第2話 倫理
ほとんどの虫たちは……。
我が子を見る前に死ぬ。
だから、その日、その時、その季節を一生懸命に生き、愛を結んで死ぬ。
それで満足なのだろう。
魚は、たくさんの卵を産む。
それから次の親となれるのはほんのわずかだ。
だから親は一人一人の死に悲しんではいられない。
動物はそれぞれ差があるが、一人一人が愛するものを生涯抱えたりしない。
次世代を残す為にオスは次のメスを探す。
メスは懸命に子供を育てる。
次の子孫を残す。強いものが権利を持つ。女性が権利を持つ。
愚かなオスは敗北したら子孫を残すことは許されない。
それが彼らのルールだ。本能なのだ。
今日を生き抜く為に我が子を食らったものを恨んではいられない。
明日の子孫の為に、悲しさを忘れていかなくてはいけない。
だが、人間には秩序がある。
明日を生き抜く為の秩序。
感情がある。嬉しい、楽しい、愛しい。それならばいい。
しかし悲しい、辛い、憎らしい……。
そう思わないように人々はルールを守り、少しでも他人の領域を侵さないのだ。
平和な世であれば、他人の妻や他人の夫と寝るなど許されない。
ありえない。ルール違反だ。
例えば宇宙から人類よりも強い敵が飛来し、各地を壊滅的にしたとする。残されたものは自分の夫や妻が生死不明であれば、いくら子孫を残す為とはいえ不貞をおかすだろうか?
議論が分かれるだろうが、大半の人は悲しみにくれながらもパートナーの生死を確認するだろう。
それが人間だ。
ましてや平和な世の中でパートナーを裏切るなど許されることではない。
裏切った妻を、夫は許せるわけがなかったのだ。