が狂いそうになる。
とてつもないストレスが襲い掛かってくる。
何もしていないのに胃液が上がって来て喉を突き上げた。
「アヤ……アヤ……」
鷹也は涙を流して彩の名前を小さくつぶやいていた。




